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狂乱

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『あっ、あ!やあっ…ん!!そこえぐってえ!!やあんっ!!』
イヤホンから漏れてくる声に新規の客がぎょっとした顔をしている。新川はさらに音量を下げた。

「えー、どの子を指名されますか?」
黒スーツ姿の部下が丁寧にシステムを説明している。普通の会社員でもよかったんじゃないか?どうしてこんな稼業に足を突っ込んだのかわからない人間がたまにいる。「新川の兄貴だって、何をやっても成功してると思いますよ」とたまに言われるが、流れ着いたのがここだった。

「あの子がいいな。8番の子」
全員胸に番号を書いたプレートを首からさげている。客はそれを見て気に入った子を指名してもらう。
酒などのサービスはない。もう朝方(?)だ。泥酔客しかやってこない。

階段を登るコツコツという足音を聞きながら新川はまたモニターを見たが相変わらずの光景だった。もうひとつのモニターの電源を入れて、さっき上に向かった客の部屋を写す。

部下に連れられて入ってきた商品の青年も、新川が薬漬けにして拉致してきた人間だった。今もふらりと部屋に入り力なくベッドに座る。うつろな目には何も写っていない。
『…おじさん、だれ?』
ここまでくると接客を期待しない。泥酔客の性欲を発散させて始発までの時間つぶしの相手、それくらいに思っている。おじさんも嘘っぽい愛想笑いなんかどうでもいいだろう。

足開いて穴に突っ込むことができれば上出来。
『…っ…あああ!…や…あぁ…んっ……!』
そして聞こえてくる喘ぎ声。マグロじゃなければもう何でもいいよ。新川が遠い目をする。
右と左からふたりのヤク中の声が響く。うんざりしてイヤホンのコードを引き抜くと部屋中に男の卑猥な声が響いて部下の組員がぎょっとした。

「なんだお前ら!これくらいでビビんなよ!」
『やだああっ、もっともっと突いてえん…んんっ!!ぼく壊れる!こわれりゅうううっっ!!!』
『…あん…、すごっ…もっと奥…ほし…い……』
頭おかしくなりそうだ。いや、こいつらはおかしいんだが。

『えっとお、中に出してもいいんだっけ?男だもんねえ。ほらあもっと声出して』
客まで調子に乗ってアホなことを言っている。見てんだぞ。
「お前らも監視おこたるなよ。トラブル起きたらすぐ対応だ」
オーバードーズで死ぬ可能性もある。客が興奮して倒錯行為をしてしまう時だってある。そのための監視で趣味で覗いているわけではない。
「今日は人少ないのか?誰かいそうならキャッチ行ってこい」
「はい!」
ひとりが部屋から出ていく。ガラスの向こう側の商品たちはぼんやりしておとなしい。

モニター越しの部屋は狂気に満ちている。
『ああ!イッちゃう!!僕のおしり壊れちゃうううっっ!!』
目を離した隙に絶頂に達したのか裸体に白い液体が大量にかかっている。自分のものなのか客のものか、それとも両方か。楽しそうでなにより。
贅肉たっぷりのおじさんに足を絡ませて青年は卑猥な言葉を吐き続ける。それに興奮した客の腰の動きはさらに激しくなる。
『もお、おじさんギブアップ?じゃあ僕の見てて。自分でするね、ほらこんなに勃ってるう、すごいでしょお』
青年は自分で足を大きく開いて自分のモノを握ってこすりだした。
「おい、お客さんに謝ってご退出願え」
突っ立っている部下に声をかけてモニターを指差した。事がすめばシャワーに案内して終わり。値段は安く設定しているのでサービスの悪さは文句を言わないでほしい。

まあクレームがきたことはないが。

『あ…ああ…ん…、気持ちい…止まらないよお…おクスリセックスさいこお……』
駆け込んできた青年はまだひとりでオナニーしている。せっかく身請けしてもらったのにクスリ欲しさに戻ってくるなんて馬鹿だな。
そうしたのは俺だけどな。ごめんな。

後藤のやつ、どうして下手うったんだ。
こんな稼業やめて真っ当な商売しようって約束したのに。
あいつがいないなら何の遠慮もない。清水組が街一ついただく。

「…ん…?おとこのこ…?」
またひとり酔客がやってきた。どう説明されたのか商品を見て少し戸惑っている。
まあ歩いている人に「あなたはゲイですか?」とは聞けないし。

「男の子ですが女のそれより締りがよくて気持ちいいですよ。見た目も可愛い子ばかりですし。どうです?」
今は全裸で展示しているが明日から女装させたりしてもいいな。
客がきょろきょろと見ていると中の男がひとり、ひらりと手をふってにっこり笑った。つられて客も手をふる。午前3時、こんな時間まで飲んでいてまともな判断能力がある酔っぱらいはいない。

「ちゃんと仕事したら抱いてやる」と言い聞かせてある子は新川の言いなりの操り人形だった。
反応の薄い子はクスリ漬けで動くのが億劫で自分の現状が理解できる脳が残っていない連中。だがクスリとセックスはやりたがる。
一度教え込んでしまえば後は勝手に男をくわえ込む。そうなると楽だ。
部下の組員たちはしんどそうだった。悪かったな。でも儲かるんだよ。嫌なら女使ってやれよ。すぐ捕まるぞ。

ソファから立ち上がって新川は2階に登っていく。服の金具やブーツがガチャガチャ音を立てる。優しそうな顔だが武闘派の男は古風な匂いを残しつつ時代に合うように独自に進化した。

「新川さあん…っ、僕を犯して。まだ足りないのお……」
「抱いてほしいの?」
「うん!さっきの人小さくてさあ全然ダ…」
「おい!客の文句言ってんじゃねえよ。お前はタダの商品なんだ。黙ってこっちにケツ向けろ!」
「はぁい」
新川が恫喝しても青年は怯えもせず、むしろ嬉しそうにうつ伏せになった。

「ああ…、新川さんのが入ってきたぁ……おっきい…」
「うるせえな」
「あん……」
生意気な雌豚を強く突くと甘えたような声を出した。

そりゃ普通の人間よりは立派かもな。それで食ってるようなもんだ。
でも俺、ホントはタチじゃないんだよねえ。
「ああ…成斗…、なりと……」
青年は恋人ごっこをしていた時に呼んでいた新川の名前を呼びながら悦んでいた。

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