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シロップの展望
02 ー カルトーフィリ村
しおりを挟む彼らの仕事を奪ってはいけないのは分かる。分かるのだが、やはり自分も戦いたくてうずうずしてしまう。
昼食を終え、移動しているとオークの小さな群れに遭遇したので、約束通り今回の討伐は譲ってもらった。
誠は早速、群れに突っ込んで行った。
先頭にいたオークの体勢をスライディングで崩すと、立てた膝を駆け上がるようにして顎に膝を決める。いわゆる、シャイニングウィザードだ。決めポーズは取らずに、そのまま空中で一回転をして次の獲物にかかる。
首を足で締めてそのまま地面に落としたり、オークの巨体を壁に見立てて駆け上がって隣のオークに蹴りを決めたりと、やりたい放題だ。あらかた戦力を削ると、最後は鉄扇を取り出してオークを空中に放り投げ、トドメに雷を落としてやった。
体術メインにしたのは、レビ達の特訓が途中だったからだ。スルトの港街でも続けるようにはしていたのだが、いかんせん時間が無かった。今まで通り夕飯後にも特訓はするが、あとは見て技を組み合わせて欲しいのだ。
ちなみに、誠の体術は基本的には合気道がメインだ。そして趣味で始めたパルクールと、牡丹に教えられたよく分からない型を混ぜている。
息たえたオークを回収していると、アレクセイ達が集まってきた。
「怪我は…無いようだな。見事な戦いだった」
「そりゃどうも。そろそろ冒険者ランク上げたいからさ。オークだったら楽勝だわ」
誠がそう言うと、レビは半目になっていた。
「…マコトなら部隊長にも勝てそう」
それから順調に進めたので、少し早いがこの辺りで夜を明かすこととなった。村へ続く道から少し離れてテントを張る。この辺りだけ草が生えていないのは、同じようにキャンプ地とする人が多いからだろう。
焚き火用にできる大きめの石が積んであったので、火はそこで起こすようだ。
誠は作業台を出すと、調理に取り掛かった。
まずは角煮を仕込む。トライポッドと鍋を出してもらい、アク取りはテントを張り終えたオスカーに頼んだ。
メインは角煮だが、冬と言えばやはり鍋だ。土鍋は無いので中華鍋に似た鍋をアレクセイに借りると、二種類の鍋を作ることにした。一つは細切り野菜をオークのスライス肉で巻いたものを。もう一つは残っていた川魚をつみれにしたものだ。
本当は巻きしゃぶ鍋を作りたかったのだが、誰も箸を使えないので最初から野菜を肉で巻いて爪楊枝で留めることにしたのだが、大量に作らなければならないので、途中でどうしても面倒臭くなってくる。こういう時に頼りになるのはアレクセイなので、誠は近くをうろうろしていた狼を捕まえ、手伝ってもらうことにした。
他の四人は、調味料を入れて後は煮るだけとなった角煮の鍋の周りに集まっている。誠はその様子を見て笑いながら、鍋の準備は着々と進めた。
アレクセイに鍋用の焚き火台を二つ作ってもらっている間に野菜のオーク巻き用の塩ダレを作る。味見係はもちろんアレクセイだ。
「どう?」
「美味いな。さすがマコトだ」
「ふふん。褒めても何も出ないけどね」
ついでにつみれ鍋用のゆずポンの味見も頼む。これも大丈夫そうなので、最後にほうれん草のおひたしをさっと作り、鍋の様子を見てからレビ達に声をかけた。
角煮も気になるが、鍋も気になるのだろう。アレクセイが食前の祈りの最中でもレビ達は目の前の鍋に集中しているのが分かる。
組んでいた手を離すや否や、レビ達は一斉に角煮の鍋に群がった。
「…すっげー勢い」
「ずっと美味そうな匂いがしていたからな」
アレクセイはそんな彼らを見て苦笑いを浮かべながら、トングを使って鍋の具材を皿に盛る。
タレやゆずポンが入った小鉢代わりの小さめのスープ皿は、折り畳みのテーブルの上に乗せてある。
「アレクセイは角煮食べないの?」
「食べたいが、先に手伝った鍋を食べたい」
「そっか」
近くで悲鳴に近い歓声が上がる中、こちらでは違う空気が流れているようだ。
「…うん、美味いな」
「良かった。こっちのつみれが入った鍋は、ゆずポンが合うよ」
「ああ」
角煮争奪戦はまだまだ続いているようだが、やはり彼らには野菜を食べさせたい。誠は立ち上がると、角煮をしっかりと確保した。
「お前ら、早く鍋食べないと、アレクセイが全部食っちまうぞ」
「え…」
「ちょ、班長ー!」
レビ達の悲鳴を聞いたアレクセイは食べる手を止め、ニヤリと笑う。
「そうだな。せっかくマコトが野菜を美味しく調理してくれたんだ。俺が食べてもかまわんのだろう?」
その笑い方が黒豹に似ていたのもあって、レビ達は一斉に鍋に群がった。
「…ありがとな」
誠は椅子に座ると、テーブルに皿を置きながらアレクセイに礼を言った。
「いや、気にするな。食事のバランスというものが重要なんだろ?俺は少し、アイツらを脅しただけだ」
「そうだけどさ。まぁ、ちょっとした実験も兼ねてんだ」
「実験?」
アレクセイは角煮を豪快に齧る。銀色の尾が元気に揺れた。
「そ。アレクセイ達の食生活を変えると、体調にどう影響するかって。昼間は仮定の話だったけど、やっぱ気になんじゃん。人間は食べ物にモロ影響を受けるけど、アレクセイ達獣人もそうなのかなーって」
「なるほど」
「だからバランス良く食べると体調が良くなるんだったら、これからも少しは考えて食事を作ったら、アレクセイの危険がそれだけ減るだろ」
誠が気になっていたのは、そこだった。
自分が魔獣討伐を手伝えるのは、きっと今だけだ。でも他の部分でアレクセイ達の力になれるのなら、何だってしたい。フレデリクに頼めるのは、貴族間の問題や政治の部分だけだろう。
龍玉の加護は絶大だ。けれど、それだけに頼りたくないのだ。
プロ野球の某チームは、今ある戦力を十パーセントずつ底上げしたことで優勝したことがある。兄が応援していたチームだったから、良く覚えている。アレクセイ班はしばらく固定らしいので、だったら同じことをしようと思ったのだ。
ちなみに誠が応援しているチームは、黄色い虎のチームだ。
「…マコト。俺は今、凄く君にキスがしたいのだが」
耳元で思い切り、低く甘い声が響いた。どうやらアレクセイの琴線に触れたようだが、レビ達の目があるのだ。
流されそうになった誠は耳を押さえながら、少しだけ距離を取った。
「後でなら…」
「分かった。後で、だな」
狼は舌なめずりをしながら、獲物が手中に落ちてくるのをクスクスと小さく笑いながら待っているようだった。
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