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聖女の微笑み

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早々に説明を兄に任されたロザリアは内心苦笑しながら、説明を始める。

「実は、我々ライド商会は数年前からワイルドピッグの生態ついて調査をし、近年の気温の安定により森や山、近隣の農家の作物が豊作になっていることから、餌が豊富となり、ワイルドピッグの増加に繋がったと報告を受けました。
数が増えれば、縄張り争いが生まれる。そして、縄張り争いに敗れた個体が農村地に降りて来る。これが、近年のワイルドピッグの被害の真相です」
「なるほど・・・・・・」
「ですので、我々ライド商会は体に害の少ない特殊な睡眠薬を作り出し、ワイルドピッグの生息地にばら撒き、ワイルドピッグを眠らせ、生態系が崩れない程度の数を間引きをし、間引いたワイルドピッグをロロビア王国の北の海に浮かぶ島へ運び、その島でのんびりと暮らして貰っています」

ロザリアの話に思わず顔を見合わせてしまう伯爵と子爵。

言うだけならば簡単だ。
だが、発言するのと実現するのは大きく違う。

あの巨大な野豚を薬で眠らせ、間引き、更に間引いたワイルドピッグを島に運ぶだなんて、普通では考え付いても実行に移そうとは思えないものだ。

「周り海に囲まれておる孤島ですので、逃亡の心配もありません。
島ではワイルドピッグにストレスを与えない様に島民は飼育員の10名のみ。ワイルドピッグが食べる為の畑や森があり、ワイルドピッグ達は放牧でのびのびと暮らし、これによりワイルドピッグの縄張り争いによるストレスも無くなり、理想の肉質へと近づけます」

一字一句はっきりと説明をするロザリア。

「あ、あの質問をよろしいでしょうかロザリア様」
「はい、なんでしょう、サマンド子爵様」
「あの、質問をしたい事はたくさんあるのですけど、まず島と言うのは一体?」
「私がお父様におねだりをして買って貰った島ですわ。
お父様のお任せで島を選んで貰ったのですが、森が豊かで木の実やキノコや山菜が豊富ないい島ですの。ただ、周りの海の潮が激しく岩礁も多いので、波が収まる月に一回ほどしか島に渡れないのが唯一の難点ですけど」

ニッコリとあどけない笑顔を見せるロザリア。

「あ・・・・、そ、そうですか・・・。その、飼育員と言うのは?」
「これもワイルドピッグにストレスを与えない為に配慮ですわ。あまり多くの人がいるとまたストレスが溜まってしまいますので。
主に、ワイルドピッグ達のお世話とワイルドピッグ達が食べる穀物の畑のお世話などを任せています」
「そ、そうですか・・・・」
「はい、おかげでストレスも無く、豊富な森の恵みと特別に栽培している穀物を餌にワイルドピッグ達はここまで美味しいお肉になりました」
「ほう、特別な穀物と、それはまた興味深いですね」
「はい、更に解体時に出るワイルドピッグの脂や毛皮、骨や蹄も新たなる可能性がある事が判明しました」
「新たなる可能性?ですか??」
「はい!!ストレスが少なく特別な穀物を餌に育ったワイルドピッグの脂は臭みが少なく、精製すれば純度の高いラード油、香油として扱う事が出来ます。
また硬くて分厚い毛皮は保温効果に大変優れており、北国への輸出も考えていますの。
骨と蹄も乾燥させ砕けば良き肥料に、加工品にも重宝され、その可能性はまだまだ有ります」
「ッ、」
「・・・・・」

ロザリアの話に思わず生唾を飲み込グルマン伯爵とサマンド子爵。
今まで、害獣として持て余し、食としてあまり価値の無い野豚がまさかここまでの経済効果を齎すなど考えた事もなかった。

聞けば聞くほどこれ以上おいしい話は無い。
上手くいけば、本当に一財産築けるほどの大当たりになるやも知れない。
何よりも相手はアークライド公爵家が運営する天下のライド商会。

話を断り、ライド商会を無碍にしては、この国で生きる事は難しい。

「いやぁ!!素晴らしい!!是非我がグルマン伯爵家も協力させて頂きたい」
「サマンド子爵家にも出来る事があるのなら・・・・是非お力にならせて頂きたいです」

乗らない手は無い。

「ありがとうございます。グルマン伯爵様。サマンド子爵様」

グルマン伯爵とサマンド子爵の実質、承諾の返事にロザリアは嬉しそうに、まさに聖女のような笑顔で喜ぶ。

「ッ、いえ、こちらこそ、」
「お役に立てる様に、尽力させて頂きます」

ロザリアの笑顔に年甲斐も無く、顔を赤めてしまうグルマン伯爵とサマンド子爵だった。

「お、話は纏まったか?」
「もう、本来ならお兄様がお話すべき事だと思いますけど?」

未だに顔を赤らめる伯爵と子爵をよそに、早々に妹に説明を丸投げした兄に呆れながら睨むと、

「まあ、そう言うな」

兄は笑ってはぐらかす。

「お二方、詳しい詳細はまた後日別の場所に場を設け説明を致しますので、今日はこのパーティーを楽しんで下さい」
「は、はい」
「ありがとうございます。アレックス様。ロザリア様」
「はい、では、私はこれで」

ロザリアは姿勢を正し、兄と伯爵、子爵に礼儀正しくお辞儀をする。

「ああ、楽しんでおいで。ロゼ」
「はい、お兄様も」

アレックスはヒラヒラと手を振り、微笑む、我が妹を見送る。
すると、ロザリアが少し歩いたところで、数人の若い男性に囲まれ、次々とダンスの誘いを受けている。
ロザリアは少し困った様に微笑みながら、1人の男性の手を取り、ダンスホールの中央で踊り始める。
相手の男性は見た目は背が高く好青年と言った雰囲気だ。
少々癪ではあるが、我が妹と踊る姿は中々絵になる。

「あれは、確かマルシュス公爵の三男坊だったと」
「ええ、では、あの噂はあながち、」
「ん?お二方、何かご存じで?」
「ああ、いえ、些細な噂なのですが、どうもマルシュス公爵家の三男坊が離縁したロザリア様に好意を寄せておられると言う噂が」
「聞いたところでは、マルシュス公爵は、ロザリア様を三男坊の妻に迎えて、アークライド公爵家と関係を持ちたいとの事でして、結構躍起になっていると、最近貴族の間で出回っている噂が流れておりまして」
「いや、そうで無くとも、まだまだ若く美しいロザリア様が10歳歳上の夫と離縁したことで今は、フリー・・・・・狙っている輩は、多いでしょうなぁ」
「・・・・・ほー、それは、それは」

伯爵と子爵の話を聞いてアレックスは優雅にダンスを踊る妹を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。



「ダ、ダンスがお上手ですね。ロザリア様」
「フィリップ様のリードが素晴らしいからですわ」

優雅なワルツに音色に合わせステップを踏むロザリアとフィリップ。
顔を照れて赤らめるフィリップに対し、ロザリアはそんなフィリップを微笑ましそうに笑っている。

「あ、あの、ロザリア様」
「はい、フィリップ様」
「この後、少しだけ、少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・はい」

顔を赤め真剣な目で告げるフィリップにロザリアはニッコリと微笑みながら答えた。
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