26 / 38
単話『これからも、ずっと』
(6/11)
しおりを挟む
夜の内に松戸から私用のスマートフォンへ送られてきた内容を出勤の為の車内で確認していた司。その充実さと言うか……松戸は千代子と会ったのは数える程しかないが彼女の好きそうな物をよく分かっていた。それとは別に大人同士のクリスマスなら、とハイクラスのレストランも押さえてある。
二人にとって特別な日、それをしっかりと想定していた。
そう言ったところがちゃんと分かるのも本家今川組の舎弟だったからこその部分もあるが、傍目からは遊んでいるように見えても日々積み重ねられている社会経験の良い部分も悪い部分も全て吸収する松戸の性質が見える。
そしてそれを松戸なりに解釈出来るまでフォローするのが芝山。
常に全体を見ている芝山の才能もとても高い。
出社をすれば今日の大まかなスケジュールに付け加えて芝山が日程調整の最終案をそっと出してくれる。
「若、無理があるようでしたら言って下さい」
「ああ、いつも有難う」
松戸も自分の執務室で朝のミーティングをしている最中でまだ司の方の部屋には顔を出していなかったがこの二人がいてくれた、いてくれるお陰で今の自分があると司は改めて思う。
会議もあればデスク業務も勿論……その間に挟まれる取引先との付き合い。横の繋がりがむやみやたらに広がりすぎないようにコントロールしてくれていたのも芝山だった。
「芝山、暮れや年明けくらいはゆっくりして欲しいんだが」
「ええ。それは……たまには家で松とサシで飲もうかと」
「そうか」
それなら二人に、と司は二人が好んでいる酒の種類も把握しているので差し入れを、と考える。
近づく年の瀬、何か取りこぼしてしまわないようにと思う程に予定が立て込んでいたがフォローされる事の多い立場に甘んじてしまわないよう私用のスマートフォンの方に千代子の両親への手土産と一筆、そして松戸と芝山への差し入れの購入予定を打ちこむ。
「若、千代子さんはお元気ですか」
芝山の伺いに司は頷く。
「ただ、そうだな……そろそろ“筋を通さなくてはならない事”が見えて来た、とでも言おうか」
司の言葉の意味をすぐに理解した芝山は少し言葉を選ぶように間を置いてから「お二人ならばきっと乗り越えられますよ」と言い切ってくれる。
生い立ちと現在、そして未来の事……司には陽のあたる道を歩んでほしいとの願いがどうか実るようにと、司の義父からも「頼んだぞ」と託されていた芝山。
幼馴染である小倉千代子と言う大切な一人の女性の為に奔走する今川司と言う一人の男の姿。考え方の鋭さなどから冷淡な男、と称される事も少なくなかったが本当はとても熱く、情のある人物だった。
だから大丈夫、きっと大丈夫ですよ、と芝山は思う。
芯の通った強い男の姿に男だって惚れる。
それに値するのが今川司だった。
「さて、仕事を片付けなければな」
「はい」
・・・
千代子にクリスマスマーケットに行ける日の候補を幾つか出した司は夜、天気予報を見ながら二人でどの日にするかを決める。
そんな何気ない時間もとても楽しかったが二人で夜のデートなど、まだ想像の範囲ではあったが楽しいに決まっていると司は確信する。
「結構混んでるみたいなんですけどたまにはそう言うのも良いかなって」
「そうだね。私も初めて行くけどちよちゃんも?」
「ええ……駅ナカとかの小さい感じのなら寄った事あるんですけど公園とか大規模なところは初めてです」
夜のデート、そしてディナー。
「食事する場所は私が決めても良い?」
「え、あ……はい、お任せします」
司が選んでくれるならどこでも、な千代子ではあったが流石にいつもより気合をいれたお洒落はした方が良さそう、と思う。人混みを歩くからヒールは……前に靴擦れを起こしてそのあと司にケアして貰ってそのまま足を掴まれて、の記憶が呼び起されてしまい履きなれた方にしよう、とパンプスだけはもう先に決めてしまう。
「ちよちゃん?」
「ひゃ、っはい!!」
どうしたの?と言う司にいつぞやの夜の事を思い出してしまっていたなど言える筈も無く。
二人にとって特別な日、それをしっかりと想定していた。
そう言ったところがちゃんと分かるのも本家今川組の舎弟だったからこその部分もあるが、傍目からは遊んでいるように見えても日々積み重ねられている社会経験の良い部分も悪い部分も全て吸収する松戸の性質が見える。
そしてそれを松戸なりに解釈出来るまでフォローするのが芝山。
常に全体を見ている芝山の才能もとても高い。
出社をすれば今日の大まかなスケジュールに付け加えて芝山が日程調整の最終案をそっと出してくれる。
「若、無理があるようでしたら言って下さい」
「ああ、いつも有難う」
松戸も自分の執務室で朝のミーティングをしている最中でまだ司の方の部屋には顔を出していなかったがこの二人がいてくれた、いてくれるお陰で今の自分があると司は改めて思う。
会議もあればデスク業務も勿論……その間に挟まれる取引先との付き合い。横の繋がりがむやみやたらに広がりすぎないようにコントロールしてくれていたのも芝山だった。
「芝山、暮れや年明けくらいはゆっくりして欲しいんだが」
「ええ。それは……たまには家で松とサシで飲もうかと」
「そうか」
それなら二人に、と司は二人が好んでいる酒の種類も把握しているので差し入れを、と考える。
近づく年の瀬、何か取りこぼしてしまわないようにと思う程に予定が立て込んでいたがフォローされる事の多い立場に甘んじてしまわないよう私用のスマートフォンの方に千代子の両親への手土産と一筆、そして松戸と芝山への差し入れの購入予定を打ちこむ。
「若、千代子さんはお元気ですか」
芝山の伺いに司は頷く。
「ただ、そうだな……そろそろ“筋を通さなくてはならない事”が見えて来た、とでも言おうか」
司の言葉の意味をすぐに理解した芝山は少し言葉を選ぶように間を置いてから「お二人ならばきっと乗り越えられますよ」と言い切ってくれる。
生い立ちと現在、そして未来の事……司には陽のあたる道を歩んでほしいとの願いがどうか実るようにと、司の義父からも「頼んだぞ」と託されていた芝山。
幼馴染である小倉千代子と言う大切な一人の女性の為に奔走する今川司と言う一人の男の姿。考え方の鋭さなどから冷淡な男、と称される事も少なくなかったが本当はとても熱く、情のある人物だった。
だから大丈夫、きっと大丈夫ですよ、と芝山は思う。
芯の通った強い男の姿に男だって惚れる。
それに値するのが今川司だった。
「さて、仕事を片付けなければな」
「はい」
・・・
千代子にクリスマスマーケットに行ける日の候補を幾つか出した司は夜、天気予報を見ながら二人でどの日にするかを決める。
そんな何気ない時間もとても楽しかったが二人で夜のデートなど、まだ想像の範囲ではあったが楽しいに決まっていると司は確信する。
「結構混んでるみたいなんですけどたまにはそう言うのも良いかなって」
「そうだね。私も初めて行くけどちよちゃんも?」
「ええ……駅ナカとかの小さい感じのなら寄った事あるんですけど公園とか大規模なところは初めてです」
夜のデート、そしてディナー。
「食事する場所は私が決めても良い?」
「え、あ……はい、お任せします」
司が選んでくれるならどこでも、な千代子ではあったが流石にいつもより気合をいれたお洒落はした方が良さそう、と思う。人混みを歩くからヒールは……前に靴擦れを起こしてそのあと司にケアして貰ってそのまま足を掴まれて、の記憶が呼び起されてしまい履きなれた方にしよう、とパンプスだけはもう先に決めてしまう。
「ちよちゃん?」
「ひゃ、っはい!!」
どうしたの?と言う司にいつぞやの夜の事を思い出してしまっていたなど言える筈も無く。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ヤクザのせいで結婚できない!
山吹
恋愛
【毎週月・木更新】
「俺ァ、あと三か月の命らしい。だから志麻――お前ェ、三か月以内に嫁に行け」
雲竜志麻は極道・雲竜組の組長を祖父に持つ女子高生。
家柄のせいで彼氏も友達もろくにいない人生を送っていた。
ある日、祖父・雲竜銀蔵が倒れる。
「死ぬ前に花嫁姿が見たい」という祖父の願いをかなえるため、見合いをすることになった志麻だが
「ヤクザの家の娘」との見合い相手は、一癖も二癖もある相手ばかりで……
はたして雲竜志麻は、三か月以内に運命に相手に巡り合えるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる