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4章

65話 流行り病の原因は?

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 僕は午前中は師匠と一緒に町へ行き、師匠に続いて患者の中を飛び回っていた。

 何か使えそうな物はないか。
 僕の体との違いは何だろうか。

 そんな事を考えながら治療を続けた。

「よし。今日はこの辺りでいいだろう」
「分かりました。ありがとうございます」

 それから僕は屋敷に帰ってレイアに体力をつけてもらう為の訓練にはげむ。

「走り込みと剣の素振りをずっとやり続けろ! 足を止めるな! 体勢が悪い! ちゃんと正しい姿勢を身につけろ! いざという時のその姿勢が命運を分けるぞ!」
「はい!」

 レイアは僕と戦いたくならないように、僕に魔法の使用を禁止していた。

 僕が禁止なんだ……と思ったけれど、僕もレイアに襲われるのは正直望まないので受け入れていた。

 夜は夜で師匠と座学の講義だ。
 正直そんなケースがあるのか? と聞きたくなるような場面がかなり多い。

「今回は魔物が病をばらまいていた時だな」
「魔物が病をバラまくなんてあるんですか?」
「当然ある。もちろん数は多くないが……ヒュドラの様に毒をばらまく物もそれに含まれる」
「ああ、なるほど」

 ヒュドラの名前を出されると確かにと納得出来る。
 毒も病の一種。
 その考えであれば分かりやすい。

「そして、魔物がばらまく場合。その魔物には耐性が出来ている事が多い。だから、ヒュドラの毒を浴びてしまった時に、回復術師がいない場合。過去に倒されたヒュドラの解毒薬を飲むしかない」
「そんな都合よくあるものなんですか?」
「ないな。だから、ヒュドラに挑む可能性があるなら、普通は持って行く。いきなり出会った場合は……ご愁傷様しゅうしょうさまとしか言いようがないが」
「そうなんですね……」

 なんて厳しいんだろうか。

「だが、民間療法で薬草をせんじて飲む。ということも行なわれている。話に聞いただけだが、ヒュドラの毒もこの方法で回復出来る事があると聞く。ただ、おれはそんな奴に出会った事がない。もしいたら教えてくれ。勧誘する」
「勧誘……ですか?」

 師匠はなぜか目の色を変え、嬉しそうに笑う。

「そうだ。そんな知識があるのなら、是非とも全て教えていただきたい」
「そ、そうですね」
「とまぁそんな事があるので、いざという時には使うように」
「それって、どこの部分が耐性をつけるのに役に立つのかという事は決まっているのですか?」
「いや、それは決まっていない。知られていない新種の場合、全身バラして試してみることになる」
「かなり厳しいんですね……」
「そうだ。それに、もしそれに耐性があったとしても、人の体に害を及ぼす可能性もある。それを試すにもかなり時間がかかるんだ」

 話を聞いているだけでもかなり大変そうだ。
 乗り越えなければならないハードルが高すぎる。

 その日もそんな風にして1日が終わっていく。

******

 次の日。

「エミリオ。話がある」

 レイアはそう言って訓練の終わりに話してくる。

「なに?」
「明日、アタシは少々森に行く必要が出来た。なので、訓練は見れない。悪いな」
「それは仕方ないよ……何かあったの?」
「話を聞くと、森の調査に行った狩人が戻って来ないらしい。それで、その狩人もかなりの腕だったらしいから、彼以下の狩人を送り出す訳にも行かない。という事でアタシが行くことになった」
「そんな……危険じゃないの?」
「それがいいんだろう? 危険じゃない場所など正直行きたくない位だ」

 そっか……この人はそういう人だった。

「分かった。気を付けて行って来て。僕は町で患者を見ているよ」
「何? ジェラルド殿も一緒に向かうぞ」
「どうして!?」

 僕は信じられなかった。

 誰よりも自身が病にかからないという事を話していた師匠がそんなことをいうとは思わなかったからだ。
 何があったのだろうか。

「詳しいことはアタシも知らん。だが、もしかしたら……という事を言っていた。そして、それを彼の目で確かめたい……とも」
「何があるんでしょうか……」

 心配になってきてしまう。
 一体何があるんだろうか。

 夜になってその事を聞くと、あっさりと答えてくれた。

「この流行り病が不自然だからだ」
「不自然……ですか?」
「そうだ。おれはこれまで回復術師としてそれなりの流行り病の対処に駆り出されてきた」
「はい」
「だが、今回の病はどうもおかしい。簡単に言うと感染経路が分からないんだ」
「感染経路が分からない?」
「そうだ。一応エミリオを呼んだ時点で飛沫感染や空気感染はないことは確かだった。同じ家に住んでいる住人でも感染するしていないという事も分かった」
「では……年齢や性別等ですか?」
「関連性は一切見られなかった。一応、子供や老人は感染率が低い様だったが、それでも決して感染しない訳じゃない」
「それで、その原因が森にあると?」
「あくまで勘だ。というか、そこ以外に変化した所がない」
「変化……ですか?」
「ああ、最近魔物の動きが活発という事を知らないか?」
「そういえば……」

 ロベルト兄さんと湖に行った時も、普段はいないって言われていたはずなのに、あんな場所にいた。
 サシャが最近魔物が多いとも言ってた。
 【宿命の鐘フェイトベル】の人たちも、最近は周囲の間引きで忙しいと言っていた気がする。

「この流行り病は……魔物が関わっている……ということですか?」
「あくまで想像でしかないがな。それに、レイア嬢もそうだ。彼女はアップトペルの町に入っていないそうだ」
「え……でも……」
「そう。彼女は流行り病に感染していた。ということは、森の魔物に原因がある。そう考えても間違いはないだろう」
「なるほど……」
「納得いったか?」
「はい! ありがとうございます! それでは、僕も一緒に行ってもいいでしょうか?」
「なぜそうなる?」

 なぜってそりゃ……。

「僕も力になりたいからです。それに、体力をつける為に森を歩くのも師匠がずっと考えていてくださったことでしょう? 丁度いいではないですか」
「それは……そうだが……」

 勘だったけれど、当たっていたようだ。
 師匠は結構突拍子とっぴょうしもないことをいうけれど、その行動にはきちんと理由があるような気がしている。

「という訳でお願いします! 僕も……皆の役に立ちたいんです!」
「……仕方ない。許可しよう」

 そこまで話した所で、町の人たちの心配が頭をよぎる。

「そう言えば師匠。町の人たちは大丈夫なんでしょうか?」
「一応、明日まで危なそうな者は今日の内に治療しておいた。明日1日くらいであれば問題ないだろう。それよりも、これ以上時間が経って患者が今よりも増えて行くと手に負えなくなる。そうなったら時間は一切作れないからな。今の内に少しでも原因等を掴んでおかなければならない」
「なるほど」
「それに、後から来る他の回復術士達も事前に何が原因か分かっておいてくれた方が助かるからな」
「勉強になります」

 流石師匠だ。
 僕がどうしたらいいのか困っている所にずばずばと答えを出して来てくれる。

 これがマスラン先生が化け物と呼ぶほどの人。

「よし。理解した所で明日は早朝に出る。分かったか?」
「はい!」

******

 翌日。

 僕達3人は森の奥に入って来ていた。

 師匠が懸念した通り、魔物の数は確かに多い。
 ただ、襲ってくる魔物の中には元気のない魔物もそれなりにいて、倒すこと自体は簡単だった。

「ふん。歯ごたえのない。せめて肉は食いがいがあるといいんだがな」

 レイアはそう言いながら、剣についたファングボアの血を振り払う。

「師匠。何か分かりそうですか?」

 師匠はレイアが倒したファングボアの体を調べ始める。
 真剣な顔つきで調べているので、僕にも何か出来る事はないかな。

「ふむ……。ハッキリと分かる事はない。だが、恐らくこの森の奥に……何かある。そんな気がしている」
「森の奥……ですか?」
「ああ、この奥に……」

 師匠が不意に森の奥に目を向ける。

 僕もそれに釣られて目を向けた。
 そこにいたのは……。

「シュロロロロロロロロロロ」

 気味の悪い緑色をした、2ⅿ程のトカゲの形をした魔物だった。
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