刷り込まれた記憶 ~性奴隷だった俺

希京

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勢力図

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この時間は夜中なのか明け方なのかよくわからない、始発前のうっすら明るい時間。
酔っぱらいをターゲットに、どこからともなく女があらわれては違法風俗へ誘う。下手な日本語でどこの出身かはわからないがあちこちでやりとりしているのが聞こえる。

世の中いろんな性癖がある。風俗業界が性犯罪を減少させているとは思わないが需要があれば供給する。その程度の倫理観で新川成斗は男同士の風俗店を経営していた。もちろんどこにも届け出は出していないし現行の法律では必要性もない。違法といわれるなら経営者が暴力団組員というところか。先細りする業界だが完全に消えてはいない。
裏社会の最後の徒花、それでいいと新川は思う。兄弟分だった双竜会の後藤剛士が逮捕された時、心のストッパーが外れた。正業を営んでいてもなにかあればすぐに難癖つけて引っ張る警察のやり方に今度こそは逆らおうと思った。

「ナリトお、がまんできないよ、クスリちょーだい」
コンクリートむき出しの壁、廃ビルに近いここに一人がけの皮のソファを置いて「商品」を眺めながら座っている新川成斗の足に縋り付いている若い青年。
「商品」はガラスの壁の向こうに全裸で集められていた。何もない部屋で全員うつろな顔をしてだるそうに座っている。

「なに、せっかく身請けしてもらったのにどうして戻ってきたの。また商品になりたいの?」
人当たりの良さそうな顔をした新川は自分の足にまとわりついている青年の頭を優しく撫でた。
年寄りばかりの上層部の中、新川はまだ30代だった。事務所にも滅多に顔は出さない。いつもラフな格好に軍仕様のコートを羽織って武装を隠している。外道といわれるほとんどのやり方で稼いでいるので忌み嫌われているが生きていくには金がいる。

正業で隣街に溶け込もうとした兄貴分の古川は水森という男が死んで足場を失い計画が頓挫したと聞いている。そんな仕事、別に看板背負わなくても出来るだろう。自分がやっている非合法なシノギこそ組の後ろ盾が必要だが、その組もいつまで持つか。
「だってあのおじさん、クスリくれなくなったんだもん。僕もう我慢できないよ。アレがないと…ぼくは…」
新川はノンケな青年を捕まえて薬漬けにして無理やり商品に仕立て上げて男の相手をさせていた。本物のゲイは仕事としてはやりたがらない。ただでさえ少ない商品を無理やり稼働させるには薬漬けにするのが手っ取り早かった。

「クスリは高いからねえ。お前を買い取った時も億の金を払っていったから、さすがに金欠なんだろう」
「そんなの知らないよ!ねえクスリちょうだい」
「お前金持ってるの?」
「……」
ないだろうな。着の身着のままここまでやってきた。

「社長、お客さんです」
受付をやらせている組員が部屋に入ってくる。声のほうへ目を向けると常連の男が挨拶もそこそこガラスの向こうの商品を品定めしていた。
「僕がやる。仕事させて、だから…」
「お前はもう商品じゃないだろう。帰れ。クレーム入れられるのは困る」
新川はわざと冷たく突き放す。ヤク中はどんな手を使ってもクスリを手に入れようとする。こちらから提示しなくてもクスリ欲しさに勝手に仕事に戻ってくる。今いる連中もそんな感じだった。

まあ、そう仕向けたのは俺なんだけどな。

「腕出せ」
すぐ脇にある小さなテーブルの上にある注射器を手に取る。青年の表情が輝いた。やれやれ、ここまで調教するのに苦労した。重度のシャブ中のこいつは血管に直接流さないともう効かない体になっていた。
「ああ…」
苦悶の表情が一変悦楽に変わっていく。すべてを打ち尽くして注射針を抜く。そのころには青年にがっつりキマっていた。
でもまあ、そろそろ限界かもな。

「お客さん、うちの元ナンバー1です。今夜はこの子でどうです?」
「え?いいの?」
客の顔がだらしなく緩む。この青年は女性っぽい愛嬌のある子で人気が高かったので高額を提示した客を優先に相手をさせていた。その上物をすすめられて酔っぱらいの顔は崩れに崩れた。
「あー…、いい。ふわふわするう……」
新川の膝にもたれてへらへら笑っている青年を部下に起こさせる。すでに勃起していた。量ちょっと多かったかな。まあいいや。どのみちもう持たないだろう。

上の階にはベッドだけ置いた簡素な部屋がいくつかある。ラブホテルのように小綺麗な部屋ではない。本当にやるためだけの部屋。客と商品の様子はモニターで監視している。

「こいつもう股開いてやがる」
頬杖をついて新川がため息をつく。仕事なんだからもう少しなにかしろよと思ったがキメセクをしたいだけの人間には無理な注文だった。

酔客は服を脱ぎ捨ててだらしのない裸体を恥ずかしげもなくさらす。こんな中年豚野郎に犯されるっていうのに青年は待ちきれないという感じで客を誘う。
『早くぅ、アナルに突っ込んでえ…!もお我慢できないのお!だから逃げてきちゃったあえへへ!ここ入れてグチョグチョにして!』
新川は頭を抱え、組員はなんとなくモニターから目をそらす。ここまで来ると狂人だ。そう仕向けたのは新川なのだが。
「俺だってこんな事したくねえよ」
後藤が逮捕されるまでは踏みとどまっていた。一緒に起業しようと誘われてから数年。あともう少しの所だったのに。
「死ねと言われてはいわかりましたって言うと思うか?どこまででも汚く稼いでやるよ。それが俺たちの存在意義だろうが」
『あああ・・・!ああやあんすごおいぃ!!太くて固いよおお気持ちいいいチンコ気持ちいいよおお!!!ああんイッちゃううう!!!』
安いパイプベッドに捕まりながら青年は卑猥な声をあげて腰をふっている。後ろから突かれてよがっているその顔にはもう理性はない。脳がブッ飛んで全身から汗を吹き出している。

「社長、お客様です」
またひとり部下が客を連れてきた。新川はさり気なくイヤホンを取り出して音量を下げた。

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