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5章
85話 まさかの再会
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ヴィーの声が聞こえたような……。
僕は後ろの部屋を振り返る。
しかし、そこにはボロボロの壁があるだけだ。
木造であるので、隙間から声が漏れ聞こえてくる。
僕は良くないことだとは思いながらも、壁に耳を当てた。
「……それで……状……います……」
「なかな……きびし……。……り……ドがか……すぎ……」
ちょっと聞き取りづらい。
一応個室というだけあって、ある程度防音がされているようだし、隣の部屋の人達も声をひそめる用に話しているからだ。
「どうした?」
「すいません。ちょっとだけ待ってください」
僕は師匠にそう言って待ってもらうと、更に聞き耳を立てる。
部屋の向こうからはまた声が聞こえてきた。
「それで…………中央の……だい……すか」
「実は……ロベルトが……」
「一体何をやらかしたと言うのですか!?」
ドン!
「!?」
突如としてヴィーの大声が聞こえ、僕は思わず壁に体をぶつけてしまった。
次の瞬間には、個室の部屋の者達は話すのを止める。
どうしよう。
僕は少し考えるけれど、意を決して少し大きめに声を出す。
「そう言えば師匠! ロベルト兄さんを見てどう思いましたか!?」
ガタガタタ!
今度は隣で何か慌ただしい様な音が聞こえる。
師匠は僕の行動を不審そうにみていた。
「どうした突然。まぁ……ある種の才能は感じたな。本人が望むかどうかは別にして」
「なるほど」
僕は師匠に返しつつも、半ば確信に変わった気持ちで個室からそーっと体を出す。
そして、ヴィーがいるであろう部屋の方に頭を出すと、相手の方からもそーっと頭が出て来る。
その頭は真っ黒の髪でヴィーのものではない。
違ったのかとも思ったけれど、彼女はヴィーだと心の中の僕が叫んでいた。
「……」
「……」
僕と彼女は頭だけを出して、暫く見つめ合う。
彼女の姿は真っ黒な髪に、黒い瞳。
どう考えてもヴィーではない。
でも、瞳の奥の彼女は、ヴィーだと答えてくれていた。
僕は意を決して口を開く。
「ヴィー?」
「!!!???」
ヒュン
彼女はすぐに個室の中に引っ込んでしまった。
やっぱり違ったのか。
そう思って肩を落としていると、個室からヴィーのよりちょっと大きい手がゆっくりと生えてきた。
手はチョイチョイと手招きしている。
「……」
僕はゆっくりと部屋から出て、隣の個室に行く。
「エミリオ?」
「すいません。少し出てきます」
僕は師匠にそう言って隣に行くと、ガッと腕を掴まれ、流れるように口を抑えられて部屋に引きずりこまれた。
「!!??」
「しっ静かに。貴様、何も……の……」
僕にそう詰問した人はすぐに口調がしぼんでいく。
そしてすぐにうかがうような……猫撫で声に変わる。
「あ……あの……もしかして……エミリオ……様ですか?」
ブンブン
僕は口を抑えられたまま首を立てに振る。
次の瞬間、体に自由が戻ってきた。
「すいませんでした!」
僕は謝って来た人の方を見ると、どこかで見たことがある様な……。
黒髪黒目のちょっとだけ目元がヴィーに似た女性だった。
「あ、いえ、頭を上げてください。僕も……ちょっと隣の個室の声を聞くなんて真似をしてしまったので」
「いえ……我々も両隣は入れないように働きかけたり、というか身内を配置しておくようにしていたはずなのですが……」
「間違ってしまったと?」
「お恥ずかしながら恐らく……」
そう言って彼女は頭を再度下げる。
僕はそれまで黙っているヴィー(多分)の方を見ると、彼女は自身の胸を抑えてテーブルの一点をじっと見つめていた。
「ヴィー?」
ビクン!
僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女の体ははねる。
というか、包帯も巻いていないし、髪や目の色も違うし一体どうしたのだろうか。
「どうしたの? 髪とか目の色も違うし……でも、ヴィーだよね?」
「……(コクン)」
僕がそう聞くと、彼女は小さく首を立てに動かした。
「それ……」
「エミリオ様。ここは少々騒がしく思います。こちらへ」
「え? どこ?」
女性は僕にそう言って耳打ちをしてくる。
「今は誰であるかは秘密のお忍び状態です。ですので、お名前を呼ぶことはお控えください」
「そうなんだ……ごめんね」
「いえ……それは……仕方ありませんから」
ヴィーが視線を合わせてくれず、声もどこか小さい。
しかも、以前あった時の様に顔も心無し赤い。
彼女は体調が悪いのだろうか。
「ごめんね。ちょっと……その……嬉しくて声かけちゃったけど、取り込み中だったよね。僕も隣の部屋に戻るね」
僕はそう言って席を立つ。
「待ってください!」
「……」
ヴィーが大声で止めるので、僕は思わず固まってしまった。
彼女も自分の声に驚いたのか、次の声はひどく小さくなる。
「あ……あの……。もしよろしければ、一緒に食べませんか?」
「いいの?」
「ええ、ただ、私の名前はリーアとお呼びください」
「……分かった。リーア。と、師匠……ジェラルド師匠も一緒でいい?」
「ええ、構いません」
そう言われたので、僕は師匠を呼びに行こうとすると、師匠がぬっと扉から顔を覗かせる。
「師匠。今呼びに行こうと思っていたんです。こちらのヴぃ……リーアさん達と一緒に食事をしてもよろしいですか?」
「ん? ああ。もちろん構わない。しかし、今何か病の気配が……」
「僕以外は大丈夫だと思いますが……」
2人共元気そうだけれど、チラリと覗いて見た。
しかし、彼女達も首を振っている。
「そうか。勘違いかもしれないな」
そう言って師匠は僕にヴィーの隣に座るように促した。
彼はそのままもう一人の隣に座る。
「それで、お名前を伺ってもいいかな?」
師匠が早速聞くと、ヴィーが自己紹介を始める。
「私はリーア。とある男爵の令嬢ですわ」
「なるほど」
師匠が今度はもう一人に目を向ける。
「あたしはそんな彼女に仕える魔法使いのシオンだ」
「分かった。おれの自己紹介はいるか?」
「必要ありません」
「知っています」
「結構」
話が早くて助かる。
「それで、どうして一緒に食事をすることになったんだ?」
「それは……」
「私が誘ったんです。今話題のバルトラン子爵の次男様ですもの。貴族の間ではとても話題になっております」
「ほう。それで共に食事をしようと?」
「何か問題が?」
「いや、ない。それでは食事にしよう。あまりこんな所でピリピリとしてもしょうがないからな」
「……そうしましょう」
それからはコース料理をヴィーが頼み、無難な会話をして過ごす。
どうしてここに来たのかという事や、これから何をするのか。
ということに関してだったりだけれど、大事な事は師匠が基本的にはぐらかしていた。
患者の名誉などの為にも仕方のないことだと思う。
そんな事を話していると、料理が到着する。
「これは……」
「これがこの店自慢の料理ですよ」
僕の目の前には魚の姿焼きやサラダに切った果実など、とても食べやすそうなものが並んでいた。
それらを食べるととても美味しそうで、最近激しく使ってばかりの胃にも優しい。
「美味しい……」
「ふふ、私もです」
ヴィーが僕の方を見て微笑みながら言って来るので、僕も彼女に笑い返す。
「うん。またヴぃ……リーナの笑顔を見れて嬉しいよ」
「!!」
「どうしたの?」
「い、いえ。なんでもありません」
そうはいいつつもヴィーは必死に胸を抑えている。
師匠が病の気配がすると言っていたし、もしかして病気なんだろうか。
「大丈夫? 僕も多少なら出来るから診ようか?」
僕はヴィーに近寄り、彼女にそっと触る。
彼女の顔がさっきよりも赤くなっている気がした。
「お前達はどういう関係なんだ?」
そこへ、師匠が聞いてくる。
どんな関係って……。
「僕達は友達ですよ」
「……ええ。友達ですね」
「仲がいいんだな」
「はい。とっても大事な……かけがえのない……存在ですから」
僕はそうハッキリと言う。
彼女にはお世話になりっぱなしだ。
僕も……何か返すことが出来たらと思っているのだけど……。
そこに、何かが近付いてくる気配がした。
「?」
僕が個室の扉を見ると、そこにはサシャが目を怪しく光らせてヴィーを真っすぐに見つめていた。
「エミリオ様。そこの女狐は一体どこのどなたですか? それとジェラルド様? エミリオ様を守ってくださると聞いていたのですが? 女狐の毒牙も入っていると思っていたのですが?」
サシャはどこからともなくカチャリと音を立てていた。
僕は後ろの部屋を振り返る。
しかし、そこにはボロボロの壁があるだけだ。
木造であるので、隙間から声が漏れ聞こえてくる。
僕は良くないことだとは思いながらも、壁に耳を当てた。
「……それで……状……います……」
「なかな……きびし……。……り……ドがか……すぎ……」
ちょっと聞き取りづらい。
一応個室というだけあって、ある程度防音がされているようだし、隣の部屋の人達も声をひそめる用に話しているからだ。
「どうした?」
「すいません。ちょっとだけ待ってください」
僕は師匠にそう言って待ってもらうと、更に聞き耳を立てる。
部屋の向こうからはまた声が聞こえてきた。
「それで…………中央の……だい……すか」
「実は……ロベルトが……」
「一体何をやらかしたと言うのですか!?」
ドン!
「!?」
突如としてヴィーの大声が聞こえ、僕は思わず壁に体をぶつけてしまった。
次の瞬間には、個室の部屋の者達は話すのを止める。
どうしよう。
僕は少し考えるけれど、意を決して少し大きめに声を出す。
「そう言えば師匠! ロベルト兄さんを見てどう思いましたか!?」
ガタガタタ!
今度は隣で何か慌ただしい様な音が聞こえる。
師匠は僕の行動を不審そうにみていた。
「どうした突然。まぁ……ある種の才能は感じたな。本人が望むかどうかは別にして」
「なるほど」
僕は師匠に返しつつも、半ば確信に変わった気持ちで個室からそーっと体を出す。
そして、ヴィーがいるであろう部屋の方に頭を出すと、相手の方からもそーっと頭が出て来る。
その頭は真っ黒の髪でヴィーのものではない。
違ったのかとも思ったけれど、彼女はヴィーだと心の中の僕が叫んでいた。
「……」
「……」
僕と彼女は頭だけを出して、暫く見つめ合う。
彼女の姿は真っ黒な髪に、黒い瞳。
どう考えてもヴィーではない。
でも、瞳の奥の彼女は、ヴィーだと答えてくれていた。
僕は意を決して口を開く。
「ヴィー?」
「!!!???」
ヒュン
彼女はすぐに個室の中に引っ込んでしまった。
やっぱり違ったのか。
そう思って肩を落としていると、個室からヴィーのよりちょっと大きい手がゆっくりと生えてきた。
手はチョイチョイと手招きしている。
「……」
僕はゆっくりと部屋から出て、隣の個室に行く。
「エミリオ?」
「すいません。少し出てきます」
僕は師匠にそう言って隣に行くと、ガッと腕を掴まれ、流れるように口を抑えられて部屋に引きずりこまれた。
「!!??」
「しっ静かに。貴様、何も……の……」
僕にそう詰問した人はすぐに口調がしぼんでいく。
そしてすぐにうかがうような……猫撫で声に変わる。
「あ……あの……もしかして……エミリオ……様ですか?」
ブンブン
僕は口を抑えられたまま首を立てに振る。
次の瞬間、体に自由が戻ってきた。
「すいませんでした!」
僕は謝って来た人の方を見ると、どこかで見たことがある様な……。
黒髪黒目のちょっとだけ目元がヴィーに似た女性だった。
「あ、いえ、頭を上げてください。僕も……ちょっと隣の個室の声を聞くなんて真似をしてしまったので」
「いえ……我々も両隣は入れないように働きかけたり、というか身内を配置しておくようにしていたはずなのですが……」
「間違ってしまったと?」
「お恥ずかしながら恐らく……」
そう言って彼女は頭を再度下げる。
僕はそれまで黙っているヴィー(多分)の方を見ると、彼女は自身の胸を抑えてテーブルの一点をじっと見つめていた。
「ヴィー?」
ビクン!
僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女の体ははねる。
というか、包帯も巻いていないし、髪や目の色も違うし一体どうしたのだろうか。
「どうしたの? 髪とか目の色も違うし……でも、ヴィーだよね?」
「……(コクン)」
僕がそう聞くと、彼女は小さく首を立てに動かした。
「それ……」
「エミリオ様。ここは少々騒がしく思います。こちらへ」
「え? どこ?」
女性は僕にそう言って耳打ちをしてくる。
「今は誰であるかは秘密のお忍び状態です。ですので、お名前を呼ぶことはお控えください」
「そうなんだ……ごめんね」
「いえ……それは……仕方ありませんから」
ヴィーが視線を合わせてくれず、声もどこか小さい。
しかも、以前あった時の様に顔も心無し赤い。
彼女は体調が悪いのだろうか。
「ごめんね。ちょっと……その……嬉しくて声かけちゃったけど、取り込み中だったよね。僕も隣の部屋に戻るね」
僕はそう言って席を立つ。
「待ってください!」
「……」
ヴィーが大声で止めるので、僕は思わず固まってしまった。
彼女も自分の声に驚いたのか、次の声はひどく小さくなる。
「あ……あの……。もしよろしければ、一緒に食べませんか?」
「いいの?」
「ええ、ただ、私の名前はリーアとお呼びください」
「……分かった。リーア。と、師匠……ジェラルド師匠も一緒でいい?」
「ええ、構いません」
そう言われたので、僕は師匠を呼びに行こうとすると、師匠がぬっと扉から顔を覗かせる。
「師匠。今呼びに行こうと思っていたんです。こちらのヴぃ……リーアさん達と一緒に食事をしてもよろしいですか?」
「ん? ああ。もちろん構わない。しかし、今何か病の気配が……」
「僕以外は大丈夫だと思いますが……」
2人共元気そうだけれど、チラリと覗いて見た。
しかし、彼女達も首を振っている。
「そうか。勘違いかもしれないな」
そう言って師匠は僕にヴィーの隣に座るように促した。
彼はそのままもう一人の隣に座る。
「それで、お名前を伺ってもいいかな?」
師匠が早速聞くと、ヴィーが自己紹介を始める。
「私はリーア。とある男爵の令嬢ですわ」
「なるほど」
師匠が今度はもう一人に目を向ける。
「あたしはそんな彼女に仕える魔法使いのシオンだ」
「分かった。おれの自己紹介はいるか?」
「必要ありません」
「知っています」
「結構」
話が早くて助かる。
「それで、どうして一緒に食事をすることになったんだ?」
「それは……」
「私が誘ったんです。今話題のバルトラン子爵の次男様ですもの。貴族の間ではとても話題になっております」
「ほう。それで共に食事をしようと?」
「何か問題が?」
「いや、ない。それでは食事にしよう。あまりこんな所でピリピリとしてもしょうがないからな」
「……そうしましょう」
それからはコース料理をヴィーが頼み、無難な会話をして過ごす。
どうしてここに来たのかという事や、これから何をするのか。
ということに関してだったりだけれど、大事な事は師匠が基本的にはぐらかしていた。
患者の名誉などの為にも仕方のないことだと思う。
そんな事を話していると、料理が到着する。
「これは……」
「これがこの店自慢の料理ですよ」
僕の目の前には魚の姿焼きやサラダに切った果実など、とても食べやすそうなものが並んでいた。
それらを食べるととても美味しそうで、最近激しく使ってばかりの胃にも優しい。
「美味しい……」
「ふふ、私もです」
ヴィーが僕の方を見て微笑みながら言って来るので、僕も彼女に笑い返す。
「うん。またヴぃ……リーナの笑顔を見れて嬉しいよ」
「!!」
「どうしたの?」
「い、いえ。なんでもありません」
そうはいいつつもヴィーは必死に胸を抑えている。
師匠が病の気配がすると言っていたし、もしかして病気なんだろうか。
「大丈夫? 僕も多少なら出来るから診ようか?」
僕はヴィーに近寄り、彼女にそっと触る。
彼女の顔がさっきよりも赤くなっている気がした。
「お前達はどういう関係なんだ?」
そこへ、師匠が聞いてくる。
どんな関係って……。
「僕達は友達ですよ」
「……ええ。友達ですね」
「仲がいいんだな」
「はい。とっても大事な……かけがえのない……存在ですから」
僕はそうハッキリと言う。
彼女にはお世話になりっぱなしだ。
僕も……何か返すことが出来たらと思っているのだけど……。
そこに、何かが近付いてくる気配がした。
「?」
僕が個室の扉を見ると、そこにはサシャが目を怪しく光らせてヴィーを真っすぐに見つめていた。
「エミリオ様。そこの女狐は一体どこのどなたですか? それとジェラルド様? エミリオ様を守ってくださると聞いていたのですが? 女狐の毒牙も入っていると思っていたのですが?」
サシャはどこからともなくカチャリと音を立てていた。
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