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17話 アキの実力

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「おー。これは気持ちいいねー」

 私は今2人を乗せて渓谷を走っていた。左右にはそそり立つ山や、下が見えないくらい深い谷の間を走る。

 因みにギルドでの説明とかも既に聞いていて、依頼も受けているので問題はない。

「私もいいよー! というかこういう場所を走るのも楽しい!」
「貴方、本当にすごいわね……」
「いいよー。これでアタシが楽出来るしねー。というか寝られそうー」

 アキはそう言って目を瞑ろうとしていた。

 そんな事を話ながら走っていると、いつものことが起きる。

「めぇぇぇ!! っば!」

 パン!

 私は目の前に湧いた羊型のモンスターを弾き飛ばす。

「……今の何ー?」

 アキはさっきまで閉じていた目を見開き、周囲に警戒の視線を送っている。さっきまでのゆったりとした雰囲気とは全く別だ。羽も警戒の為か広げている。

「あれはハルがポップしたモンスターをひき殺した音よ」
「ひ、ひき殺した?」

 アキが緊張からかいつもの間延びした声では無くなっている。

「そうよ。ハルのスピードが速過ぎて湧くのと同時に殺しちゃってるのよ」
「そんなことあるのー?」
「あるんだから仕方ないじゃない」
「それもそうかー」

 アキはそう言って羽を畳んで、眠そうに俯いた。

「貴方、寝るのは後にしなさいよ」
「後なら寝ていいのー?」
「ゲームが終わったらね」
「はーい」

 アキはそう言って起きだす。

「それで、アキはどうしてこのゲームを始めたの?」
「んー? トリになれば、楽にっていうか、邪魔されずに寝られると思ってー」
「寝るためにゲームをするってどうなのよ」
「でもー、色んな景色の場所で寝るのって楽しいじゃないー?」

 皆も分かるでしょー? とでも言いたいのか首を傾げている。

「旅行したいとかなら分かるけど、寝る為だけにってのはちょっと分からないわ……」
「そう? 私は色んな所を走りたいから分かるわー」
「ちょっと口調までうつってるわよ」
「いいじゃないー。みんな一緒にのんびりしようよー」
「嫌よ。私はこのまま、この美しいエリンギのままでいいんだから」
「もしかしてだけどー。魔法の適性があるからキノコを選んだんじゃないのー?」
「違うわよ。私はこの美しい姿をこの世に知らしめたいからやっているに決まっているじゃない」
「……そうなんだー。最初は普通かと思ってたけど一番ヤバいかもねー」
「何でよ! そのキノコの素晴らしさを分からない貴方の様な人に教えてあげるのよ」
「ガンバッテネー」

 あ、これは色々と諦めたな。そう思わされるような声色だった。

 パン!

「そう言えば、アキはどれくらい前に始めたの?」

 パン! パン!

「あたしー? 始めたって言ってもまだ1週間くらいだよー」

パン! パン! パン!

「じゃあすごい先輩だね。私まだ2日目なんだ」

パン! パン! パン!

「2日目でもうここまで来たのー? すごくないー?」

パン! パン! パン! パン! パン! パン パン! 「めえ!」

「三々七拍子!」
「どうしたの?」

 ナツキが何か叫び出した。どうしたんだろう。

「どうしたの? じゃないわよ! めっちゃ引き殺してるじゃない! 普通に戦闘態勢に入りなさいよ!」
「えーだって」
「こうやってるだけで倒せるんだからいいじゃないー。あ、レベル上がったー」

 パン!

「のんき過ぎない? 私たちダンジョンに向ってるのよ?」
「いいじゃない。ここはどうせ移動時間なんだし」
「そうそう。やる気はついてから出せばいいのよー」
「本当にやる気出すのかしら……」
「大丈夫ー」

 アキはそう言って私の上で丸まった。と言っても、そこまで広くないので、彼女のくちばしがナツキの笠の上に乗っている。

「ちょっと、そんな重たい物を載せないでよ」
「乙女に重たいは良くないよー」
「じゃあそんなことしないで頂戴!」
「はーい」

 そう言ってアキはナツキの上から頭をどかした。

「そろそろかなー?」
「そろそろ?」
「うん。出て来たねー」
「めえええええええええ!!!」

 羊のような鳴き声が聞えたと思うと、左右に立っている岩場の上に羊のモンスターがポップしていた。

 さっきまでは出てくる側から倒していた為何をして来るか分からなかったけど、今は体中の綿から水を出して攻撃する気満々だ。

「あんな位置は攻撃出来ないよ!」
「こんなこともあろ……」
「一旦駆け抜けましょう! 攻撃は私が防ぐから!」
「いやーちょっとあたしの話を……」
「分かった! うおおおお!!! 唸れ私の4脚! 4WD の力を見せてやる!」
「待ってー? あたしならこの状況を……」
「4WDは車に使う言葉でしょう! 『胞子シールド』!」

 ビチャビチャビチャビチャ!!!

「耐えられそう!?」
「当然でしょ! 私のシールドを舐めないでよね!」
「あの……そろそろ……あたし……」
「もうすぐ抜けるよ!」
「だから、あたしなら……」
「分かったわ! 抜けたら一回止まって考えた方がいいかもしれないわね!」
「いい加減にしてー!?」

 アキが唐突に吠えた。さっきまでは眠たそうにしていたのに一体どうしたのだろうか?

「わ」
「どうしたの? 寝てていいわよ?」
「だから話を聞いて頂戴? あたしなら何とか出来るから!」
「え? でも飛ぶのが遅いって」
「私たちも遠距離攻撃が出来ないから逃げるしかないのよ」
「あたしが出来るから!」
「え? 飛べるの?」
「そっちじゃなくて」
「逃げるのならハルに乗っていた方が安全よ」
「だから違うって! あたしは魔法にステータスを振ってるのー!」
「……」
「……」
「な、何で黙るのよ」
「またまたー」
「乗っていたいからって無理言わなくていいのよ?」
「何で信じてくれないのよ……。ほら! これ!」

名前:アキ
種族:ペリカン
レベル:19
ステータス
HP:43/43
MP:88/88
STR:16
VIT:29
INT:85
DEX:62
AGI:30
スキルポイント:30

スキル:飛行、瞑想
魔法:火魔法Ⅳ、風魔法Ⅳ

 アキがそう言って見せてくれたステータスを私とナツキで確認する。

「ほんとだ」
「それにしても極振りし過ぎてない?」
「それはまぁ、こうやって動かずに戦えるのが楽だからねー」
「めえええええええ!!!」

 またしても敵がポップするけど、今度も同じように左右の崖の上などに3,4体ずつだ。

「こうすると楽なんだー。『火球よファイヤーボール』×4!」

 アキがそう言うと彼女の周囲に火の玉が4個ほど浮かび上がる。そして、そのまま左右に飛んでいく。

「めえええええええ!!??」

 アキの放った魔法で周囲にいた羊が火だるまになって燃え上がり、そのまま消え去ってしまう。

「もういっちょー! 『風の弾よウインドストライク』×3!」

 アキが今度は別の魔法を使う。すると、空気が揺らいだと思ったら、その揺らぎが生き残っている羊に飛んでいき、残りのモンスターをズタズタに引き裂いた。

「これで分かったー?」

 アキがどうよ? とでも言うように私たちを見下ろしている。

「すごーい! すごい凄い凄い! すごいよ!」
「そうね。これだけ簡単に倒せるなんてアキのお陰よ」
「でしょー? 私これでも魔法の扱いには自信があるんだからー」

 そう言って眠ろうとするアキに向かって、私は言う。

「じゃあ、次の奴らもお願い!」
「めえええええええええええ!!!」

 私は速度を落とさずに走り続ける。その為、直ぐに新しいモンスターと出会うのだ。

「し、仕方ないわねー! 『火球よファイヤーボール』×4! 『風の弾よウインドストライク』×3!」

 アキがまたしても羊のモンスター達を一瞬で倒す。

「すごい凄い! もっとやってもっとやって! 見て居るだけでも楽しいよ!」
「めえええええ!!!」
「ちょっと走る速度速くないー!? 流石にMPが」
「早くー!」
「ファ、『火球よファイヤーボール』×3! 『風の弾よウインドストライク』×3!」
「めええええええええ!!??」
「ど、どんなもんよー。これがあたしの……」
「次の来たよー!」
「いい加減にしてくれないかなー!? MPは無限じゃないんだけどー!?」
「アキならいけるって! 私知ってるから!」

 知らないけど。でもやってくれるだろう。

「ただ乗りなんて許さないわよ! キリキリ働きなさい!」
「そういう貴方は何をやってるのよー! 『火球よファイヤーボール』×4!」
「私はここを守るっていう大事な役目があるから」
「あたしもそうすれば良かったー。『風の弾よウインドストライク』×2」

 アキはそう言いながらも魔法を放ち続ける。と思っていたら、唐突に言い始める。

「あ、MPが切れちゃったー。ちょっと『瞑想』で回復するからー」

 アキは目を閉じて集中している。『瞑想』ってそんな効果があるんだ。

「ナツキ、このまま走り抜けるよ!」
「ええ! 守りは私に任せておきなさい!」

 私たちは走り続ける。

************************
魔法にはルビを振るようにしました。

それに伴って以前のものも修正しました。よろしくお願いします。
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