10 / 40
単話『千代子と司の週末』
(1/6)
しおりを挟む
人それぞれに愛情を示す行動が違うように、千代子は日々忙しい司の体調を考慮してバランスの良い食事になるように心がけていた。それでもたまにはお惣菜だし、気になっていたミールキットの通販も使う。
在宅の仕事をしながら合間を見て掃除をしたり、お休みの日はごろごろだってする千代子と休日すらまるで隙を見せない完璧な恋人――司の姿が千代子にとっては少し心配だった。
忙しいのは分かっている。
休日でも半日、書斎に籠って仕事をしていたり……いつか、精神的に酷く疲れていた司が自分の体を乱暴に扱ってしまいそうになった時の事を千代子は思い出してしまった。
(怖かったけど……それでも司さんは謝ってくれて)
何となく、経験則から来る勘と言うものが働いている。
これはあの時と同じ状況になっていないだろうか。
二度、同じ轍は踏まない司だとしてもフラストレーションを溜めてしまうのは体に良くない。
そろそろどこかで気を緩めて欲しいと思う。
芝山が気を使って、と言うかやはり放っておくとオーバーワークになってしまう司の事を考えて土日は確実に家にいるよう、仕事が残っている場合は自宅から行えるようにしてくれているけれど……彼は仕事をしていることに違いはない。
芝山の思いを汲めば家にさえいてくれれば千代子が三食、いつでも食べられる軽食も用意してくれているし、オフィスではない人の出入りの無い静かな場所なら気も少しは緩むだろうとの配慮だったが千代子にとってはやはり、心配で。
「ちよちゃん?」
リビングのソファーに座って険しい顔をしてスマートフォンとにらめっこをしている千代子に気が付いた風呂上りの司。
いつもと変わらない寝間着のワンピースにふかふかのルームシューズ、髪はクリップで緩く纏めあげられて首回りがすっきりとしている。
「司さんはいつでも完璧なので……お休みの時に何か、と考えていたんですけど私では何も考え付かなくて」
考えすぎて少し悲しくなっていた千代子は正直に「司さん、オーバーワーク気味です」と伝える。
その言葉の意味を心を病みそうになるくらい悔やんだ事のある司はじっと自分を見つめてくる千代子から目を逸らしそうになり、思いとどまる。
以前の――ひとりぼっちだった千代子がそうであったように、心身を不調にさせてしまうのは良くない。真剣に心配をしてくれているその眼差しに司は「気分転換となると……どこか出掛けようか」と最近あまり行っていなかった千代子の好きな大きな公園にピクニックに行こうかと逆に提案してしまう。そんな司の姿に少し悩んでから千代子は首を横に振った。
「前にも家の中で何か、と考えていたんですけど」
視線を下げた千代子はスマートフォンの中に表示されていた雑誌のページに目を留める。
流行りのオーガニックのボディケアブランドのマッサージジェルの特集。
パートナーとのスキンシップの時間にも、と紹介記事には言葉が添えられており、おいそれと人前に素肌を晒す事が出来ない司と二人で過ごす休日にこれは良いかもしれない、と千代子は「いいこと思いつきました」と心配そうな表情から一転して表情がぱっと明るくなる。
千代子が嬉しそうならそれで良い司は「楽しみにしてても?」と問いかける。
「もちろんです。明日は昼から少し、買い物に行ってきますね」
「ああ」
巨大な組織解体も順調に進んでいる。セキュリティタグももう持たせていなかったがスーパーや周辺のドラッグストアなどを回る以外に、都心の人混みに出掛ける際には千代子自ら、予定をきちんと伝えていた。
在宅の仕事をしながら合間を見て掃除をしたり、お休みの日はごろごろだってする千代子と休日すらまるで隙を見せない完璧な恋人――司の姿が千代子にとっては少し心配だった。
忙しいのは分かっている。
休日でも半日、書斎に籠って仕事をしていたり……いつか、精神的に酷く疲れていた司が自分の体を乱暴に扱ってしまいそうになった時の事を千代子は思い出してしまった。
(怖かったけど……それでも司さんは謝ってくれて)
何となく、経験則から来る勘と言うものが働いている。
これはあの時と同じ状況になっていないだろうか。
二度、同じ轍は踏まない司だとしてもフラストレーションを溜めてしまうのは体に良くない。
そろそろどこかで気を緩めて欲しいと思う。
芝山が気を使って、と言うかやはり放っておくとオーバーワークになってしまう司の事を考えて土日は確実に家にいるよう、仕事が残っている場合は自宅から行えるようにしてくれているけれど……彼は仕事をしていることに違いはない。
芝山の思いを汲めば家にさえいてくれれば千代子が三食、いつでも食べられる軽食も用意してくれているし、オフィスではない人の出入りの無い静かな場所なら気も少しは緩むだろうとの配慮だったが千代子にとってはやはり、心配で。
「ちよちゃん?」
リビングのソファーに座って険しい顔をしてスマートフォンとにらめっこをしている千代子に気が付いた風呂上りの司。
いつもと変わらない寝間着のワンピースにふかふかのルームシューズ、髪はクリップで緩く纏めあげられて首回りがすっきりとしている。
「司さんはいつでも完璧なので……お休みの時に何か、と考えていたんですけど私では何も考え付かなくて」
考えすぎて少し悲しくなっていた千代子は正直に「司さん、オーバーワーク気味です」と伝える。
その言葉の意味を心を病みそうになるくらい悔やんだ事のある司はじっと自分を見つめてくる千代子から目を逸らしそうになり、思いとどまる。
以前の――ひとりぼっちだった千代子がそうであったように、心身を不調にさせてしまうのは良くない。真剣に心配をしてくれているその眼差しに司は「気分転換となると……どこか出掛けようか」と最近あまり行っていなかった千代子の好きな大きな公園にピクニックに行こうかと逆に提案してしまう。そんな司の姿に少し悩んでから千代子は首を横に振った。
「前にも家の中で何か、と考えていたんですけど」
視線を下げた千代子はスマートフォンの中に表示されていた雑誌のページに目を留める。
流行りのオーガニックのボディケアブランドのマッサージジェルの特集。
パートナーとのスキンシップの時間にも、と紹介記事には言葉が添えられており、おいそれと人前に素肌を晒す事が出来ない司と二人で過ごす休日にこれは良いかもしれない、と千代子は「いいこと思いつきました」と心配そうな表情から一転して表情がぱっと明るくなる。
千代子が嬉しそうならそれで良い司は「楽しみにしてても?」と問いかける。
「もちろんです。明日は昼から少し、買い物に行ってきますね」
「ああ」
巨大な組織解体も順調に進んでいる。セキュリティタグももう持たせていなかったがスーパーや周辺のドラッグストアなどを回る以外に、都心の人混みに出掛ける際には千代子自ら、予定をきちんと伝えていた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる