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最終章 サウード夫妻よ永遠に
第37話 来客
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「彼女たち?」
アリスはのんきに首を傾げた。一日を終えてやや気が抜けている。相反してピエールは急いでいる様子で話続ける。
「はい。今回は四人女性を呼んでおります。もう屋敷の前まで来たそうです」
「あら、本当に早速ですね」
この辺境の土地まで、ずいぶんと早く辿り着いたものだ。実は近所の人なのか? いろいろ考えぼうっと立っていると、玄関ホールの方から来客を知らせるベルの音が聞こえた。
「ちょっとピエール~? いないの~?」
ベルと同じ方向から、女性の声が飛んできた。ピエールを呼び捨てにできる人物はこの家にはウィリアムしかいない。女性は、領主である夫と同じ身分以上の貴族なのだろうか? やっとアリスのスイッチが入って背筋が伸びる。
「私は行かなくては。アリス奥様、ウィリアム様とお支度を済ませて応接室にお越しください!」
「はい!」
一礼しホールへと走り去るピエール。アリスも慌てて談話室でのんびりソファに座る夫に駆け寄った。
「ウィル、お客様よ! 支度しましょう!」
「え、客? 僕はローブ着るからこれでいいよね?」
「ダメよ、それ仕事用の作業着よね? 早く着替えてちょうだい!」
「わ、わかったよ~」
その場でローブを羽織ろうとしたウィルを睨み、一蹴する。彼は肩をビクつかせその勢いのままソファを立った。アリスは彼を連れ衣装部屋に走った。
「着替え完了。行きましょうか、ウィル」
「うん……」
「大丈夫よ。あなたも知っている人みたいだし」
着替えを済ませ面倒そうに肩を落とすウィリアムを宥めながら、ピエールに言われた通り応接室に向かう。夫はまるで足を引きずるようにゆっくりと歩き、明らかに時間稼ぎをしている。アリスは彼から手を離し腰に手を当てた。
「どうしたの? こんな時間稼ぎのようなことをして」
「あまり気がすすまなくて」
「もう、私がお願いしてピエールさんが呼んでくれた人たちよ。お会いしてきちんとご挨拶しなくてはいけないわ」
「こんな時間に彼女たちと会うのは疲れる。とにかくめんどくさい人たちなんだ」
ウィリアムは気だるそうに肩で息をしてアリスに抱きつく。首に顔を埋め、大きく深呼吸。愛しの妻を補給している。
「お願いアリス、約束して。今日は挨拶だけで、本格的に話すのは明日にして」
「ウィル……。わかったわ、確かに今日はもう遅いしね。あちらも急に来ていただいてお疲れでしょうし」
アリスは肩をすくめクスリとわらうと、再び夫の手を引き歩きだした。背後から彼の呟く声が耳に入る。
「疲れてるもんか。あの人たちはそんな可愛いものじゃないんだ」
応接室に着き、アリスはドアをノックした。すぐに中にいたピエールが出迎えてくれ、入室を促される。さすがに家の中で手を繋いでいるのを見られるのは恥ずかしかったので手を離そうとした。だがウィリアムがしっかりと手に力を入れていたので諦めることに。
「失礼いたします。お待たせして申し訳ありません」
「いいのいいの~! 待ってたよ!」
部屋に入りすぐに頭を下げるアリス。返ってきた軽快な口調は、先ほど玄関から聞こえた声に似ていた。ソファに座って片手を上げている女性がその人物だろう。アリスはあの女を見て肌や髪の色は違うが母国の教会にあった肖像画の天使のようだと思った。
「こらアイシャ! 初対面でなれなれしくしないの!」
今度は天使様の隣に座る女性が彼女を叱っている。緩くウエーブがかかった長い髪が印象的な美人だ。片目が前髪で隠れているのもまた神秘的で、まるで女神様のよう。彼女は席を立ち、アリスを見つめるとにっこりと優しく微笑んだ。
「初めまして。私はミライ・エル・シャラマン。先日までここに滞在していたファハド・アル・シャラマンの第一夫人です」
笑顔を崩さず挨拶する女神様。彼女の放った言葉の情報量に、アリスは立ち尽くし笑顔を返すしかなかった。
>>続く
アリスはのんきに首を傾げた。一日を終えてやや気が抜けている。相反してピエールは急いでいる様子で話続ける。
「はい。今回は四人女性を呼んでおります。もう屋敷の前まで来たそうです」
「あら、本当に早速ですね」
この辺境の土地まで、ずいぶんと早く辿り着いたものだ。実は近所の人なのか? いろいろ考えぼうっと立っていると、玄関ホールの方から来客を知らせるベルの音が聞こえた。
「ちょっとピエール~? いないの~?」
ベルと同じ方向から、女性の声が飛んできた。ピエールを呼び捨てにできる人物はこの家にはウィリアムしかいない。女性は、領主である夫と同じ身分以上の貴族なのだろうか? やっとアリスのスイッチが入って背筋が伸びる。
「私は行かなくては。アリス奥様、ウィリアム様とお支度を済ませて応接室にお越しください!」
「はい!」
一礼しホールへと走り去るピエール。アリスも慌てて談話室でのんびりソファに座る夫に駆け寄った。
「ウィル、お客様よ! 支度しましょう!」
「え、客? 僕はローブ着るからこれでいいよね?」
「ダメよ、それ仕事用の作業着よね? 早く着替えてちょうだい!」
「わ、わかったよ~」
その場でローブを羽織ろうとしたウィルを睨み、一蹴する。彼は肩をビクつかせその勢いのままソファを立った。アリスは彼を連れ衣装部屋に走った。
「着替え完了。行きましょうか、ウィル」
「うん……」
「大丈夫よ。あなたも知っている人みたいだし」
着替えを済ませ面倒そうに肩を落とすウィリアムを宥めながら、ピエールに言われた通り応接室に向かう。夫はまるで足を引きずるようにゆっくりと歩き、明らかに時間稼ぎをしている。アリスは彼から手を離し腰に手を当てた。
「どうしたの? こんな時間稼ぎのようなことをして」
「あまり気がすすまなくて」
「もう、私がお願いしてピエールさんが呼んでくれた人たちよ。お会いしてきちんとご挨拶しなくてはいけないわ」
「こんな時間に彼女たちと会うのは疲れる。とにかくめんどくさい人たちなんだ」
ウィリアムは気だるそうに肩で息をしてアリスに抱きつく。首に顔を埋め、大きく深呼吸。愛しの妻を補給している。
「お願いアリス、約束して。今日は挨拶だけで、本格的に話すのは明日にして」
「ウィル……。わかったわ、確かに今日はもう遅いしね。あちらも急に来ていただいてお疲れでしょうし」
アリスは肩をすくめクスリとわらうと、再び夫の手を引き歩きだした。背後から彼の呟く声が耳に入る。
「疲れてるもんか。あの人たちはそんな可愛いものじゃないんだ」
応接室に着き、アリスはドアをノックした。すぐに中にいたピエールが出迎えてくれ、入室を促される。さすがに家の中で手を繋いでいるのを見られるのは恥ずかしかったので手を離そうとした。だがウィリアムがしっかりと手に力を入れていたので諦めることに。
「失礼いたします。お待たせして申し訳ありません」
「いいのいいの~! 待ってたよ!」
部屋に入りすぐに頭を下げるアリス。返ってきた軽快な口調は、先ほど玄関から聞こえた声に似ていた。ソファに座って片手を上げている女性がその人物だろう。アリスはあの女を見て肌や髪の色は違うが母国の教会にあった肖像画の天使のようだと思った。
「こらアイシャ! 初対面でなれなれしくしないの!」
今度は天使様の隣に座る女性が彼女を叱っている。緩くウエーブがかかった長い髪が印象的な美人だ。片目が前髪で隠れているのもまた神秘的で、まるで女神様のよう。彼女は席を立ち、アリスを見つめるとにっこりと優しく微笑んだ。
「初めまして。私はミライ・エル・シャラマン。先日までここに滞在していたファハド・アル・シャラマンの第一夫人です」
笑顔を崩さず挨拶する女神様。彼女の放った言葉の情報量に、アリスは立ち尽くし笑顔を返すしかなかった。
>>続く
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