神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
143 / 150
レモンの憂愁

07 ー 冬将軍と銀狼

しおりを挟む

 自分も狐の姿になろうかと言ったがアレクセイが背中に乗せたがったので、誠は大きな銀狼の背に揺られながら目的地に向かっていた。
 月明かりが雪で反射され、いつもより幻想的な夜だ。
 目の前には熊とコヨーテとゴールデンレトリーバーが一列になり、熊の上には鷹獣人が乗っている。それを一番後ろから見ていると、ここだけ童話の世界のようだ。
 けれどそう思えていたのは移動中だけで、目的地に着く頃には魔獣の凍死体がゴロゴロとそこら中に転がっている現実に直面する。口を開けたまま牙が剥き出しになっているので、ある種の地獄絵図だ。

「…何匹居んの、これ」

 アレクセイの背から降りた誠が思わず呟く。雪崩にでも遭遇したのか、手や足しか見えていないものもあった。
 ある程度はオスカーの風魔法で雪を散らしたそうだが、それでも見渡す限りの雪だ。流石に全域となると、魔力が足りないらしい。
 とっさのことだとは言え、アレクセイはどれだけ魔力を保有しているのだろう。だから魔力が漏れ出すと周りに雪が降るのかと誠が納得していると、あることに気が付いた。

「これってアレクセイが出した雪なんだから、アレクセイが消せないの?」

 自分のケツは自分で拭く。これしかない。
 けれど人型になったアレクセイは困ったように誠を見てきた。

「それならとっくに試したさ。けれど鏡の作用か魔法の作用か、全く効果が無かったよ」
「…マジか」

 誠は絶望した。
 これだけの雪だ。溶かすにしても辺り一面が水浸しになり、下手をすると小川くらいはできるかもしれない。水で流すのも同じだ。側溝があるわけではないので、事態が悪化するだけだ。

「こうなりゃ…」
「こうなりゃ?」

 人型になったレビ達が誠を見つめる。

「…地道にやるしかない…気がする」

 しごく真面目な表情を作った誠がそう言うと、レビ達の目は半目になってしまった。
 誠とて他に案があったり力があれば、とっくにそうしている。けれど除雪作業は思ったよりも大変なのだ。
 こういう時に諏訪が居れば雪なぞすぐに消せるのだが、それは無いものねだりだ。

「俺が雪を風で飛ばすから、その間に回収お願いしても良い?」
「…そうだな。この雪の量だ。溶かすよりもそちらの方が良いかもしれんな。足場を確保できれば、回収作業も早く終わるだろう」

 アレクセイが頷くと、レビ達はそれに追随した。
 誠はバッグから鉄扇を取り出すと、思い切り振り上げた。強い風が起こり、雪の塊がかなり巻き上げられる。レビ達はその隙にまだ体半分が雪に埋まっている魔獣を引っ張り出し、せっせと巾着しまっていった。
 その作業を何十回繰り返しただろう。夜空の色が薄くなる頃に、やっと終わりが見えてきた。

「これで…最後!」

 誠は力を振り絞ると、残りの一角の雪を舞い上げる。疲れで無言になっているレビ達は魔獣を何体も引っ張り出すと、先に作業を終わらせていたドナルドが素早く巾着に魔獣をしまった。

「…終わったー!」

 それを見届けたレビが、その場で大の字になる。少し踏みしめられているが、まだふかふかの雪だ。疲れて熱った体には心地良いだろう。
 しかし、レビは忘れていた。まだ誠が舞上げた雪は、地上に降りてきていないのだ。

「レビ!」

 それに気付いたルイージが声をかけるが、少し遅い。レビは落下してきた雪の塊に埋もれてしまった。

「レビ…良い奴だったのに…」
「何バカなこと言ってるんですか!ほら、オスカーさんも手を貸してください!」

 真っ先に避難していたオスカーがそう呟くが、即座にルイージに叱られていた。


 やっとのことで邸に戻ると、空の色はすっかり水色に変わっていた。誰もが先に魔獣の確認をしなければならないことを理解しているのだが、どうしても足は食堂に向かってしまう。
 アレクセイはそんなレビ達を黙認しつつ、誠に朝食作りを頼んでいた。

「まあ、腹が減っては戦ができぬって言うし。ご飯できるまで、先に風呂でも入ってきたら?」

 洗浄魔法で団服を綺麗にしているとはいえ、体は冷えているはずだ。体を鍛えているから風邪はひかないかもしれないが、少しはゆっくりして欲しいものだ。
 誠がそう提案すると、レビ達はノロノロと移動し始めた。

「アレクセイも先に風呂入ってきたら?」
「いや、俺は君の手伝いがあるからな」
「…分かった。じゃあ、手伝ってもらおうかな」
「ああ。喜んで」

 アレクセイはふわりと笑うと、誠と一緒に厨房に向かった。こうして少しでも自分との時間を作ってくれようとしてくれることが嬉しい。アレクセイは誠と手を繋げたことが嬉しいようで尾を緩やかに降っているが、それは誠も同じだった。

「さて…」

 とは言え、体を温めて欲しいのはアレクセイもだ。調理を始める前に、誠はミルクパンを取り出して水を温めた。
 作るのは蜂蜜レモン。すぐに体が温まるし、レモンも蜂蜜も体に良いのだ。だがビタミンCは六十度以上になると壊れてしまうと聞いたことがあるので、沸騰する前にミルクパンを火から下ろした。

「先にそれ飲んで」
「ありがとう。レモンと蜂蜜か。確かゼリーでもその組み合わせがあったと思うが」
「よく覚えてたな。その組み合わせって相性が良いんだよ」

 アレクセイが飲み干すのを確認してから、一緒に朝食を作り始めた。
 疲れも溜まっているだろうから、今朝は甘いメニューにする。久しぶりにパンケーキでも良いだろう。
 そうと決まれば、生地を混ぜるのはアレクセイにお任せだ。サイドメニューももちろん作るが、蜂蜜とバターのパンケーキだけではなく、甘くないパンケーキも作ることにした。ベーコンとアスパラ、そして目玉焼きを乗せれば見栄えも良いし飽きないだろう。
 甘い匂いにつられたようにレビ達はぞろぞろと食堂に入ってきたが、食べ終わる頃になるとこの後に控えている魔獣の選別作業のことが頭をチラチラと過ったらしく、「椅子に根が張った」「立ち上がりたくない」とぼやいていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...