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2巻

2-3

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「うん。ありがとうサシャ」
「これくらい朝飯前です! またお呼びください!」

 彼女はそう言って元気そうに去って行った。全然知らなかったけど、彼女はすごい力持ちだったみたいだ。
 それから僕は自室のベッドで本を読み始める。最初に読む本は、基本であろう、『病の治し方① 基礎編』という本だ。
 僕はまだ文字の勉強を始めたばかりということもあり、一番簡単そうな本を母に選んでもらった。
 本当はもっと難しい本を読んでみたいと思って一冊開いてみたのだけれど、分からない単語だらけで読むのをあきらめた。
 この簡単な本は、今の僕には丁度良かったらしい。本の中に、僕がやるべきことを一つ見つけたのだ。
 その本に書いてあったのは、病の治療中は宙に浮かぶ感覚が必要になるらしいということだ。なので、僕は宙に浮かぶ魔法を習得することにした。

「宙に浮かぶ……」

 どうしようかと考えた時に、それは今すぐ練習できることに気が付いた。
 あの氷の板に乗れば良いんじゃないか?
 そう思った僕はすぐに魔法を唱える。

「氷よ、板と成り我が意に従え。『氷板操作アイスボードコントロール』」

 部屋の中で厚さは十センチメートルほどの氷の板を作り出した。乗って壊れると怖いので、できるだけ硬くする。

「これで大丈夫なはず……」

 硬さは、僕が今できる限界くらいにしてみた。それを操作し、床にそっと降ろす。
 恐る恐る右足を乗せる。
 トン。
 足の裏から返ってくる反応はとても頼もしかった。次は思い切って両足を乗せる。

「……」

 更に板の上を歩き回るけれど特に問題はない。
 ただ氷なので、ちょっと滑りそうかも。気を付けて乗るようにしないと。

「よし。あとは……」

 これを浮かせるのだ。そうしたら、浮いているという感覚を掴めるかもしれない。

「そっと……そっと……」

 僕は細心の注意を払いながら、氷の板を十センチメートルほど浮かす。

「これが……浮かぶ感覚?」

 足の下の氷を浮かせているせいか、あまり浮かんでいるという感じはしない。
 けれど、少しずつでもやっていけば、感覚として掴めるかもしれない。それから少しずつ……少しずつ高さを上げていき、天井に手が届くほどまで浮かび上がった。

「おお……この高さまで来ると、確かに浮かんでいるっていう感じになるかも」

 僕はそれから何回もその練習をした。浮かぶ感覚を掴むための練習と同時に、氷の板をもっと自在に動かす練習も兼ねていたのだ。

「はは! これは楽しいかも! あ」

 僕は氷の上ということを忘れてはしゃいでしまって足を滑らせて、氷の上から放り出される。
 死んだ……
 ボフ。
 そう思った次の瞬間、僕はベッドの上に飛び込んでいた。

「危なかった……もう油断しない」

 もう少し落ちる場所がずれていたら、きっと床に叩きつけられていた。ベッドの上で良かった……油断してはいけない。それを体で覚えられたのも、ある意味では良かったかもしれない。


 ******


 ヴィーからの贈り物を受け取ってから五日が経っていた。
 僕は今、自分の部屋で魔法の練習に熱中している。
 時間は夜で、気が付いたらかなり遅い時間になっていた。

「氷よ、板と成り我が意に従え。『氷板操作アイスボードコントロール』」

 僕は目の前に、厚さ一センチメートルもない、透き通るような氷の板を生成した。
 そしてそれを動かす。移動速度はこの前作れるようになった氷の玉の倍くらいの速さだ。
 これに乗って移動もできるのかもしれないけれど、この前のこともあるし、注意が必要だ。

「他に……できることってあるかな……」

 僕がこの魔法を母に習ってから、できることは色々と練習していた。この素早く動かす練習もその中の一つだ。
 他にやったことと言えば、氷の色を変えてみたり、分厚いのにもろく作ってみたりもした。
 あとは当然、時間を見つけては板に乗って浮かぶ練習を続けている。ただし、最初に落ちた時の反省を生かして、周囲を別の氷の板で囲って落ちないようにしている。加えて、板の表面をあえてギザギザにして、滑り止めにしてみたりもした。
 これによって、滑ることは格段に減った。色々とやっている間に、こんなこともできないか、こんなふうにできないか、と思いつく限りのことをやり続けた。
 そうしていると、厚さ一センチメートルだけれど、かなり硬い板を作れるようになった。

「それなりにはやったかな……」

 ただ、最近では魔法を使いすぎて母さんに怒られるようになってしまった。
 僕は時計に目を向けると、そろそろかと思う。
 そう思ったタイミングで、母さんが僕の部屋に入ってきた。

「エミリオ。そろそろ寝るわよ」
「はい。母さん」

 僕が夜な夜なずっと魔法を練習していたら、こうやって母さんが、これ以上魔法を使わないように迎えに来るようになったのだ。僕は母さんの後に付いて行き、彼女に続く形で両親の寝室に入る。
 両親の寝室はかなり広く、天蓋てんがい付きのとても大きなベッドが置かれていた。他にもソファだったりテーブルだったり、客室と同じくらいの広さがある。
 僕が母さんに続いてベッドに行くと、既にリーナが眠っていた。

「もう寝ちゃったんだ」
「そうよ。エミリオも、魔法の練習をするのも良いけど、ちゃんと寝なさい?」
「分かってるよ。だからこうして一緒に寝てるんでしょ?」
「じゃないとあなたが寝ないから……サシャから、夜中ずっと氷の板が落ちる音がするって言われた時は信じられなかったんだから」
「ごめんなさい……」

 チェルシーに注意されてからは、氷の板を処分する時は、屋敷の中ではなく、屋敷の外側に捨てていた。だから、普通は聞こえるはずがないと思っていたんだけど……どうやらサシャは耳が良いらしい。

「それに、本当に体調は大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だよ。最近は体調も良いし、いてもないでしょ?」
「そうだけど……」
「だから安心して、大丈夫だから」
「そう……それで、今日もやる?」
「うん。お願い」
「そう、さ、いらっしゃい」

 僕は母さんの隣に寝転がる。そしてベッドの明かりを頼りに、本を読むというのが最近の日課だ。
 最初はリーナが起きないか心配していたけれど、軽くすったりしても全く起きないことを知ってからは、こうやって隣で本を読んでいる。
 母さんは日中、父さんの代わりの政務で忙しいので、このタイミングでないと分からないことを聞けないのだ。

「母さん。この文字の意味は?」
「それは『体力』ね」
「それじゃあこっちは?」
「それは『やめる』ね」
「なるほど……」

 こうやって毎晩分からないことを母さんに教えてもらっている。本を読むことで、色々と病の治療のための勉強になって助かる。そして、今日は特に気になる部分を見つけた。

「ねぇ母さん」
「なに?」
「ここってさ、病を治療する術者は体力があればあるほど良い、っていうこと?」
「……そうね。そう書いてあるわね」

 僕はそれ以降分からない単語が多くて母さんに聞く。

「詳しく教えてくれる?」
「えっとね……『病の治療はかなりの長時間になる。そのため、治療する術者本人にも体力が必要』ですって。病を治せる回復術師が少ないのもこれが原因でもあるみたいよ」
「そうなの?」
「ええ、年をとって回復魔法の技量が上がっても、その頃には病を治療するだけの体力がなくなっている場合が多いの。だから、病を治療できる人は、それだけで優遇ゆうぐうされるのよ」
「なるほど……じゃあ……」

 今日発見したことは、最近母さんに読んでもらった情報の中で、一番大切なことかもしれない。
 体力が必要になってくるのであれば、僕は……もっと運動をしてスタミナを付けなくてはならないのだから。
 それから僕は、母さんが眠そうにし始めるまで聞き続けた。

「エミリオ。今日はもうお終い。続きは明日ね」
「はい。ありがとう母さん」
「良いのよ」

 母さんは欠伸あくびをしながら明かりを消した。部屋の中は月明かりが入り込んでいる。

「それじゃあ、寝ましょう。子守唄こもりうたを歌ってあげるわ」
「母さん……」
「♪~~~」

 僕は母さんの声に、どこか懐かしさと嬉しさを感じながら眠りについた。


 ******


 次の日。
 僕は昨日の、体力が必要という話を思い出して、屋敷の中を歩き回っていた。
 すると、メイド達の話す声が聞こえる。

「私なら大丈夫ですって! 任せてください!」
「ダメよ、サシャ。あたしはあなたが心配なの。本当に店を間違わずに行けるって思ってるの?」
「大丈夫! きっとなんとかなりますから! チェルシー、私の目が信じられませんか?」
「何度もその目を信じたけれど、十回裏切られてからは数えていないわ」

 僕は少し騒がしいその声が気になって行ってみる。
 そこでは、メイドのチェルシーとサシャが話しているところだった。

「何を話しているの?」
「エミリオ様……」
「エミリオ様。お仕事の話ですよ! すぐに私が解決しますから!」

 サシャは黒髪くろかみのおさげを揺らして元気そうに言う。

「ダメですって。何回言ったら分かるの……」

 そう言ってチェルシーは、肩をがっくりと落とす。

「なんの話なの?」
「それが、町に結構な量の買い出しに行かないといけないのですが、手の空いている者がサシャしかおらず……」
「それの何がダメなの?」
「……以前買い出しを任せたら、必要ない物をたくさん買ってきて、必要な物を一つも買ってこなかったんですよ……」
「それは……」

 僕がどうして……?と思ってサシャを見ると、彼女は笑顔全開で右手でピースサインを作って僕に向けていた。
 なんでほこらしそうにしているんだ。
 そんな彼女は元気よく言う。

「大丈夫ですって! 今回はきっちりとやってみせます!」
「それができないから言っているんじゃないですか……はぁ、誰か付いて行ってくださる方がいれば……」

 僕は、町に行くのであれば体力作りに丁度良いのではないかと思って口を開く。

「僕が付いて行こうか?」
「え?」
「本当ですか!」

 チェルシーは驚いていて、サシャは喜びの表情を浮かべていた。

「うん。最近元気も良いし、体力も付けたいから行ってみたいんだ」
「それは……エミリオ様であれば大丈夫だとは思いますが……」

 チェルシーはそれでもまだ何か言いたげな顔をしている。でも買い物に行くことは決まっているのだと思う。なら、僕がもう一押ししよう。

「大丈夫。僕も今は元気だし、すごく町に行きたいんだ。だから、ね? お願い!」
「……分かりました。では、エミリオ様、お願いします」
「うん! 任せて!」
「やりましたねエミリオ様! これでお菓子かし買い放題ですよ!」

 サシャは違うところで喜んでいる。

「ダメだよサシャ。ちゃんと必要な物を買わなきゃ」
「えー」

 サシャがそう言って残念そうな顔をする。

「えーじゃありません。ではエミリオ様。これが今回の資金と、必要な物のリストです。重たい物はサシャに任せて良いので、よろしくお願いします」

 チェルシーがそう言って、お金の入った小さな袋と、買い物リストを渡してくる。

「うん。分かった」
「ちぇー。チェルシーのケチ」
「サシャ……あなた……帰ってきたら覚悟しておきなさい?」

 チェルシーからの圧力を感じ、僕もちょっと怖くなってしまう。
 サシャもそれは一緒だったのか、僕の体をお姫様のように持ち上げた。

「さ、エミリオ様、すぐに行きましょう。時間がかかると大変ですからね!」
「え? この体勢で?」

 サシャは僕をお姫様抱っこしたまま、すぐに屋敷から出て行く。
 それも、風を切るような速度で走って行くので、ちょっと怖い。

「ま、待ってサシャ!」
「何を待つんですか? エミリオ様」

 僕はサシャに抱えられたまま、屋敷の門から伸びる道を進んでいた。
 ロベルト兄さんと初めて外に出た時に、いつか歩いてみたいと思っていた道を、サシャはなんの躊躇ためらいいもなく進んで行くのだ。流石に少しくらいは堪能させてほしい。

「ちょっと止まって! 僕を抱えてそんな速度で走らないで!」

 でも、僕が止まってと言ったら止まってくれた。

「しかし……エミリオ様に歩かせるわけには……」
「そんなこと言っても、僕を抱えて町まで行くなんて、体力は大丈夫なの? 疲れて帰れなくなっても知らないよ?」
「私は大丈夫ですよ? 体力には自信があります!」
「そ、そうなんだ……」

 重たい物は任せて問題ないとチェルシーに言われていたし、やっぱり体力がすごくあるのかもしれない。

「はい。なので、任せてください。エミリオ様を運ぶくらい、朝飯前です!」
「ありがとうサシャ。でも、ごめん。わがまま言っても良いかな?」
「はい? なんですか?」
「この道……僕は自分の足で進んでみたいんだ。サシャと比べたら遅いんだけど……ダメかな?」
「エミリオ様……」
「サシャ?」

 彼女はじっと僕を見つめてくる。
 ど、どうしたのだろう。
 何か気にさわることを言ってしまったのだろうか。

「エミリオ様。私こそ申し訳ありませんでした。エミリオ様の気持ちも考えず……」
「そ、そんなことないよ。サシャが僕を抱えて走ってくれるなんて想像もしてなかったからね」
「いえ、それは……ですが、そういうことでしたら、一緒に歩きましょう! もし帰るのが多少遅くなっても、チェルシーに言い訳できますから!」

 彼女はそう言って、僕を地面に降ろしてくれる。

「ふふ、ありがとうサシャ」

 僕はサシャにお礼を言ってから、彼女に何かしてやれないか考える。

「そうだ。サシャ。ちょっと待ってて」
「はい?」

 僕はせっかくなら魔法を使ってあげたい、そう思って集中する。

「氷よ、板と成り我が意に従え。『氷板操作アイスボードコントロール』」
「これは……」

 僕はすぐ近くに、人が一人が座れるサイズで、表面に落下防止のザラザラが付いた氷の板を作る。
 そして、サシャに向かって差し出した。

「サシャ。これに乗せて運んであげようか? ああ、横になってもいいよ。ちょっと冷たいかもしれないけど……」
「いえ……これは……どうやったんですか?」
「どうって……魔法でだけど?」
「そうですか……分かりました。それではエミリオ様のご厚意こういに甘えさせてもらいますね。よいしょっと」

 サシャはそう言って氷の板の上に普通に立った。そこまで大きく作っていないのにすごい。

「おお~、これは楽ですね」
「でしょ? 速度も、そこそこ出せるんだ。動かすよ」
「はい。うわわわ! 結構速いですね!」

 サシャがちょっと驚くくらいには速度を出した。僕も落とさないように気を付けたけれど、彼女は体重をたくみに移動させ、振り落とされることなく乗りこなしている。運動神経もすごく良いみたいだ。

「あはは! これ良いですね! 乗っているだけでも楽しいです! エミリオ様はこんな魔法も使えるなんてすごいです!」
「でしょ? こんなこともできるんだから!」
「すごーい!」

 僕はそうやって彼女を楽しませながら、町まで歩いて行った。


 ******


「ここが……町?」
「はい。バルトラン男爵様が治める町、アップトペルです」

 僕の目には小さな家々が連なり、その前の道を大勢の人達が歩いてる。
 歩く人々の服は少し質素しっそな感じがするけれど、その顔は元気そうだ。
 僕も負けていられない、少しでも歩いて体力を付けなければと思っていた。でも、こんな多くの人は初めて見たので、そちらに目を奪われてしまう。

「すごい……こんなにも人がいるなんて……」
「何を言っているんですか。ここは町のはしっこなんですよ? 中に入っていけばもっと人がいます」
「本当⁉」
「はい。それでは行きましょうか」
「うん!」

 サシャは氷の板から降りて、僕の手を握って進む。

「危ないので一緒に行きましょう」
「う、うん」

 僕が彼女に連れられて進むと、サシャは人気者なのか、店先で商品を売る人々に声をかけられる。

「お! サシャちゃん! これ持ってきな!」
「おいおい、リンマの実はウチの方が美味うまいんだ! こっちのを持っていってくれ!」

 町の入り口を入って少しした所には、青果店が向かい合って立っており、店主らしき二人が僕達に向かって、赤くて美味しそうなリンマの実を投げてきた。シャリっとした食感と甘みが美味しい、バルトラン領の特産品だ。

「わわ! あ、ありがとうございます!」

 サシャはそう言いながら、飛んできた二つの実を片手で器用にキャッチした。

「ん? その子供はどこの子供だい?」
「サシャちゃん、いつの間に子供を? ウチのバカ息子をもらってくれるって言ってたじゃないか」
「違います! というかもらう予定もありません! こちらの方はバルトラン男爵の次男、エミリオ様です!」
「……」
「……」

 サシャが胸を張りながら、僕のことを紹介してくれる。そのおかげで、少し前までサシャに声をかけていた、向かい合った八百屋のおじさん二人の視線が僕に移った。
 一人は身長が二メートルはあり、かなり筋肉質で頭にねじり鉢巻はちまきを巻いている。もう一人は目つきが鋭く、怖そうな雰囲気を感じさせた。注目を浴びてうれしい半面、どんなことになるのか少し怖い。しかし、それは杞憂きゆうだったみたいだ。

「おお! あなたがあの次男様ですか!」
「エミリオ様が来られているのでは、リンマの実一つなどと言っていられませんね。一袋お持ちください!」
「何⁉ 俺のリンマの実を持っていってもらう! そっちは引っ込んでろ!」
「お前が引っ込んでろ!」
「「がるるるるるるるるる」」

 二人はそう言って争い合っていた。しかし、周囲の人達が止める様子はないので、いつものことなのかもしれない。
 そんなことを考えていると、また違った人から声をかけられた。先ほどのサシャの言葉で、町の人に僕が男爵家の次男であることが知れ渡ったようだ。

「エミリオ様。突然失礼します。バルトラン男爵様には良い統治をしていただいて、この町の者は皆感謝しております」
「う、うん。ありがとう……?」

 なんと言えば良いのか分からず、そう返すことしかできない。

「私も感謝しています。これを是非お持ちください」
「こちらの物も是非」

 そう言って町に多くの人がお礼を言ったり、店の売り物をくれたりした。
 気が付くと人だかりができていて、ちょっとした騒ぎになっている。

「はい! エミリオ様に品物を渡したい方にはこちらに並んでください! 順番を破る人はお尻叩きの刑ですよ!」

 いつの間にかサシャがそんなふうに人の流れの整理をしてくれているが、あまりの多さに僕はちょっと困ってしまう。
 それが終わったのは、三十分は経ってからだった。

「ふぅ……終わったね……」
「はい。流石バルトラン男爵ですね。良い治世をしていらっしゃいます。伊達だてにゴルーニ侯爵家の派閥はばつに入ってはいないですね」
「それってすごいことなの?」
「ええ、ゴルーニ侯爵家は中央でもかなりの力を持っていますから。普通、その派閥にただの男爵が入れるわけがありませんよ」
「そうなんだ……」

 僕はサシャの言葉を嬉しく思い、この町の様子をじっと見る。
 道行く人達の顔は明るく、見ているこっちまで幸せを感じられた。

「良いなぁ……」

 両親がやっていることだけど、こんなにも多くの人を幸せにしていて、とても素晴らしい。
 僕も、多くの人をこうやって笑顔にできるようになりたい、心からそう思う。

「と、買い物をすませないと」
「あ、そうでした。すっかり忘れてました!」
「それじゃあ行こうか」
「はい!」

 僕は嬉しい気持ちを少し抑えていたが、足取りが少し軽くなっているのを感じていた。


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