【完結】公爵子息である僕の悪夢は現実になってしまうが愛しい婚約者のためにも全力で拒否します【幼少編】

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
25 / 61

25 クラリッサの悪口

しおりを挟む
 夢の中ではダリアナ嬢から僕へのセリフがなかったため今日の僕は頭痛はない。だがあのセリフをクララに言っているのだとしたら…。僕は沸騰しそうな頭を必死で耐えている。

 挨拶もまともにせぬまま会話が普通のことのように始まり二人がまくしたてるようにしゃべるが会話の内容が全く頭に入らない。どこのお菓子がうまかろうが、どこの小物がかわいかろうが、この二人に興味が持てないのだ。二人の好みなど聞く気にもならない。

 それでも僕は二人を油断させるため嘘の笑いで頷いていた。
 僕は二人が饒舌になり楽しそうな雰囲気になったところで隙をついて尋ねる。

「それで? クララは今どこに?」

 マクナイト伯爵夫人は明らかにしかめっ面をしたが僕が片方の眉を上げて少し威圧を込めて笑顔を向けると一変してニコニコとする。

「クラリッサはボブバージル様にはお会いになりたくないと申しておりますのよ」

 マクナイト伯爵夫人は口元を扇で隠して本心を見せないようにしている。視線は僕ではなく使用人に向いていたので僕もその使用人を確認する。
 彼もまた見たことのない使用人だが先日の執事は降格したのかもしれない。

 執事の質を見定めるがおそらくは先日の者と大差はないだろう。
  ダリアナ嬢が奇妙な言い訳地味たことを言い始めた。

「そうなんですっ! クラリッサお義姉様はご自分がボブバージル様にお会いになりたくないからってわたくしに当たり散らすのです。ボブバージル様を追い返すようにって……」

 ダリアナ嬢はハンカチを膝の上で握りしめて悲壮感を演出している。

「いつもわたくしに当たり散らすときには物をなげつけてきますのよ。クッションならまだいいですわ……。時には置物までも……」

 眦をハンカチで押さえるダリアナ嬢だが僕は全く信じる気になれない。それどころか彼女たちにどこまでも冷たいことができそうな自分がいる。

「まあ、ダリアナっ! 可哀想にっ! クラリッサにはいつも冷たくされていて、本当に可哀想なダリアナ――」

 マクナイト伯爵夫人が扇の奥でハンカチで涙を拭くフリをすればこちらからは一切何も見えなくなる。薄笑いでもしているのではないかとさえ思えてしまうくらいだ。

「本を投げつけられるのは毎日ですのよ。お義姉様は本だけはたくさんお持ちだから。
本ばっかり読んでらっしゃるから楽しいお話もできないのよ。お姉様って本当につまらない方でしょう」

 二人は興が乗ったようでソファーにどっかりと腰を据えあれやこれやとクララの悪口を言いまくっていた。

 ちょうど僕のイライラは頂点になっている。

『クララが本を投げるなんてある訳ないじゃないかっ! クララはつまらない女の子なんかじゃないっ! もうそろそろ僕がキレてもいいころだよね』

「僕はマクナイト伯爵様に『クラリッサに会いに来てくれ』と言われたから来たのです。クララに会えないのなら失礼しますっ! 見送りは結構だっ!」

 喧嘩腰に応接室を出て乱暴に扉を閉める。こうすればいくら図々しい二人でもすぐに追いかけて来る気にはならないだろう。

 いや、来れるわけがない。あんな豪華なドレスでソファーに身を沈めれば一人で起き上がることなど不可能だ。非力そうな執事一人でどうにかするには時間もかかるだろう。
 淑女のお茶会の作法も知らない様子と踏み僕はそういう状況になるまで我慢したのだ。初めから怒りを顕にしてはダリアナ嬢に簡単に追いかけられて縋られてしまうからね。 

『作戦とはいえクララの悪口を笑顔で聞かなければならないのは本当に苦痛だった。二度とあいつらと顔を合わせたくない』

 僕は奥歯を噛み締めたが彼女たちに会わないことが不可能なことは理解している。

 二人がすぐに追いかけられない状況を作った僕は帰るふりをして玄関ホールからのびる階段を一気に駆け上がり三階のクララの部屋へ向かった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。 【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...