144 / 150
レモンの憂愁
08 ー 冬将軍と銀狼
しおりを挟む魔獣の選別を手伝い終えると、徹夜作業だったということもあってそれぞれ部屋に戻り、仮眠を取ることになった。
誠もアレクセイと部屋に戻ったが、仮眠の前に勇者の件を報告しなければならない。テーブルセットにお茶を用意すると、誠は見たことをくまなくアレクセイに伝えた。
彼らのうち三人を確認できたこと。ほぼ十割の確率で誠と同郷だということ。そして彼らがまだ学生だということもだ。
アレクセイは聞き終わると、ふーっと大きく息を吐き出して背もたれに背中を預けた。
「…そうか。同郷か」
「うん。学校の制服じゃなくて貴族が着る服着てたから学校は特定できないけど、彼らが向こうで失踪した高校生で間違いないと思う」
「コウコウとは…学校の種類だったな」
「そう」
この国では日本の中学に相当する学校と、高校に相当する学校があるだけだ。アレクセイは以前、日本の教育に関して興味を示していたが、全員が全員、勇者のような生徒だと誤解してほしくない。
誠はお茶を飲み干すと、携帯鳥居を取り出した。
「サガミ殿か?」
「うん。すぐに連絡しないとね」
落ちそうになる瞼を擦りながら、鳥居に力を流す。会議や誰かと会談していない限り、相模はすぐに出てくれるはずだ。神域で執務中だったという相模は誠の予想通り、すぐに応答してくれた。
向こうの邸で見聞きしたことを相模に伝えると、鳥居の向こうからは相模の大きな溜息が聞こえてきた。
『はー…やっぱりですか』
「やっぱりって…そっちでも手がかりが見つかったってことですか?」
『ええ。だいぶ薄れてましたが、無理な転移魔法の痕跡が発見されました。そしてそれは、そちらの世界に繋がっていた…』
失踪した少年達の様相も、誠が見た三人と一致したという。
それまで黙っていたアレクセイは誠に少し良いかと断り、相模と話しだした。
「召喚魔法はこの国や近隣諸国では、失われた魔法と伝えられています。それがなぜ今になって成功したんでしょうか」
「どういうこと?」
「召喚魔法の術式は教会に残っているんだ。けれどここ数百年、成功した話を聞かない。それがなぜ今になって成功したんだろうと思ってな。神託が降りたから、創造神が関わっているのは確かだろうが…」
『それは、神々での協定があるから成功しなかったんでしょう。…まあ、その裁量はその世界の神に任されていますが…そうですねぇ…』
相模は何やら考えているようだが、おそらく誠と考えていることは同じだ。この世界の創造神であるルシリューリクの暴走。いや、楽しそうだからという悪戯心で、身勝手にも異世界間の召喚魔法を手助けしたのだと。
「…バッカみてぇ」
ボソッと零した誠の声は、アレクセイと相模の両方に届いていた。
『そうですね。この件に関しては統括の神が大層お怒りなので、問題が解決次第、お尻をペンペンしてもらいますよ…ええ、徹底的にね』
「ペンペン…」
段々と相模の声が低くなったことから、統括の神の機嫌がかなり悪いことが伺える。それを抑えるのも相模の仕事なのだが、これは相当ストレスが溜まっているようだ。
それに神同士の協定は、どうしても神格が物を言う場合がある。相模はお尻をペンペンだと可愛らしい表現をしたが、普段は相模の尻に敷かれている統括の神はあれでもかなり高位の神だ。ルシリューリクなど、統括の神が本気を出せば消滅に近いところまでもっていけるだろう。
「とにかく、これからどう行動するか、互いに擦り合わせよう」
鳥居の向こうから不穏な空気を感じ取ったのか、アレクセイが促した。誠と相模はそれもそうだと、相談し始めた。
しかし、事はこの国の政治にも影響を及ぼしかけている問題だ。しかも召喚魔法や転移に関する術は、誠では対処のしようがない。
『それなら誠君が鳥居を持っているので、もう少し世界間のバランスが整えばそれを目標ポイントにして、私がそちらに転移できるのですが…』
「あ、少しは良くなったんだ」
『ええ、何とか』
先日の神在月で神々が一同に解したおりに、神力をいっぺんに送って修復を図ったそうだ。修復作業は個々で行うより、数柱の神が力を合わせて行った方が効率が良い。出雲の温泉宿で力を蓄えた後なら、神々の力も漲っていたことだろう。
光明が見えたと、誠の気は少しだけ楽になった。
「じゃあ、そっちに送り返すのは相模さんに任せて良いってことですよね?」
『ええ、そうですね。私がそちらに転移する時に、諏訪様のお力も借りようと思っています。送り出す力が強いと、更に安全に転移できますし』
「そうですね。諏訪さんに、俺が相模さんに力を貸してあげてって言ってたって、伝言お願いできますか?」
誠は自分が諏訪にかなり溺愛されていることを自覚している。たまに頼ると、デレデレした表情でお願いを聞いてくれるので、誠はそれに賭けることにした。
『ありがとうございます、必ず伝えますね。これなら統括の神の力が無くても楽にそちらに向かえそうです』
相模のこの言い方から、やはり統括の神は今の世界間の状態では、相模を出したくないと思っているようだ。けれどそれを素直に聞く相模ではない。やはり諏訪を引き合いに出すのは、統括の神への当て付けと、自分の仕事へのプライドだ。あとは、誠を心配していることも含まれているのだろう。
だったら誠は、相模が仕事をしやすいように場を整えるだけだ。政治面はフレデリクに任せるとしても、現場はアレクセイに手を貸してもらうしかない。
隣を見ると澄んだ氷を彷彿とさせるアイスブルーと視線がぶつかる。真っ直ぐに自分を見るその瞳には、頼っても大丈夫だという安心感がある。
「アレクセイ、力、貸してくんねえかな」
答えは分かり切っているが、鼓膜を震わせるような少し擦れた甘い声で答えを聞きたい。
アレクセイは片方の口角を上げると、誠の頬をするりと撫でた。
「ああ、もちろんだ。そちらだけの問題でもないしな。君のお願いなら、俺はできる限り応えたいよ」
そうして少し話を詰めたあと、誠はいろいろな料理と今朝作ったパンケーキを相模に納め、仮眠を取るためにアレクセイとベッドに潜った。
胸元に額を押し付けてみると、優しいジャスミンとミントが混じった香りに包まれた。
0
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる