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42話 アリジゴク

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『ハルはログインしました』

 ふふん。今日は少し早めの8時55分にはログインしてみた。

 これで待たせずにす……。

「やっと来たわね」
「今日は早いねー」
「お、お疲れ様です」
「あれー? 私結構早めに来たと思ったんだけどなー」

 私が時間を確認すると8時55分。結構全力を出したのに……。

「それだけ皆が楽しみにしてるってことだよー。ナツキなんか」
「『胞子シールド』」
「むぐ!」
「それ以上しゃべったら許さないわよ」
「むぐぐむぐー!」
「分かればいいのよ」
「あはは」

 なんだか私がいない間に楽しくやっていたらしい。

「何時の間にそんなに仲良く……」
「ハルさんと一緒に遊びたいからですよ。張り付いてもいいですか?」
「そうなの? いいよ」
「では」

 フユカは私のお腹に張り付き、アキはバサバサと背中に乗ってくる。ナツキはいつものように頭の上に放り投げた。

「それじゃあ早速行こうか!」
「ええ!」
「レッツゴー!」
「宝箱は任せてください!」

 私は走り出す。

******

 それからの一週間はずっと走り回っていた。荒野から草原から森から山から雪山等様々な場所を走り回った。護石もかなりの量が集まった。

 しかし、これでいいだろう。っていう護石装備までもう少しだった。

「うーん。なんかこれっていう感じでは揃わないわねぇ」
「そうだね。やっぱりもっと先に行かないとダメなのかな?」
「どうだろうねー。でも、あれ以上はレベルが上がってないと厳しいと思うんだー」
「流石にこっちの攻撃でダメージが通らない敵は無理ですよね……」

 今思い返してもやっぱり無理な気がする。そもそも、そこのダンジョンに入る前に警告が出ていたのだ。ステータスが足りていませんと。でも私たちならいける! と突っ込んでみたものの、確かに走り抜ける事、というか躱すことなどは出来たのだけど、攻撃が一切通らなくて泣く泣く諦めた。

「でも、私の本気の『突進』まで防がれるとは思わなかったよ」
「『ぶちかまし』も全部効かなかったからね……」
「あたしも弱点突いた攻撃が全く効かなかったからねー。あれは流石に無理だよー」
「でも、あれでいけるって事が分かりましたね」
「うん」

 そうなのだ。もしも無理な場合であれば、無理と警告が出るのだ。つまり、今回のトカゲサルを倒すイベント『最後の挑戦状』も無理なら出るんじゃないのか? というのが私たちの考えだった。

 でも、そんなものは出ていない。ということであれば、実際に攻略出来ると私たちは結論付けた。

「それじゃあ今行ける範囲でもうちょっと探す?」
「この砂漠エリアでダメだったら考え直しね」
「そうだねー。あと技術の実スキルフルーツも限界まで集めたいかなー」
「ハルさんの速度のお陰で予想以上に宝箱を回れてますもんね。この調子で行けば明日にはいけそうじゃないですか?」
「うんうん。いい宝箱があったら集めに行きたいよね!」
「にしても熱いわね……。私の柔肌があぶられちゃうわ」
「(じゅるり)」
「ちょっと、今よだれを拭いたのは誰よ」
「「「私(僕)(あたし)じゃないよ」」」
「皆じゃないの!」
「あはは」

 私たちは軽口を言いながら走り続ける。

「んー。おかしいなぁ」
「どうしたの? フユカ」
「えっと、今までのフィールドだともう少し宝箱にヒットしたと思うんですけど、ここは中々反応が無くって……」
「もう少し奥の方とか行ってみる?」
「そうですね……お願いできますか?」
「オッケー」
「すいません……。僕がもう少ししっかり出来ればいいんですが……」
「気にしないで。私の上には何もしてないのに堂々と胸を張ってる2人がいるんだから」
「当然よ! 私はいるだけで価値があるのよ!」
「あたしはそこまで言わないけど必要な時には頑張るからねー」
「って言ってるから。ね? 気にしないで」
「は、はい……」

 私は進路をよりこのフィールドの奥の方に向けた時に、アクシデントが起きた。

「何これ!」

 私の足が砂に埋まって行き、前に進めなくなってしまったのだ。

「アリジゴク!?」
「ハル! 頑張ってー!」
「『ソナー』! ダメです! 僕に出来ることはなさそうです!」
「ぬおおおおおおおおお!!! 吠えろ! 私の4WD!」

 私は必死に足を動かして、何とか砂から足を持ち上げる。が、1足を持ち上げている間に他の足がもっと深くに沈んでいく。

「私も何か……そうだ! 『胞子シールド』! ハル! これに乗って!」

 ナツキが私の目の前に板状にしたシールドを展開してくれる。これに乗れれば……!

「うん!」
「私も手伝うよ! 『風よ吹けウインドブロー』!」

 私の後ろから風が吹き体が少し軽くなった気がする。

もう少しでいける。そんな時に。

「うほおおおおおおおおおお!!!!」
「トカゲサル!?」
「何でこんなところに!?」
「『炎の槍よファイアジャベリン』!」
「『ピンポイントショット』!」
「うほおおおおおおお!!!??? 少し位いいではないか! 挨拶に来ただけだぞ!!??」

 トカゲサルはアキとフユカの攻撃をギリギリで躱し、怒ったように言ってくる。

 でも、怒りたいのはこっちだ。このクソ忙しい時に。

「うるさい! こっちは今立て込んでるの!」
「そうよ! あんたと戦ってる暇はないの! 大人しく最初の台地で待ってなさい!」
「『風の槍よウインドジャベリン!』
「『ピンポイントショット!』」
「お前らは攻撃を止めんか! っというか何時まで待たせるのだ!」
「走ってる時に先に攻撃してきたくせによく言うねー!」
「近いです! 離れてください! 警察呼びますよ!」
「最初の2人がまだ優しく感じるとはのう……」

 そう言ってしょんぼりしているトカゲサルを見ると、少し、ほんの少しだけ可愛そうになる。ミジンコ程度だけど。

「だったら助ける位してよ!」
「そうよ! 今こっちはヤバい状況なんだから!」
「ふん。断る」

 やっぱこいつ絶対にぶっ飛ばす。あ、でも足が……。

「もう……無理……」

 私はどうすることも出来ずに砂に沈んでいく。

「ハル! 何とか頑張ってよ!」
「そうだよー! ハルなら何とか出来るよー!」
「ブクブクブクブク」
「ああ! フユカは下にいるからもう沈んでる!」
「あ、ごめん。やっぱ無理……」
「アキ、アンタは生きなさい。私たちの分も生きるのよ」
「ダメだよ。生きる時も、死ぬ時も一緒だよー」
「全く。アンタってやつは……飛ぶのが面倒なんでしょ?」
「バレたー?」

 私たちはそのまま砂のそこに沈んだ。

「ふん。こうでもせねば勝負にならんからな。一人でも出来る様になる・・・・・・・と良いが」

 マウンテンドラゴンコングはぽつりと呟いて飛んでいった。
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