莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千

文字の大きさ
上 下
8 / 27

神々の集の泉

しおりを挟む
「まだ、温かい・・・・・」

思えば、元の世界では昼食を食べる前にだったし、コチラの世界に召喚されてから飲食を忘れていた。
目の前のホカホカなホットサンドを見て今になって、物凄くお腹が空いてくる。

だけど、一応・・・・・。

「スキル『鑑定』発動」

再び目の前に半透明なディスプレイが出て来た。現れたディスプレイの中央に大きな円のホットサンドとドリンクを翳す。

【ドドルバードのチキンサンド。白麦のパン。一般的に家畜化されている鶏の肉を使用。オニオ、ソースはチーズソース。飲食可】
【アルププの果汁ドリンク。アルププの実を絞り軟水と割った飲み物。飲食可】

よかった。食べられる食材みたいだ。
一応、異世界人だから、食べ物が合うかどうか心配だったけど、ハズレスキルだと言われた『鑑定』だが、意外にも役に立っている。

「よし、いただきます」

食べられるモノだと確信した紅音は目の前の食事に手を合わせた。
そして、包まれた紙の一部をめくり、ホットサンドに齧り付く。

「んん!?」

さっくりとした表面にもっちりとしたパンの食感に、地鶏に似たとり肉の脂と弾力のある歯応え。シャキシャキとした玉ねぎっぽいお野菜は玉ねぎに似ているが全然辛く無い。
掛かっているソースはチーズとマヨネーズを足して2で割ったような味で濃厚だけど、全然くどく無い。
思わず、唇の端に着いたソースをペロリと舐め取る。
お肉の味付けはシンプルに塩胡椒みたいだけど、お肉がいいのか塩胡椒で十分美味しい。そこに濃厚だけど微かに酸味が効いたソースが合う。
一緒に買ったドリンクは見た目はリンゴジュースだが、味はリンゴと桃を合わせたようなフルティーな甘さの紅茶の様だった。
少々濃いめの味付けのホットサンドによく合う。

「美味しい!!」

紅音は顔を綻ばせ、残りのホットサンドに齧り付き、ドリンクを煽る。
程よく冷えたドリンクを喉を鳴らして飲む。

「ん、ん!ぷはぁ!!あー、美味しいかった!ご馳走様!!」

最後にドリンクを飲み干し、満足感に浸る。

「調味料も食材も案外、元の世界と変わらないのかな?」

その時、何やら前方の方が騒がしくなって来ていた。

「??。何かあったのかな?」

そう思いながら、紅音は食べ終わったゴミとコップを店に返しにいく。
すると、先程ホットサンドを買った店先に何人か人が並びホットサンドを買い求めていた。

「お!!お姉さん!!どうだったウチのチキンサンドの味は?」

コップを返しに来た紅音を見た店主は嬉しそうに声をかけて来た。

「はい!とっても。パンもチキンも美味しかったですが、ソースが濃厚なのに、くどく無くて美味しかったです」
「そうだろ、そうだろ!!いやね、お姉さんがウチのチキンサンドを美味しそうに食べているのを見て、チキンサンドを買いにお客が並び出してねぇ!!いやぁ!!嬉しい限りだよ」
「え、」

まさか、通行人に食べている所を見られていたとは思わず、恥ずかしく感じる。

「うわぁ、見られていたなんて恥ずかしい・・・・」
「あはは、それだけ美味しそうに食べてくれていたって事さ。ありがとうな」
「いえ、そんな」
「お姉さん、このルーダに初めて来たんだろう?俺で良ければ、色々聞いてくれ」
「え・・・・、あ、」

店主の申し出に、紅音は一瞬考えたが、聞くことは直ぐに思いついた。

「じゃあ、小金貨一枚で三日泊まれる宿は有りますか?」

今日の寝床の確保だ。

「宿探しかい?だったら、この大通りを真っ直ぐ行って、噴水広場に出るから其処から左手の方角に見える赤い屋根の『トムズワー』と言う宿屋があるから其処がお勧めだよ」
「トムズワー、ですね。分かりました」
「ああ、ちょっと古いけど其処の宿屋はなら朝食付きで小金貨一枚で3日滞在できるよ」
「はい。ありがとうございます」
「おう、また買いに来てくれよな!!またオマケさせてもらうよ、お姉さん」
「はい是非」

機嫌良く紅音を送り出す店主に頭を下げて、大通りの道を歩く。

「小金貨が一万円で三泊できると言う事は朝食付きで一泊当たり約三千三百円。なかなかリーズナブルな値段ね」

一応頭の中で元の世界の知識と照らし合わせ、これからの事を考えていく紅音。

「とりあえず、今日はそこのトムズワーに泊まって、明日この国の事を調べに行く。必要だったら、国営ギルドに相談しに行ってみよう」

早めに、衣食住の確保をしておきたい。

そう考えていると、店主の言っていた通り大きな噴水が鎮座する一際人が賑わっている広い広場が見えてきた。

「おおお・・・・・」

それは神殿を象った9本の太い石柱に大きな石製の四段の雛壇に大中小様々な人種の石像が並びその中央に一際大きく威風堂々とした老師のような男性の石像が立っていた。
噴水の噴き出す水はまるで雛壇の石像達を彩る様に、もしくは石像達を守る様に水飛沫を上げている。
元の世界のローマにも似た観光地があったけど、想像の三倍くらい大きな芸術的光景に圧巻する。

噴水の前まで歩み寄ると、小さな石碑が紅音の目に入る。

「『神々の集の泉』?」

その石碑には噴水の説明が書かれていた。

『この噴水はかつて、この世界を生み出した創造神デミウルゴスと99の実子達がこの世の世界を司る神々となった祝いに一同に集った神殿を象った泉だと言い伝えられている。
一説では、遥か昔、魔王の侵略おり世界各所に点在していた創造神デミウルゴスを祀る神殿が破壊されたが、泉の神殿だけは創造神デミウルゴスの加護により無事だったと言う伝承が残り、故に世界各国で神殿を象った噴水が創設されたと言い伝えが残っている。このルーダの『神々の集の泉』は世界屈指の大きさを誇る巨大噴水』

「なるほどねぇ・・・・ん?第34男、芸術の神、エンジュガルド?その隣は第35女、論文の女神ルルーシュアーネ」

よく見るとご丁寧にも、石像の胸元に何番目の兄妹か、何の神か、そして名前が刻まれていた。

「へぇー。芸術の神に火元の神、お菓子の女神、医学の神に、薬草の女神、鍛冶場の神に、水場の女神、商売の神に、農家の女神、え?・・・・貧乏の神?迷走の神、怠け者の神?性交の女神に自堕落の神?・・・・・本当に色んな神様がいるのね」

崇めるには少し疑問を感じる神様もいたが、日本や外国にも沢山の神々言い伝えられていたし、これはこれで何だか共感があって面白い。

「あ・・・・・・・」

1人づつ何の神か見ていくと、

「刻の女神アディーダ。時空の神パルアドルフ。ギフトの女神ルカリス・・・・」

100体の石像の中でふと目に入った、私をこの異世界に呼んだと云われる3人の神。

「・・・・・・・何で、私、この世界に呼ばれたんだろう?」

確かに、人間関係に疲弊していたのは事実だった。
だけど、元の世界をいきなり捨てられる程、あの世界が嫌いだった訳ではない。

元の世界には、大好きだった両親との幸せな思い出がある。思い出の場所も知人や友人もいた。
多分、あの世界で小鳥遊 紅音と言う人間は行方不明の扱いになっているはず。
いきなり私が行方不明になってしまって、友人や両親の遺骨を納めているお寺に迷惑がかかってしまうな・・・・。

毎年欠かさずにお墓参りに行っていたのに、もう行く事が出来なかったら、多分住職さん心配するだろうな・・・。
周りが落ち着いたら、海外にある曾祖叔父様のお墓参りにも行きたかった。
井ノ原さんにももう一度会ってお礼が言いたかった。

「・・・・・・・そう言えば、曾祖叔父様の遺産、どうなっちゃうんだろ?」

曾祖叔父様から相続した遺産が記載さえた通帳と実印は今持っているリュックに入っているけど、この異世界では何にも役に立たないだろうし・・・・・。

「・・・・・・・・考えても仕方がないか。よし、切り替え、切り替え。宿屋のトムズワーは、っと、赤い屋根・・・・、あ、あそこかな?」

思わずネガティブな考えをしてしまったが、直ぐに考えを切り替えた紅音は教えてもらった宿屋へと歩き出す。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...