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47 【最終話】理性
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私の兄の件が片付いた数日後、ついにルークと共有の寝る部屋の改装が完了した。ということは、ルークと決めた初夜がやってくる。
初夜の日、私は昼間から侍女にぴかぴかに磨かれた。みんな、今日が私たちの初夜だと知っているのだ。なんだかおぜん立てされているようで、ものすごく恥ずかしい。
夕食時間の前にルークは仕事から帰ってきた。
夕食を一緒にするものの、すでに私の気持ちがいっぱいいっぱいで、ルークとの会話もあまり頭に入ってこない。
それから、食後にすぐに侍女に寝間着に着替えさせられ、共有の寝る部屋で、ルークを待ちながら私は一人用のソファーに座っていた。ルークに来て欲しいような、来て欲しくないような。きっと私の心臓は耳の横に付いているに違いない。心音が煩い。
そうこうしているうちに、ルークが部屋にやってきた。風呂に入ってきたのか、若干髪が濡れ、ガウンから除く上半身の裸が艶っぽい。
「……俺にトドメを刺す気か?」
「……?」
私の前に歩いてきたルークの視線を追い、私は自分の寝間着を見た。そして、顔が熱くなる。
「こ、これは違います! リアたちに一番地味なものをお願いしたのですけれど!」
なぜか初夜用の寝間着というものが、私の部屋に数着あったらしい。実は結婚時から用意されていたらしいが、知らなかった。やっと初夜、ということで、侍女たちが掘り起こしてきたのだが、どれもこれも布面積が少なくて、私にはハードルが高いものだった。世の貴婦人たちは、みんな初夜でこんなものを着るのだろうか。
とにかく、一番布面積が広いものを選んだのだけれど、それでも、いつもの寝間着よりいろんなところが出てしまっていて、恥ずかしさが最高潮だった。どうしていつもの寝間着を着させてくれないんだ。侍女たちが、頑としてそれは譲ってくれなかった。
「俺の理性を試しているんだな?」
「違いますってば!」
くくく、と笑うルークは私を抱え上げた。そしてベッドへ向かう。
「まあ、理性なんて、今日から失くしてもいいからな」
「失くさないでください!」
「それは無理な注文だな」
私をベッドへ寝かせると、ルークはガウンを脱いで、覆いかぶさってきた。
「俺の妻がアリスで幸運だった。話は合うし、可愛いし、俺についてこれる女性はアリスだけだろう。バリー伯爵はアリスにとって良くない兄だっただろうが、俺にとっては、アリスと出会わせてくれて、感謝の気持ちはある」
「……」
それはそうかもしれない。兄の横暴がなければ、ルークとは結婚しなかっただろう。
そして、私に前世の記憶がなければ、ここまで私は頑張れなかった。前世の兄との記憶は、私を叱咤し、私を頑張らせてくれた。一緒に過ごしていた頃は、嫌な兄だったけれど、前世の兄にしごかれたからこそ、現世の私がある。
今更ながらに、私って実は前世の兄に対しては隠れたブラコンだったのかもしれないと思う。現世の兄はどうでもいいけれど、前世の兄には、今会うことが可能なら、会いたいと思ってしまうから。
私が勝手に死んで、きっとあの兄ならば、悲しんでくれただろう。前世の兄よ、妹は現世では幸せになると思う。それはきっと、前世の兄のお陰でもある。だから、ありがとうと、前世の兄には言いたい。
「そうですね、ルークと会わせてくれたことには、わたくしも感謝していますわ」
ルークは笑みを浮かべ、口づけを落とす。
きっとこれから、私たち夫婦にも試練はあるだろう。それでも、ルークと一緒に乗り越えていく。ルークとなら、乗り越えていけると思う。
ルークは唇を離すと、熱い視線で私を見つめた。
「明日から三日はずっとアリスといられるようにした」
「休暇をもらえたのですね」
休暇をもらえたというより、勝手にもぎ取ってきたのだろうけれど。それでも、私と一緒にいてくれるという言葉が嬉しい。
明日や明後日は、のんびりと二人で庭でピクニックをしたりするのもいいな、そう想像が膨らむ。ルークと二人なら、なんでも楽しいのだから。
互いに笑みを浮かべ、それを合図に再びキスをして、ルークが私の寝間着に手を伸ばす。
私は思い違いをしていた。まだ私は夫ルークの私を思う気持ちと愛の重さを正確には把握できていなかったのだ。
もし最近のルークとの甘い時間と、ルークのいつもの流れを思い出していたなら、『三日』と言われて、この時ならまだ止められたかもしれない。
結局、三日間、昼も夜も分からなくなるほど熱を与えられ続け、ぐずぐずと愛され続けるとは思いもよらない私は、三日後、ルークにどうにか失った理性を取り戻してもらおうと、真剣に考えることになるとは、まだ知らない。
おわり
------------
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
こちらで最終話となります。
最後に『おまけ番外編』ということで、SSをもう一話本日UPします。
初夜の日、私は昼間から侍女にぴかぴかに磨かれた。みんな、今日が私たちの初夜だと知っているのだ。なんだかおぜん立てされているようで、ものすごく恥ずかしい。
夕食時間の前にルークは仕事から帰ってきた。
夕食を一緒にするものの、すでに私の気持ちがいっぱいいっぱいで、ルークとの会話もあまり頭に入ってこない。
それから、食後にすぐに侍女に寝間着に着替えさせられ、共有の寝る部屋で、ルークを待ちながら私は一人用のソファーに座っていた。ルークに来て欲しいような、来て欲しくないような。きっと私の心臓は耳の横に付いているに違いない。心音が煩い。
そうこうしているうちに、ルークが部屋にやってきた。風呂に入ってきたのか、若干髪が濡れ、ガウンから除く上半身の裸が艶っぽい。
「……俺にトドメを刺す気か?」
「……?」
私の前に歩いてきたルークの視線を追い、私は自分の寝間着を見た。そして、顔が熱くなる。
「こ、これは違います! リアたちに一番地味なものをお願いしたのですけれど!」
なぜか初夜用の寝間着というものが、私の部屋に数着あったらしい。実は結婚時から用意されていたらしいが、知らなかった。やっと初夜、ということで、侍女たちが掘り起こしてきたのだが、どれもこれも布面積が少なくて、私にはハードルが高いものだった。世の貴婦人たちは、みんな初夜でこんなものを着るのだろうか。
とにかく、一番布面積が広いものを選んだのだけれど、それでも、いつもの寝間着よりいろんなところが出てしまっていて、恥ずかしさが最高潮だった。どうしていつもの寝間着を着させてくれないんだ。侍女たちが、頑としてそれは譲ってくれなかった。
「俺の理性を試しているんだな?」
「違いますってば!」
くくく、と笑うルークは私を抱え上げた。そしてベッドへ向かう。
「まあ、理性なんて、今日から失くしてもいいからな」
「失くさないでください!」
「それは無理な注文だな」
私をベッドへ寝かせると、ルークはガウンを脱いで、覆いかぶさってきた。
「俺の妻がアリスで幸運だった。話は合うし、可愛いし、俺についてこれる女性はアリスだけだろう。バリー伯爵はアリスにとって良くない兄だっただろうが、俺にとっては、アリスと出会わせてくれて、感謝の気持ちはある」
「……」
それはそうかもしれない。兄の横暴がなければ、ルークとは結婚しなかっただろう。
そして、私に前世の記憶がなければ、ここまで私は頑張れなかった。前世の兄との記憶は、私を叱咤し、私を頑張らせてくれた。一緒に過ごしていた頃は、嫌な兄だったけれど、前世の兄にしごかれたからこそ、現世の私がある。
今更ながらに、私って実は前世の兄に対しては隠れたブラコンだったのかもしれないと思う。現世の兄はどうでもいいけれど、前世の兄には、今会うことが可能なら、会いたいと思ってしまうから。
私が勝手に死んで、きっとあの兄ならば、悲しんでくれただろう。前世の兄よ、妹は現世では幸せになると思う。それはきっと、前世の兄のお陰でもある。だから、ありがとうと、前世の兄には言いたい。
「そうですね、ルークと会わせてくれたことには、わたくしも感謝していますわ」
ルークは笑みを浮かべ、口づけを落とす。
きっとこれから、私たち夫婦にも試練はあるだろう。それでも、ルークと一緒に乗り越えていく。ルークとなら、乗り越えていけると思う。
ルークは唇を離すと、熱い視線で私を見つめた。
「明日から三日はずっとアリスといられるようにした」
「休暇をもらえたのですね」
休暇をもらえたというより、勝手にもぎ取ってきたのだろうけれど。それでも、私と一緒にいてくれるという言葉が嬉しい。
明日や明後日は、のんびりと二人で庭でピクニックをしたりするのもいいな、そう想像が膨らむ。ルークと二人なら、なんでも楽しいのだから。
互いに笑みを浮かべ、それを合図に再びキスをして、ルークが私の寝間着に手を伸ばす。
私は思い違いをしていた。まだ私は夫ルークの私を思う気持ちと愛の重さを正確には把握できていなかったのだ。
もし最近のルークとの甘い時間と、ルークのいつもの流れを思い出していたなら、『三日』と言われて、この時ならまだ止められたかもしれない。
結局、三日間、昼も夜も分からなくなるほど熱を与えられ続け、ぐずぐずと愛され続けるとは思いもよらない私は、三日後、ルークにどうにか失った理性を取り戻してもらおうと、真剣に考えることになるとは、まだ知らない。
おわり
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
こちらで最終話となります。
最後に『おまけ番外編』ということで、SSをもう一話本日UPします。
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