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笑みの怒り
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聞き分けのない、駄々をこねる子供の様に喚く元夫にロザリアは溜息しか出ない。
だけど、まだまだコレだけでは無いんですけどね。
「因みに、お支払い頂くお金はコレだけではありません」
「は!?」
「ホテル・ヴェガ・クラウン元支配人ジャクソン・バウロ」
「ッ!?!?」
デリー夫人の後ろに立つヨハネスの口からジャクソンの名前が出た途端、ファーガスがビクッと体を跳ねらせた。
「エロルド・ブロッド男爵。
貿易商人ピーター・ミネルバ。
ライド商会幹部カルロス・クレイマン。
同じくライド商会幹部ルドバ・ギュースタン。
税務官アンドリュー・バレット」
淡々と紡がれるヨハネスの声が鋭くファーガスの精神に突き刺さる。
「以上6名を事実上ライド商会からの除籍処分されました」
「・・・・・・・は?」
ファーガスの思考が一瞬止まった。
「ジャクソン氏はホテル・ヴェガ・クラウンの運営資金の横領。
エロルド男爵は領民への強制労働強行及びライド商会からの労働者への給金の略取。
ピーター氏は物資の運搬の架空経費の水増し。
ライド商会幹部であったカルロス氏、ルドバ氏はライド商会の資金の不正利用、横領。更に、他国の商会にライド商会の企画を横流し。
そして、税務官であるアンドリュー氏は全ての所業をしていてにも関わらず、高額な賄賂により全て黙秘。
以上がライド商会の除籍処分の理由です」
何故?どうして?
ファーガスの頭の中でそのフレーズがずっと繰り返している。
ロザリアの実家にバレない様に細心の注意を払っていたはずなのに。
「この5年間貴方が厳選してお金とアークライド公爵家の娘である私の婿としての権限で抱え込んできた支援者達は、皆排除されました」
「ッ、」
ニッコリと微笑むロザリアにファーガスの顔色が悪くなっていく。
5年の歳月をかけて築いて来たコネクションが無くなった。
「私への不満を言う割には仕事をしている様に見えたので暫く様子を見ていましたけど、まさか他の人の悪事を斡旋する事で、自分の地位とコネクションを築いていたなんて、危うく我がライド商会の信頼を地に落とすところでしたわ」
「・・・・な、な、なんで、」
「以前から調査を行っていたんです」
ロザリアの微笑みにデリー一家は顔が真っ青になる。
「しかし、よく今まで隠し通せたものだな」
「そうね。手回しも根回しも上手くて、危うく見逃してしまいそうでしたもの」
テーブルの上の一枚の書類を手に取ったお父様の呟きにお母様も感心したように同意する。
「大方、自分の利益の為、互いが互いを庇い合い、尚且つそれを周囲に知られないように表面上では無関係もしくは敵対関係を装っていたんだろう。ある意味麗しい仲間関係だな」
「はい。皆さん、とても上手く隠していたみたいで随分と手こずったみたいですね」
可笑しそうに笑う兄、アレックスにロザリアもクスクス笑う。
ライド商会はロロビア王国最大の商会。
そのライド商会から除籍処分となればもうこの国では働くことは皆無。いや、近隣諸国でも受け入れてもらえる事も難しいだろう。
それほどアークライド公爵家の影響力が強い。
そして、その標的が、今度は自分に向けられようとしている事にファーガスは恐怖した。
「ッ、し、知らない、私は、」
「幸い、被害はそれほど甚大なものではなく修復可能でしたので大事には至りませんでしたが、被害は被害。当然、許される事ではありませんよね?
ファーガスさん?」
言い訳をしようと震えるファーガスの言葉を遮り、いつものように能天気に笑っているはずなのに、ロザリアの笑顔にファーガスの背筋に冷たい汗が流れた。
「私、これでも怒っているんですよ?」
ロザリアのその一言で分かった。
「彼等には既にそれ相応の罰は下されました。今度は、貴方の番ですよ」
目が笑っていない。
目が覚めてからずっと、自分を見るロザリアの目はまるで汚物を見るような冷たい目をしている。
「ヒッ、」
喉の奥で小さく悲鳴が出た。
「ああ、その前にもう1人、ご紹介したい人がいるんです」
「・・・・・っ、は?」
「ね、バーバラ・デリー夫人」
そう言いながロザリアはファーガスの隣でずっと黙って車椅子に拘束されて顔を俯かせ震えているデリー夫人に笑いかける。
「は!?」
「え?」
いきなり母親と妻を名指しされ驚くファーガスとデリー伯爵。
「ああ、それとも、この場合貴女のことはこう呼んだ方がいいですね。
キャサリン・ミュチェルさん?」
「ッッ!!」
優しい言葉だが氷のように冷たいロザリアの言葉に無言のデリー夫人は車椅子に拘束された身体をビクッと震わせた。
「は?キャサリン??」
「ロ、ロザリア、母上に何を、一体何を言っている!?」
ロザリアの言葉の意味が分からず混乱するファーガスとデリー伯爵。
「キャサリン・ミュチェル。クロノス商会に出入りしているドレスデザイナー。38歳。
貴女のもう1人の人物像。ですよね?バーバラ夫人?」
「・・・・・っ、んん・・・・」
黙秘を貫くように顔を俯かせいる夫人の顔から汗が流れる。
だけど、まだまだコレだけでは無いんですけどね。
「因みに、お支払い頂くお金はコレだけではありません」
「は!?」
「ホテル・ヴェガ・クラウン元支配人ジャクソン・バウロ」
「ッ!?!?」
デリー夫人の後ろに立つヨハネスの口からジャクソンの名前が出た途端、ファーガスがビクッと体を跳ねらせた。
「エロルド・ブロッド男爵。
貿易商人ピーター・ミネルバ。
ライド商会幹部カルロス・クレイマン。
同じくライド商会幹部ルドバ・ギュースタン。
税務官アンドリュー・バレット」
淡々と紡がれるヨハネスの声が鋭くファーガスの精神に突き刺さる。
「以上6名を事実上ライド商会からの除籍処分されました」
「・・・・・・・は?」
ファーガスの思考が一瞬止まった。
「ジャクソン氏はホテル・ヴェガ・クラウンの運営資金の横領。
エロルド男爵は領民への強制労働強行及びライド商会からの労働者への給金の略取。
ピーター氏は物資の運搬の架空経費の水増し。
ライド商会幹部であったカルロス氏、ルドバ氏はライド商会の資金の不正利用、横領。更に、他国の商会にライド商会の企画を横流し。
そして、税務官であるアンドリュー氏は全ての所業をしていてにも関わらず、高額な賄賂により全て黙秘。
以上がライド商会の除籍処分の理由です」
何故?どうして?
ファーガスの頭の中でそのフレーズがずっと繰り返している。
ロザリアの実家にバレない様に細心の注意を払っていたはずなのに。
「この5年間貴方が厳選してお金とアークライド公爵家の娘である私の婿としての権限で抱え込んできた支援者達は、皆排除されました」
「ッ、」
ニッコリと微笑むロザリアにファーガスの顔色が悪くなっていく。
5年の歳月をかけて築いて来たコネクションが無くなった。
「私への不満を言う割には仕事をしている様に見えたので暫く様子を見ていましたけど、まさか他の人の悪事を斡旋する事で、自分の地位とコネクションを築いていたなんて、危うく我がライド商会の信頼を地に落とすところでしたわ」
「・・・・な、な、なんで、」
「以前から調査を行っていたんです」
ロザリアの微笑みにデリー一家は顔が真っ青になる。
「しかし、よく今まで隠し通せたものだな」
「そうね。手回しも根回しも上手くて、危うく見逃してしまいそうでしたもの」
テーブルの上の一枚の書類を手に取ったお父様の呟きにお母様も感心したように同意する。
「大方、自分の利益の為、互いが互いを庇い合い、尚且つそれを周囲に知られないように表面上では無関係もしくは敵対関係を装っていたんだろう。ある意味麗しい仲間関係だな」
「はい。皆さん、とても上手く隠していたみたいで随分と手こずったみたいですね」
可笑しそうに笑う兄、アレックスにロザリアもクスクス笑う。
ライド商会はロロビア王国最大の商会。
そのライド商会から除籍処分となればもうこの国では働くことは皆無。いや、近隣諸国でも受け入れてもらえる事も難しいだろう。
それほどアークライド公爵家の影響力が強い。
そして、その標的が、今度は自分に向けられようとしている事にファーガスは恐怖した。
「ッ、し、知らない、私は、」
「幸い、被害はそれほど甚大なものではなく修復可能でしたので大事には至りませんでしたが、被害は被害。当然、許される事ではありませんよね?
ファーガスさん?」
言い訳をしようと震えるファーガスの言葉を遮り、いつものように能天気に笑っているはずなのに、ロザリアの笑顔にファーガスの背筋に冷たい汗が流れた。
「私、これでも怒っているんですよ?」
ロザリアのその一言で分かった。
「彼等には既にそれ相応の罰は下されました。今度は、貴方の番ですよ」
目が笑っていない。
目が覚めてからずっと、自分を見るロザリアの目はまるで汚物を見るような冷たい目をしている。
「ヒッ、」
喉の奥で小さく悲鳴が出た。
「ああ、その前にもう1人、ご紹介したい人がいるんです」
「・・・・・っ、は?」
「ね、バーバラ・デリー夫人」
そう言いながロザリアはファーガスの隣でずっと黙って車椅子に拘束されて顔を俯かせ震えているデリー夫人に笑いかける。
「は!?」
「え?」
いきなり母親と妻を名指しされ驚くファーガスとデリー伯爵。
「ああ、それとも、この場合貴女のことはこう呼んだ方がいいですね。
キャサリン・ミュチェルさん?」
「ッッ!!」
優しい言葉だが氷のように冷たいロザリアの言葉に無言のデリー夫人は車椅子に拘束された身体をビクッと震わせた。
「は?キャサリン??」
「ロ、ロザリア、母上に何を、一体何を言っている!?」
ロザリアの言葉の意味が分からず混乱するファーガスとデリー伯爵。
「キャサリン・ミュチェル。クロノス商会に出入りしているドレスデザイナー。38歳。
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