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アークライド公爵家兄妹

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「そう言えば、ある小さな酪農家で豚に麦酒を与えると豚肉が柔らかくなったと聞いた事が、もしかし、それを?」
「ですが、あの方法はコストがかかる上に、与える量によっては肉に苦味が着くと報告がありましたぞ?」

食にこだわりを持つグルマン伯爵とサマンド子爵は新たな食のビジネスに積極的だ。

「いや、それ以前に、ワイルドピッグを家畜化が出来るものなのですか?ワイルドピッグは悪食でなんでも喰らい付く上に時には人をも襲う程凶暴で、体も成体では3メートルをも超える個体も多い。余程強固な檻が無ければ家畜化は難しいかと」

サマンド子爵は領地は小さいが、自分の領地で農業農家や生産農家を持っている。
農家を運営するサマンド子爵はワイルドピッグの扱いの難しさに難しい表情をする。

体が巨大で、悪食で凶暴。
家畜化をしようと生半可な柵で子豚を囲んでは、成体になったワイルドピッグにあっという間に破壊、脱走され、最悪、近隣の農家への大きな被害が目に見えている。
そのくらい、ワイルドピッグの家畜化は難しい。
強固な柵と檻と逃走防止の見張りが有れば、可能だろうが、何よりも、ワイルドピッグの肉の味は大ぶりで脂身が臭う。コストに全く見合わない。

「そんなに難しいお顔をなさらないでください、サマンド子爵様」
「そうですぞ、子爵殿。それにここは、説明会ではなく、ライド商会の御披露目パーティーですぞ」
「ッ、これは、申し訳ありません。実は、私の領地にもここ数年、ワイルドピッグの被害が報告されておりまして、少しでも改善策があればと、」
「確かに、今は夏口、更に秋口、冬に向けてとワイルドピッグの被害は多くなる。サマンド子爵殿の様に農地を持つ領地には死活問題ではありますな」
「ええ、なので、ロザリア様、どうか、どうか、参考程度で構いません。何ぞとロザリア様の智力をご教授頂けないでしょうか?」

二回りも年下であるロザリアに真剣に向き合い、頭を下げる。

「随分と妹を評価してくれている様子ですね。サマンド子爵殿」
「あら、」

聞き慣れた声の方へ振り向くと、近くに藍色の正装に身を包んだ兄であるアレックスが立っていた。

「お兄様、御令嬢達とのダンスはもう宜しいので?」
「ああ、踊り過ぎて少々疲れたので、妻のフレデリカに話し相手を頼んで来たよ」
「まぁ、お義姉様、大丈夫なのですか?お兄様と踊っていた御令嬢達の殆どはお兄様狙いの人でしたのに」
「妻のレディの口に敵う御令嬢であれば、多少は見所はあるが、公爵家の肩書きでしか俺を見ていない御嬢さんの相手はダンスで充分だろ」
「それもそうですね」

ニヤリとニヒルな笑みを浮かべる兄に私はクスクス笑った。

「ッ、アレックス様!?先程はどうも」
「本日はお招き頂きありがとうございます、アレックス様」
「やぁ、先程の挨拶振りでグルマン伯爵、サマンド子爵。妹の話し相手になって頂き感謝します」
「お兄様、そんな私が子供みたいな事言わないで下さい。恥ずかしいですわ」
「はは、すまんすまん」
「もう」

何時迄も子供扱いをする兄に拗ねたような顔をするロザリア。

「拗ねるな拗ねるな。ところで、お二人は今回の我がライド商会の新しいブランド肉に興味がお有りのご様子で?」
「ッ、それはもちろんです」
「あの扱い辛いワイルドピッグの肉をここまで上質なモノになるとは、一体どのような方法を使ったのか是非、お教え頂きたく思っております」
「ええ、いいですよ」
「「いいんですか!?」」

少しでも、新しいビジネスの情報を手に入れて、自分の領地を潤す財力になればと、意気込んでいたグルマン伯爵とサマンド子爵は兄のあまり軽い快諾に目を見開き驚く2人。

「ええ、別段に極秘と言う訳ではありませんですので。むしろ、我がライド商会も全く異なる分野に手を出したもので、まだまだ人手が足らないのが現状で、是非、先覚者であるお二人のご意見を参考にしたいと思っていました」
「ッ、それは、それは」
「身に余る光栄です。アレックス様」

アレックスの快諾にそれぞれ笑顔で答える伯爵と子爵。
だが、内心、アレックスのいや、ライド商会の策略にまんまんと乗せられたと、痛感した。

ライド商会の新商品の御披露目パーティーで新しいブランド肉の存在と味を我々に認知させ、更に、物腰の柔らかい妹のロザリア様を仕向ける事で新しいビジネスの情報を掴ませた。
新しい食のビジネスに関する情報と領地での問題点の改善点になり得る案件。
食にこだわりを持つ伯爵と領地の問題の改善に頭を悩ませている子爵。

歳下の次期公爵家当主とは言え、兄妹揃って末恐ろしい。

だが、その分、この新しいビジネスに乗る価値は充分にある筈。グルマン伯爵とサマンド子爵はそう感じた。

「して、アレックス様。早速ですが、この上質な豚は一体何処から来たのでしょうか?」
「はは、早速ですか。グルマン伯爵は気がお早い」
「話の内容次第では、私も子爵も助力を惜しみません。ですが、まずは、この肉の出処を知るのが先ではございませんか?」

グルマン伯爵は公爵家の跡継ぎである兄に強い眼差しで問いかける。

「仰る通りです。流石、グルマン伯爵」

その問いかけに、私も兄も不敵な笑みを深める。

「この肉が、ワイルドピッグ、野豚という事は、妹から既に聞かされていると思います」
「はい」
「それは、先程」
「実は、つい最近、妹のおねだりで小さな島を購入しまして、その島にワイルドピッグを移住させたのです」
「は?島!?」
「ワイルドピッグを、移住??」

兄の説明に2人は目を丸くする。

「もう、お兄様ったら、説明不足ですわ」
「あー、ロゼ、説明頼んだ」
「もう、お兄様ったら。すみません。伯爵様、子爵様。私が説明させて貰います」

説明が苦手な兄は早々に妹であるロザリアにバトンタッチをした。






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