麗しのマリリン

松浦どれみ

文字の大きさ
上 下
13 / 32
5月

5−1彼の日記4

しおりを挟む
※※五月初旬、彼の日記より抜粋

 ゴールデンウィーク前半を終えて、登校する彼の足取りは軽かった。

 連休の中日など、休んでそのまま後半の連休と繋げてしまいたいものだが、彼にはとっては違った。

 それは連休前の席替えが影響している。

 遠くから耳を澄ませて彼女の声を聞き分け、彼は自分が持っていたくじを見つめた。

 そして、誰にも見られないよう机の下で小さく拳を握った。ここまでくじ運がよかったことには驚いた。

 先日から確実に彼女との距離が縮まってきている。

 ここまで何年も遠回りしてしまったことを考えると、入学後の急展開は彼自身予想外だった。

 しかし、ここで自惚れてはいけない、焦ってもいけない。

 ひとまず夏休みまで、じっくりと彼女との関係を育んでいくんだ。

 彼は珍しく口元を緩ませながら、学校に到着した。

 席を離れ友人たちと談笑している彼女を尻目に自分の席に着く。

 陽の光が、彼女の薄茶色の美しい髪の毛と瞳を、ほんのり赤らんだ頬を、白い肌を照らす。窓から流れる柔らかな風は、彼女の髪をふわりと揺らした。

 名指しで挨拶され、その姿が自分だけに向けられたと彼が自惚れるのも仕方がなかった。以前の彼女を知らないが、少なくとも入学してからは、教室で彼女のあんな笑顔は見たことがなかったから。

 席替えで彼女は彼の前の席に座ることになった。

 それ以来、彼は天気が良い日に、陽の光で輝く彼女の髪の毛を見つめるのが楽しみとなっていた。

 隣の席は彼女の友人で、おそらく彼の視線や感情に気づいているが気づかないふりをしてくれている。

 休み時間には彼女が振り返り本の話をしてくる。

 少しずつ、彼女との距離が縮んでいく感覚が、彼にとっては幸せだった。

 冷めきっていた自分の心が温まり、胸の鼓動を感じるたびに、その熱が全身に伝わっていく感覚。

 自分は生きていても良いのかと、前を向いて良いのかと、彼は自分の人生に希望を見出しかけている。

 彼にとって彼女は、真っ暗になってしまっていた心に宿った、たった一つの光だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

足を踏み出して

示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。 一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。 そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。 それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

ファンファーレ!

ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡ 高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。 友情・恋愛・行事・学業…。 今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。 主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。 誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

壺花

戸笠耕一
青春
唐橋近美は京都にある堂上学園に合格し、四月から高校一年生になる。外部の生徒として最初は疎外感を感じつつも、清水谷榮子と同じ寮室で生活をしていくうちになじんでいく。ある日、榮子を敵対視する山科結衣が近美に興味を持ち始める。学生時代という少女たちは壺に収まった花。6つの若き花が織りなす青春ストーリー。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...