神様の料理番

柊 ハルト

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ミルクの優しさ

01 ー スイール村

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 まん丸の月がてっぺんに上ったら、狐も狸も踊り出す。
 妖怪に伝わる歌の一つに、そんな節がある。妖力は月の満ち欠けに、多少なりとも左右されてしまうからだろう。
 誠もその例に漏れず、妖力が高まっていた。

「俺の場合、あんま関係無いんだけど」

 誠はチロリと舌を出し、気配を消して客室の窓からスルリと抜け出した。
 ここが三階であろうと、誠には関係無い。音を立てずに着地すると、教会へと走って行った。

 教会は真夜中だというのに、ところどころに明かりが灯っていた。その光にレリーフが浮き出ていて、昼間と比べると、より神秘的な表情を浮かべている。

「お邪魔しますよー」

 辺りに人影が無いかを確認した誠は、門の影からトポンと沈み、教会の中へと入って行った。
 完全なる不法侵入だ。
 しんと静まっている教会内は、ルシリューリクの神気で満ちている。あの神は、一応の仕事はしているようだ。
 祭壇には、信者からの捧げ物が積まれている。誠は空いているところに皿を置き、バッグからミョート村の館で作っておいたスイーツを、これでもかというほど乗せていく。
 それらの材料は基本的に、ミョート村や周辺で取れた物だ。そしてこの世界の龍脈の力も加わっている。
「神様の料理番」がその地の神に捧げるものとしては、最高の出来だった。
 積み終わると、誠は両手を合わせる。すると、皿は微かに光り、スイーツはあっと言う間に光の粒子に変わって天へと上って行った。
 これで仕事は完了だ。
 誠は粒子の行方を少しの間見守ってから、影に沈んで教会を出たのだった。

  月の光を浴びながら、誠はゆっくりと歩いていた。お供えだけで館に戻ってしまうのは、もったいないからだ。知らず知らずのうちに足取りは弾むようになり、その勢いのまま、ポーンと村の外壁を飛び越える。
 村から距離をとったところで、周囲に誰も居ないのを確認してから九尾に姿を変えた。
 誠は前足を突っ張って、大きく伸びをする。ついでに尾もバサリと振って、体の調子を確かめた。
 妖力は、変わらず体を巡っている。異世界の食べ物を摂取して、数日間。体に何か変化があると少し心配していたが、どうやら大丈夫そうだ。

「意外にも繊細なボディ…なんちゃって」

 馬鹿なことを呟いてしまったと、自分でも思っている。誠はスッと前を向いて、たったかと歩き出した。
 満月の夜の散歩は、実家に居た頃からの誠の習慣だ。自分が犬だったら、遠吠えでもするんだろうか。誠は走りながら、そんなことを考えていた。
 地元はいくら住宅街とは言え、都会のど真ん中だ。一軒家やマンションを駆け上がるのは運動になるが、たまには何も気にせず走りたくなる。出雲や諏訪の縄張りに行きたくなるのは、それも理由だ。
 木々をヒョイヒョイと避けながら走っていると、降り注ぐ月の光が体に溶け込むのが分かる。誠は気分が高まり、このままどこまでも走って行けるような興奮を覚えていた。
 しかし、こういう時に限って、無粋な奴が現れたりするものだ。大きい澱みの気配を感じたのだ。近付いてみると、はじまりの森を抜ける時に見た二足歩行の豚だった。

「おー、ここにも居るんだ、豚」

 こちらの気配に気付いた豚が、誠を威嚇するように、手に持った棍棒を構えている。

「…ヤル気?」

 誠が今、人間の姿だったら、ニヤリと笑っているだろうか。その場で数度足踏みをした誠は、雷混じりの竜巻を二足歩行の豚にぶつけた。

「ブヒイィィ!」
「飛べる豚も、ただの豚だ」

 豚が悲鳴をあげながら夜空高く飛んだのを確認すると、誠は館に戻ることにした。



 あてがわれた客室に戻ると、スウェットに着替えた。
 誠が窓際に椅子を寄せて月光浴をしていると、控えめなノック音がドアから聞こえてきた。
 こんな時間に、誰だろう。
 誠は壁にかかっている時計を確認したが、短針はてっぺんをとっくに超えていた。

「何?」

 誠は立ち上がりながら聞くと、アレクセイの声が響いた。

「俺だ。まだ起きていたのか」
「うん」

 相変わらず気配を感じさせない男だと思いながら、誠はドアを開けた。
 コートをきっちりと着込んだアレクセイは、夜番を終えてからそのままこの部屋に来たのだろうか。外は冷えただろう。
 誠はアレクセイを部屋に招き入れた。

「おかえり。今帰ったのか?」
「ああ」

 コートの前を開けながら、アレクセイは短く答えた。そしてソファに座ると、誠を呼ぶ。誠は隣に座ろうとしたが、軽く腕を引かれたので座ったのはアレクセイの膝の上だった。
 フサリと銀色の尾が揺れる。誠は手を伸ばして、その毛先を指で弾いた。

「マコト。眠れなかったのか?」
「月光浴してただけ。遠野の家は、人間でも何でも、満月の夜は月光浴したくなんの」
「そうか。体調に変化があったわけではないのだな」

 旅で不調が出てきたのかと心配させてしまったのだろうか。アレクセイは小さな溜息を吐いた。
 その息が耳にかかり、くすぐったい。
 誠は肩をすくめ、自らアレクセイに抱き付いた。

「変化があったって言ったら、どうする?」

 妖力が活性化するということは、体が充実することだ。
 いつもならこうも昂らない誠の体は、対象人物が目の前に居るせいで、頭をもたげてくる。誠はこんなにも強い性衝動が起こったのは、初めてだった。
 同じ雄という嫌悪感も全く無い。むしろ、今さらだ。
 遠野の始祖は雄同士だし、誠の身近な神々も妖怪も、性別は関係無い。

「マ…マコト?」

 誠の雰囲気が変わったのが分かったのか、アレクセイの声が上ずる。ゆるく誠の背に回している手は、行き場を無くしていた。
 誠はそんなアレクセイを揶揄うように、更に体を密着させ、自分の腰をアレクセイに押し付けるように少し揺すると、腰を掴まれて首筋を舐められた。

「悪い子だな。俺の気持ちを試しているのか?」
「どうだろう。アレクセイも、試してみたら?」

 疑問を疑問で返すと、アレクセイのアイスブルーが月明かりに反射してギラリと光った。
 またもやキスで唇を塞がれながら、ソファに押し倒される。

「随分と、脱がしやすい服なんだな」
「パジャマ代わりだからな。脱ぎ着は楽なんだ」

 上に来ていたパーカーのフードの紐をいじっているアレクセイの手に、自分の指を絡める。
 誠は絡めたアレクセイの指先を、そっと齧った。
 舌先でチロリと舐めてやると、明らかに狼の目の色が変わったのが分かった。途端にギラギラとした目になったアレクセイは、誠のパーカーを脱がすのももどかしかったのか、下に着ていたTシャツごと勢いよく捲り上げる。
 アレクセイの目の前には、男にしては薄い胸板と、そこに付いている薄桃の小さな果実が現れた。アレクセイは誠の胸や脇腹に手を這わせながら、マーキングをするように唇を落としていった。

「アレクセイ…」

 触れられる度に、誠の息は荒くり、心拍数も上がる。それと同時に、理性も少しずつ崩れていた。
 優しく乳首を撫でられると、思わず声が出た。男だからそんなところは感じない、と言いたいのだが、明らかな反応を示してしまった今、そんなことをアレクセイに言ってしまえば逆効果だろう。
 誠は口を手で押さえながら、もう片方の手でアレクセイの頭を押した。しかし、餌を前にした狼にとって、それは抑止でも何でも無かったようだ。
 ますます体を舐められ、更には乳首まで舌で転がされてしまった。

「んぁ…やっ…」

 こんな触れ合いは、人生で初めてだ。
 誠は体を捩ってみたが、アレクセイによってもたらされる快楽の波は、引くことはない。それどころか、段々と熱が体の中をぐるぐる渦巻いている。
 男の体は、ある意味素直だ。
 誠の下半身の一部が頭をもたげているのを見たアレクセイは、ニヤリと笑った後で自分の下唇を舐めていた。

「ああ、嬉しいよマコト。俺の愛撫で感じてくれたんだな」
「…だって」

 上手いから、とは言いたくない。
 他人の恋愛にも自分の恋愛にも興味は無かったはずなのに、アレクセイが今までどんな人を好きになり、どんな夜を過ごしたのか、気になって仕方が無い。そしてその相手を呪い殺してしまいたくなる。
 そんな想いに囚われている誠の体内では、快楽と一緒に黒い気持ちが溢れてきてしまった。

「あ…あ、憎い…」
「マコト?」

 誠の顔を見ようとしたアレクセイは、途端に苦痛に顔を歪めた。肩に誠の鋭い爪が、刺さっていたからだ。
「マコト…どうしたんだ?」
 それでもアレクセイは、優しく誠に声をかける。
 暗闇の中で紅く煌めく誠の瞳の瞳孔は、縦に割れていた。口を押さえている指の爪は、肉食獣のように鋭く伸びている。そんな変化を起こした誠を見ても、アレクセイは驚かなかった。

「うぁ…アレクセイ…して…続けて…」

 もう、どうでもいい。誠は行き場の無い熱を、アレクセイに散らしてほしかった。
 アレクセイは求められるままに、誠の舌に自分の舌を絡めながら自分のズボンのボタンを外していた。そして誠のスウェットのズボンを少し下げると、自分のモノと誠のモノを一緒に手で包み込んだ。

「熱い…」

 アレクセイが脈打っているのが伝わる。それだけで、更に誠の熱は上がった。
 ピクンと自分のモノが震えたのが分かる。それすらもアレクセイを煽ってしまったのか、アレクセイの口からは熱い吐息が溢れた。

「マコト、君の手も貸してくれ」
「うん…」

 誠は、恐る恐る下半身に手を伸ばす。そっと触れたお互いのモノは、どちらも同じくらい熱くなっていた。
 たまらず腰が跳ねてしまったが、それすらも今の誠には大きな刺激になる。

「あぅっ…」

 互いの先走りで滑る。

「ああ、気持ちが良いな。他人の熱はこんなにも…気持ちが良いものなんだな」

 うわごとのように呟いたアレクセイは、誠の手も一緒にそれを包み、最初から力強く上下に擦りはじめた。

「ああぁっ!」

 いきなりそんな刺激が来るとは思わなかった誠は、思わず大きな声を出してしまう。
 何とか逃れようとしたが、アレクセイによって手を押さえられているので自分では解放できない。せめて体を捩ろうと思うが、アレクセイの上半身が邪魔で、それも叶わない。

「う…あぁっ、んっ…」
「マコト…マコト…」

 ソファとアレクセイの間という狭い隙間で、誠は体を跳ねさせることしかできなかった。耳元で自分の名を呼ぶ声は、いつもより甘く、そして掠れている。
 アレクセイの声は、誠の妖力を狂わせていた。そして甘美な熱と混じると、自分で自分を制御できなくなる。うねる大きな波の中で、誠はアレクセイにしがみつくので精一杯になっていた。
 勝手に腰が跳ねる。それが不規則な刺激になって不意に裏筋同士が擦れる。もどかしいのか、アレクセイが腰を揺すると、自分よりも大きな陰嚢が触れた。
 それが気に入ったのか、アレクセイは腰と手を同時に動かし、誠の口へむしゃぶりつくようにキスを仕掛けた。

「やだ…アレクセイ、もっ、出る…!」

 誠はもう、射精以外のことを考えられなくなっていた。いつしか誠の方からもアレクセイに腰を押し付けるようにして、互いの刺激を強めている。
 アレクセイが根本から先端に向かって手を擦ると、それに押し出されるように誠はとうとう白濁を吐き出してしまった。
 声も無く体をびくつかせた後、誠の腹や首には、アレクセイの熱い飛沫が大量にかかっている。

「ハァ、ハァ…」
「…アレクセイ」

 アレクセイは荒い息のまま、まだ自分のモノを擦って、再び白濁を誠の体に吐き出している。
 その瞬間を見てしまった誠はの腹は、思わずズクリと蠢いてしまった。
 妖狐は己の腹に収める子種は、自ずと分かると牡丹に聞いたことがある。自分がこんなに乱れたのも、その本能からくるものなのかもしれない。
 誠は頬まで飛んでいたアレクセイの精子を指で拭うと、アレクセイの目を見ながら躊躇いもなく口に含んだ。
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