神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
80 / 150
シロップの展望

03 ー カルトーフィリ村

しおりを挟む

 鍋の締めは、雑炊かうどんか悩むところだ。冷凍のうどんを持って来ているが、誠は雑炊を選んだ。
 バッグの中からスルトの別館で炊いてあった米を取り出して鍋に入れる。溶き卵を流し入れると完成だ。たまにはパン以外の主食を食べたかったのは、誠だけの秘密だ。
 自分の欲求に付き合ってもらったが、米はレビ達にも好評だった。大食い微笑み王子であるルイージは米に興味を持ったらしく、今度の長期休みは米を探すと言い出したのには驚いたのだが。
 食事の片付けが終わると、誠はアレクセイによってテントの中に引きずり込まれてしまった。約束だったから仕方が無いが、途中目の合ったオスカーに生温い視線を送られ、声に出さずに「がんばれ」と言われてしまい、誠は居た堪れない気持ちでいっぱいになった。

「…ん」

 自分のテリトリーに入った銀狼は、容赦がなかった。誠の口内を蹂躙する勢いで舌を絡め、唾液を啜る。その音に羞恥を覚えながらも、誠は懸命にアレクセイに応えた。
 何度も唇を合わせる角度を変え、誠の舌を優しく噛んだり舐めたりしたアレクセイはやっと満足したのか、名残惜しそうに誠の下唇を舐めてから少し離れた。

「マコト」
「…何?」

 あまりの情熱にトロンとした目になった誠は体に力が入らず、アレクセイに体を預けている。

「君は一体、どこまで俺を惚れさせれば気が済むんだ」
「さあ?」

 誠はクツクツと笑いながら、アレクセイの首にするりと腕を回した。
 別に計算しているわけではない。誠は自分がしたいことを、しているだけだ。それでアレクセイが喜んでくれるなら、こんなに嬉しいことはない。

「君には一生、振り回されそうな気がするな」

 アレクセイはそう言うが、誠の頬を撫でる手つきは優しい。
 きっと誠に触れるのを我慢していたのだろう。それが爆発したのが先程の荒々しくも官能的なキスで、本当はこうしてゆっくりと触れ合いたかったのかもしれない。
 誠はアレクセイのしたいように、身を任せていた。時折いたずらな指先が、唇を撫でていく。顎を掬われ、額に、頬に、唇に。小さなキスを落とされた。
 しばらくそうしていると、急にアレクセイの胸元から鳥の鳴き声が聞こえてきた。

「…チッ」

 珍しく舌打ちをしたアレクセイは誠を片腕に抱いたまま、胸元を漁る。通信用のコンパクトが音の原因だったようで、少し乱暴に開くとフレデリクの声が聞こえてきた。

『やあ、アレクセイ。お兄ちゃんだ』

 先程のムードを成層圏まで吹き飛ばす台詞に、誠はむせてしまう。アレクセイは余計に気分を害したのか、眉間に皺を寄せていた。

「何ですか兄上」
『おや、マコトも一緒だったか。それはすまないな』
「本当ですよ。それで、要件は」
『マコト、聞いているか。弟が私に対して冷たいよ』
「聞いてますよー。タイミングが悪かったんじゃね?」

 急に話を振られたが、誠はアレクセイの胸をぽんぽんと叩きながら笑っている。実の兄は好きだが、やはり家族なので邪険にしてしまう時がある。アレクセイも同じなのだろう。
 やはりこの二人は、確かに兄弟だ。

『そうか。それはすまなかったな』
「兄上!話を進めてください」
『そうだな。マコトにも知っておいて欲しいんだが、各地で魔獣の目撃数が増加している。そちらは何か変わりは無いか?』
「…去年よりも群れに遭遇する割合が多いと思われます」

 誠はあまり気にしていなかったが、言われてみるとミョート村からスルトの港街の間と比べて、港街を出てからの方が魔獣やその群れに当たる回数が多かったように思う。出やすい地帯だと勝手に思っていたが、アレクセイの言葉からすると、そうではないようだ。

『スタンピードの予兆は出ていないのだがな…。冒険者ギルドから話を聞いたが、あちらも魔獣の増加を確認しているが、スタンピードの予兆は見られないと言っていた。魔獣の亜種のこともある。気を付けろよ』
「分かりました。何かありましたら、その都度連絡します」
『ああ。マコトも気を付けろ。アレクセイになら迷惑をかけてもかまわん。自分の身を守れ』

 部隊長の一面を見せていたのに自分の心配をしてくれたフレデリクに、誠は少し嬉しくなった。

「了解」

 それから少し話をして、通話は終了した。
 アレクセイは誠と兄が以前より仲が良いことに訝しんでいたが、誠は適当に流しておく。先日の協定の件は、何となく秘密にしておきたいからだ。
 しばらくのんびりしていると、夜番の交代の時間になった。テントから出ていくと、ルイージとレビがぴたりとくっ付いて座っているのが見えた。レビの頬が赤いのは焚き火のせいかと思っていたが、近付いてみると珍しくルイージがレビの肩を枕にして眠っているようだ。

「…ルイージって、居眠りするイメージが無いんだけど」
「ルイージは体力が少ない方だからな。それにこの時期は疲れが溜まってくる頃だ」
「へー。だからレビが固まってるのか」

 ニヤニヤしながらレビの顔を覗くと、動けないレビは、むっと唇を突き出す。

「仕方ないだろ。こんなルイージは珍しいんだよ。あれでいつも気ぃ張ってるし、隙を見せたがらないんだ」

 そう言いながら何とか首を捻り、ルイージを見るレビの顔は穏やかな笑顔を浮かべていた。
 ルイージを起こさないように横抱きにしたレビは自分のテントの前で立ち止まると、こちらを振り向く。

「…マコト、すまん。テント開けてくんねぇ?」

 アレクセイ班の元気印のようなレビは、決めるところで決めきれない星の元に生まれたらしい。誠は笑いながらテントを開けてやった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...