神様の料理番

柊 ハルト

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レモンの憂愁

08 ー 冬将軍と銀狼

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 魔獣の選別を手伝い終えると、徹夜作業だったということもあってそれぞれ部屋に戻り、仮眠を取ることになった。
 誠もアレクセイと部屋に戻ったが、仮眠の前に勇者の件を報告しなければならない。テーブルセットにお茶を用意すると、誠は見たことをくまなくアレクセイに伝えた。
 彼らのうち三人を確認できたこと。ほぼ十割の確率で誠と同郷だということ。そして彼らがまだ学生だということもだ。
 アレクセイは聞き終わると、ふーっと大きく息を吐き出して背もたれに背中を預けた。

「…そうか。同郷か」
「うん。学校の制服じゃなくて貴族が着る服着てたから学校は特定できないけど、彼らが向こうで失踪した高校生で間違いないと思う」
「コウコウとは…学校の種類だったな」
「そう」

 この国では日本の中学に相当する学校と、高校に相当する学校があるだけだ。アレクセイは以前、日本の教育に関して興味を示していたが、全員が全員、勇者のような生徒だと誤解してほしくない。
 誠はお茶を飲み干すと、携帯鳥居を取り出した。

「サガミ殿か?」
「うん。すぐに連絡しないとね」

 落ちそうになる瞼を擦りながら、鳥居に力を流す。会議や誰かと会談していない限り、相模はすぐに出てくれるはずだ。神域で執務中だったという相模は誠の予想通り、すぐに応答してくれた。
 向こうの邸で見聞きしたことを相模に伝えると、鳥居の向こうからは相模の大きな溜息が聞こえてきた。

『はー…やっぱりですか』
「やっぱりって…そっちでも手がかりが見つかったってことですか?」
『ええ。だいぶ薄れてましたが、無理な転移魔法の痕跡が発見されました。そしてそれは、そちらの世界に繋がっていた…』

 失踪した少年達の様相も、誠が見た三人と一致したという。
 それまで黙っていたアレクセイは誠に少し良いかと断り、相模と話しだした。

「召喚魔法はこの国や近隣諸国では、失われた魔法と伝えられています。それがなぜ今になって成功したんでしょうか」
「どういうこと?」
「召喚魔法の術式は教会に残っているんだ。けれどここ数百年、成功した話を聞かない。それがなぜ今になって成功したんだろうと思ってな。神託が降りたから、創造神が関わっているのは確かだろうが…」
『それは、神々での協定があるから成功しなかったんでしょう。…まあ、その裁量はその世界の神に任されていますが…そうですねぇ…』

 相模は何やら考えているようだが、おそらく誠と考えていることは同じだ。この世界の創造神であるルシリューリクの暴走。いや、楽しそうだからという悪戯心で、身勝手にも異世界間の召喚魔法を手助けしたのだと。

「…バッカみてぇ」

 ボソッと零した誠の声は、アレクセイと相模の両方に届いていた。

『そうですね。この件に関しては統括の神が大層お怒りなので、問題が解決次第、お尻をペンペンしてもらいますよ…ええ、徹底的にね』
「ペンペン…」

 段々と相模の声が低くなったことから、統括の神の機嫌がかなり悪いことが伺える。それを抑えるのも相模の仕事なのだが、これは相当ストレスが溜まっているようだ。
 それに神同士の協定は、どうしても神格が物を言う場合がある。相模はお尻をペンペンだと可愛らしい表現をしたが、普段は相模の尻に敷かれている統括の神はあれでもかなり高位の神だ。ルシリューリクなど、統括の神が本気を出せば消滅に近いところまでもっていけるだろう。

「とにかく、これからどう行動するか、互いに擦り合わせよう」

 鳥居の向こうから不穏な空気を感じ取ったのか、アレクセイが促した。誠と相模はそれもそうだと、相談し始めた。
 しかし、事はこの国の政治にも影響を及ぼしかけている問題だ。しかも召喚魔法や転移に関する術は、誠では対処のしようがない。

『それなら誠君が鳥居を持っているので、もう少し世界間のバランスが整えばそれを目標ポイントにして、私がそちらに転移できるのですが…』
「あ、少しは良くなったんだ」
『ええ、何とか』

 先日の神在月で神々が一同に解したおりに、神力をいっぺんに送って修復を図ったそうだ。修復作業は個々で行うより、数柱の神が力を合わせて行った方が効率が良い。出雲の温泉宿で力を蓄えた後なら、神々の力も漲っていたことだろう。
 光明が見えたと、誠の気は少しだけ楽になった。

「じゃあ、そっちに送り返すのは相模さんに任せて良いってことですよね?」
『ええ、そうですね。私がそちらに転移する時に、諏訪様のお力も借りようと思っています。送り出す力が強いと、更に安全に転移できますし』
「そうですね。諏訪さんに、俺が相模さんに力を貸してあげてって言ってたって、伝言お願いできますか?」

 誠は自分が諏訪にかなり溺愛されていることを自覚している。たまに頼ると、デレデレした表情でお願いを聞いてくれるので、誠はそれに賭けることにした。

『ありがとうございます、必ず伝えますね。これなら統括の神の力が無くても楽にそちらに向かえそうです』

 相模のこの言い方から、やはり統括の神は今の世界間の状態では、相模を出したくないと思っているようだ。けれどそれを素直に聞く相模ではない。やはり諏訪を引き合いに出すのは、統括の神への当て付けと、自分の仕事へのプライドだ。あとは、誠を心配していることも含まれているのだろう。
 だったら誠は、相模が仕事をしやすいように場を整えるだけだ。政治面はフレデリクに任せるとしても、現場はアレクセイに手を貸してもらうしかない。
 隣を見ると澄んだ氷を彷彿とさせるアイスブルーと視線がぶつかる。真っ直ぐに自分を見るその瞳には、頼っても大丈夫だという安心感がある。

「アレクセイ、力、貸してくんねえかな」

 答えは分かり切っているが、鼓膜を震わせるような少し擦れた甘い声で答えを聞きたい。
 アレクセイは片方の口角を上げると、誠の頬をするりと撫でた。

「ああ、もちろんだ。そちらだけの問題でもないしな。君のお願いなら、俺はできる限り応えたいよ」

 そうして少し話を詰めたあと、誠はいろいろな料理と今朝作ったパンケーキを相模に納め、仮眠を取るためにアレクセイとベッドに潜った。
 胸元に額を押し付けてみると、優しいジャスミンとミントが混じった香りに包まれた。
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