16 / 62
16 第二王子「言葉遊びじゃないのだぞ」
しおりを挟む
「父親に会わせろと仰っていますの。国王陛下に委ねていると答えたのですがどうやら父親の登場を待ちたいようですわ」
「奴らがそれを望んでいるということも国王陛下に判断していただくことも報告を受けました。ですが国王陛下が奴らと当主たちを会わせるとは思えません」
キリアは訝しみと疑問と複雑な渋顔をする。
「わたくしもそう思いますが彼らは違うようですわ」
「はぁ。どこまで甘く浅はかなのだ。これで兄上の側近だったとは恥ずかしくはないのか? 兄上が不憫でならない」
キリアが眉を寄せるとそれを見ただけで側近たちはビクリと肩を震わせた。キリアが側近たちの不甲斐なさを諦めたように鼻で息を吐いた。
先程キリアたちが入ってきた後ろの扉が開きムーガが入室してくると皆が緊張の空気となる。ムーガが国王陛下からの伝言を持ってきたことは明白であるからだ。
ムーガはエーティルとキリアの間に顔を近寄らせ二人にだけ聞こえるように言葉を発する。エーティルとキリアはうんうんと頷きながらムーガの話に耳を傾けた。しばらくしてムーガが二人から顔を離す。
「わかった。ご苦労だった」
「はっ!」
キリアとムーガが形ばかりの挨拶を交わす。
「お前たちの父親である当主たちは国王陛下が召集なさり質疑することとなった」
側近たちは互いに肩を叩き膝を叩きして喜びを分かち合う。その姿にまわりは驚きを隠せない。
『父親がこの件に関わってきたというだけで助かった気でいるのかしら? どこまで人頼りな方たちなの?』
エーティルでさえも顔に出さないが動きを止めて彼らを見つめてしまうほどである。
「ん、ん」
ムーガが小さな小さな咳払いをして裁判長席の空気を戻す。
「あー……。というわけであるが、二人から事情を聞かぬ訳にはいかない。黙秘や隠し事をしても意味はない、いや、心象を悪くすると思え」
二人は満面の笑みをキリアに返して首肯した。
「続きから聞く。
なぜあの者とエーティル嬢を対峙させようと思ったのだ」
「あ、あそこまで話をわかっていないとは思っていなかったのです」
「第一王子殿下を自由にせよと宣ったそうではないか。お前たちがあの女を唆したのではないのか?」
「とととととととんでもないことですっ!
それにウェルシェ嬢は『殿下を自由にしてくれ』ではなく『殿下の自由にしてくれ』と言っておりましたっ!」
「何だその言葉遊びのような言い訳は……」
キリアがついつい呆れ顔を晒してしまうほど幼稚な答えだ。
「殿下の希望を言うことは可能だと聞いていたのであの女がそれをエーティル様にお伝えする程度だと思っていたのです。
『側妃のことは殿下の自由にしてくれ』と。
それに我々はあの女とほとんど話もしておりません」
「話をしなかっただと? 第一王子殿下の側妃にと考えたのなら人となりを知るべきではないのか? そして人として問題があるようなら徹底的に反対するべきなのではないか?」
「て、天真爛漫でラオルド殿下はあの笑顔に癒やされているようにお見受けしたので」
ソナハスは落ち着きなくキョロキョロとしているだけで口を開こうともせずドリテンの顔を見上げながら袖を握っている。ドリテンはその視線に助けを求めようとしながら懸命に紡いだ。
「天真爛漫であれば何でも赦され側妃になれると考えていたと……」
休憩前の話に戻ってしまいそうになりエーティルは急いでキリアの膝に手を乗せた。キリアはふぅと大きく息を吐き出し落ち着こうとする。
慌てたのは側近たちですぐに誤魔化そうとする。
「い、いえ! そういうわけではないのですが確認不足であったことは確かです。申し訳ございません」
初めてドリテンから謝罪の言葉が出たが頭も下げずに薄ら笑って口だけ謝る姿が父親によって助けてもらえるからという後ろ黒い心が見え隠れして尚更に白い眼で見られている。
謝らないソナハスも引き攣り笑いを見せて逃げおおせる気概が見れて取れる。
「ほぉ。そうか……」
キリアはこれ以上聞く必要性を感じなくなってきていた。
「奴らがそれを望んでいるということも国王陛下に判断していただくことも報告を受けました。ですが国王陛下が奴らと当主たちを会わせるとは思えません」
キリアは訝しみと疑問と複雑な渋顔をする。
「わたくしもそう思いますが彼らは違うようですわ」
「はぁ。どこまで甘く浅はかなのだ。これで兄上の側近だったとは恥ずかしくはないのか? 兄上が不憫でならない」
キリアが眉を寄せるとそれを見ただけで側近たちはビクリと肩を震わせた。キリアが側近たちの不甲斐なさを諦めたように鼻で息を吐いた。
先程キリアたちが入ってきた後ろの扉が開きムーガが入室してくると皆が緊張の空気となる。ムーガが国王陛下からの伝言を持ってきたことは明白であるからだ。
ムーガはエーティルとキリアの間に顔を近寄らせ二人にだけ聞こえるように言葉を発する。エーティルとキリアはうんうんと頷きながらムーガの話に耳を傾けた。しばらくしてムーガが二人から顔を離す。
「わかった。ご苦労だった」
「はっ!」
キリアとムーガが形ばかりの挨拶を交わす。
「お前たちの父親である当主たちは国王陛下が召集なさり質疑することとなった」
側近たちは互いに肩を叩き膝を叩きして喜びを分かち合う。その姿にまわりは驚きを隠せない。
『父親がこの件に関わってきたというだけで助かった気でいるのかしら? どこまで人頼りな方たちなの?』
エーティルでさえも顔に出さないが動きを止めて彼らを見つめてしまうほどである。
「ん、ん」
ムーガが小さな小さな咳払いをして裁判長席の空気を戻す。
「あー……。というわけであるが、二人から事情を聞かぬ訳にはいかない。黙秘や隠し事をしても意味はない、いや、心象を悪くすると思え」
二人は満面の笑みをキリアに返して首肯した。
「続きから聞く。
なぜあの者とエーティル嬢を対峙させようと思ったのだ」
「あ、あそこまで話をわかっていないとは思っていなかったのです」
「第一王子殿下を自由にせよと宣ったそうではないか。お前たちがあの女を唆したのではないのか?」
「とととととととんでもないことですっ!
それにウェルシェ嬢は『殿下を自由にしてくれ』ではなく『殿下の自由にしてくれ』と言っておりましたっ!」
「何だその言葉遊びのような言い訳は……」
キリアがついつい呆れ顔を晒してしまうほど幼稚な答えだ。
「殿下の希望を言うことは可能だと聞いていたのであの女がそれをエーティル様にお伝えする程度だと思っていたのです。
『側妃のことは殿下の自由にしてくれ』と。
それに我々はあの女とほとんど話もしておりません」
「話をしなかっただと? 第一王子殿下の側妃にと考えたのなら人となりを知るべきではないのか? そして人として問題があるようなら徹底的に反対するべきなのではないか?」
「て、天真爛漫でラオルド殿下はあの笑顔に癒やされているようにお見受けしたので」
ソナハスは落ち着きなくキョロキョロとしているだけで口を開こうともせずドリテンの顔を見上げながら袖を握っている。ドリテンはその視線に助けを求めようとしながら懸命に紡いだ。
「天真爛漫であれば何でも赦され側妃になれると考えていたと……」
休憩前の話に戻ってしまいそうになりエーティルは急いでキリアの膝に手を乗せた。キリアはふぅと大きく息を吐き出し落ち着こうとする。
慌てたのは側近たちですぐに誤魔化そうとする。
「い、いえ! そういうわけではないのですが確認不足であったことは確かです。申し訳ございません」
初めてドリテンから謝罪の言葉が出たが頭も下げずに薄ら笑って口だけ謝る姿が父親によって助けてもらえるからという後ろ黒い心が見え隠れして尚更に白い眼で見られている。
謝らないソナハスも引き攣り笑いを見せて逃げおおせる気概が見れて取れる。
「ほぉ。そうか……」
キリアはこれ以上聞く必要性を感じなくなってきていた。
95
お気に入りに追加
2,186
あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」
ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる
婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。
それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。
グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。
将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。
しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。
婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。
一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。
一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。
「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる