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39 アカデミーの変化
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アランディルスたちの学園生活はとても充実していった。これまでは素晴らしい家庭教師がいたとはいえ、王妃宮で優秀さを隠しながら学んでいたが、アカデミーでは堂々とふるまえるし、同世代と意見の交換もできる。勉学の種類が多いから、自分の足りない物にも気がつける。
こうして前期終了時には二人とも二十五単位を取得し、友人たちも増えていた。
二ヶ月の中間休暇になり王子宮に戻ったアランディルスは王子宮を駆け足で通り抜けて王妃宮へやってきた。
「母上! 戻りましたっ」
レイジーナはソファから立ち上がり手を広げた。真面目でしっかり者のアランディルスであるが、まだ十二歳。半年近く離れていた母親に抱きついた。
「ディの頑張りは報告を受けているわ。エラいわね」
胸の中の息子のダークグレーの髪を愛情込めて撫でた。喜び溢れた顔をあげたアランディルスの翡翠の瞳がキラキラと輝く。
「アカデミーはすっごく面白いよ。年上が多いから剣術は敵わないんだけど、それもまた楽しい! 勉強は今は得意なことを多くやっているんだ。後期は初めてな分野もやってみたい」
レイジーナに手を引かれてソファに腰を下ろしたアランディルスはそれから何時間もアカデミーの報告をした。隣室ではバードルも家族に報告していることだろう。
そして、違う場所にもアランディルスの成績報告書は届いていた。
「二年も家庭教師をしていてこの出来がわからなかったなんてことありえますか!?」
五人のうちの一人がテーブルに書類を投げた。他の三人も苛立たし気にテーブルへ置いた。
「まあ、みなさん、このようなものは絵に書いたご馳走です。能力などというものは使う場所が無ければ無いものと同じなのですよ」
最後の一人はそれを丸めて絞りあげると後ろに放る。
「傀儡王に最後の仕事をしてもらいましょう。それも絶妙なタイミングで。クックックッ」
「それは、いつなのです?」
「彼が卒業申請をしてからです。その数年に及ぶ努力など我々の前ではゴミクズだと教えてやりましょう」
「なるほど」
五人はテーブルのグラスを持つ。
「国を支えているのは我らです」
グラスを軽くあげてそれを飲み干すと栄華を誇るように笑い合った。
また、違うところにも成績表が届けられた。それを嬉しそうに見つめた男は執務机に大事そうにしまった。
後期が始まると確実にアランディルスへの視線が変化していた。
頭の隅に「王族が権力を使ってアカデミー入学をもぎ取ったのだろう」というのを持っていた者は多い。一位入学というのも箔付けのために裏に手を回したのだろうと考えられていた。それは本人たちの心の安寧のためだ。入学前から必死に努力して何度も落ちて成人前に受かったというのは半数を占める。彼らにしてみれば十二歳が首席入学など受け入れがたいのだった。しかし、彼らは知っている……アカデミーでの単位に不正はできないことを……。それを前期だけで二十五単位取得した十二歳を認めない者はいなかった。
後期の一限目。政治論の講師は教室に入ると仰け反って慄いた。これまでこの授業にこれほど大勢が出席するなどあり得なかった。
「これはこれは驚いた。国の未来にこれほど多くの青年たちが興味を示してくれて嬉しいよ」
にこやかに教壇に立った教師は提出された名札を一枚ずつ読み上げ出席を取る。名札だけ入れて授業を受けない不正を防ぐためだ。
「アランディルス」
「はいっ!」
順番で呼ばれたアランディルスが手を上げた。
『なるほど。皆の目的は彼か。良い効果となっているようだ』
青年たちはアランディルスの前期の取得単位を調べ、後期にアランディルスたちが取りそうな授業を予想したのだった。中にはアランディルスたちの後をつけて授業を選んだ者もいるが、アランディルスが「この者たちはまだ能力が低い」と見たのは本人たちには伝わっていない。
政治論の授業では後半にグループディスカッションを設けている。熱く語る若者たちに講師は喜び震えた。
その後、政治論の講師がことさらに力を入れたためかなりハードな内容になり、脱落していく者が増えたが、学長はレベルアップに喜んでいたようだ。
そして二年目。今年の新入生の顔ぶれにフローエラとスペンサーもいた。もちろん上位で。
二年連続で十二歳が、そして今年は女子が首席であったことに学園のみならず王城でも話題になった。
翌日に入学式を控えた入寮日の午後。フローエラに面会人が来た。フローエラが呼ばれた部屋に入りドアが閉まると豪華な衣装を着た女性がフローエラに近づく。
バッチーンと凄まじい音がして、お茶の準備をしていたメイドが振り向くとそこにはフローエラが左頬を抑えて倒れていた。
こうして前期終了時には二人とも二十五単位を取得し、友人たちも増えていた。
二ヶ月の中間休暇になり王子宮に戻ったアランディルスは王子宮を駆け足で通り抜けて王妃宮へやってきた。
「母上! 戻りましたっ」
レイジーナはソファから立ち上がり手を広げた。真面目でしっかり者のアランディルスであるが、まだ十二歳。半年近く離れていた母親に抱きついた。
「ディの頑張りは報告を受けているわ。エラいわね」
胸の中の息子のダークグレーの髪を愛情込めて撫でた。喜び溢れた顔をあげたアランディルスの翡翠の瞳がキラキラと輝く。
「アカデミーはすっごく面白いよ。年上が多いから剣術は敵わないんだけど、それもまた楽しい! 勉強は今は得意なことを多くやっているんだ。後期は初めてな分野もやってみたい」
レイジーナに手を引かれてソファに腰を下ろしたアランディルスはそれから何時間もアカデミーの報告をした。隣室ではバードルも家族に報告していることだろう。
そして、違う場所にもアランディルスの成績報告書は届いていた。
「二年も家庭教師をしていてこの出来がわからなかったなんてことありえますか!?」
五人のうちの一人がテーブルに書類を投げた。他の三人も苛立たし気にテーブルへ置いた。
「まあ、みなさん、このようなものは絵に書いたご馳走です。能力などというものは使う場所が無ければ無いものと同じなのですよ」
最後の一人はそれを丸めて絞りあげると後ろに放る。
「傀儡王に最後の仕事をしてもらいましょう。それも絶妙なタイミングで。クックックッ」
「それは、いつなのです?」
「彼が卒業申請をしてからです。その数年に及ぶ努力など我々の前ではゴミクズだと教えてやりましょう」
「なるほど」
五人はテーブルのグラスを持つ。
「国を支えているのは我らです」
グラスを軽くあげてそれを飲み干すと栄華を誇るように笑い合った。
また、違うところにも成績表が届けられた。それを嬉しそうに見つめた男は執務机に大事そうにしまった。
後期が始まると確実にアランディルスへの視線が変化していた。
頭の隅に「王族が権力を使ってアカデミー入学をもぎ取ったのだろう」というのを持っていた者は多い。一位入学というのも箔付けのために裏に手を回したのだろうと考えられていた。それは本人たちの心の安寧のためだ。入学前から必死に努力して何度も落ちて成人前に受かったというのは半数を占める。彼らにしてみれば十二歳が首席入学など受け入れがたいのだった。しかし、彼らは知っている……アカデミーでの単位に不正はできないことを……。それを前期だけで二十五単位取得した十二歳を認めない者はいなかった。
後期の一限目。政治論の講師は教室に入ると仰け反って慄いた。これまでこの授業にこれほど大勢が出席するなどあり得なかった。
「これはこれは驚いた。国の未来にこれほど多くの青年たちが興味を示してくれて嬉しいよ」
にこやかに教壇に立った教師は提出された名札を一枚ずつ読み上げ出席を取る。名札だけ入れて授業を受けない不正を防ぐためだ。
「アランディルス」
「はいっ!」
順番で呼ばれたアランディルスが手を上げた。
『なるほど。皆の目的は彼か。良い効果となっているようだ』
青年たちはアランディルスの前期の取得単位を調べ、後期にアランディルスたちが取りそうな授業を予想したのだった。中にはアランディルスたちの後をつけて授業を選んだ者もいるが、アランディルスが「この者たちはまだ能力が低い」と見たのは本人たちには伝わっていない。
政治論の授業では後半にグループディスカッションを設けている。熱く語る若者たちに講師は喜び震えた。
その後、政治論の講師がことさらに力を入れたためかなりハードな内容になり、脱落していく者が増えたが、学長はレベルアップに喜んでいたようだ。
そして二年目。今年の新入生の顔ぶれにフローエラとスペンサーもいた。もちろん上位で。
二年連続で十二歳が、そして今年は女子が首席であったことに学園のみならず王城でも話題になった。
翌日に入学式を控えた入寮日の午後。フローエラに面会人が来た。フローエラが呼ばれた部屋に入りドアが閉まると豪華な衣装を着た女性がフローエラに近づく。
バッチーンと凄まじい音がして、お茶の準備をしていたメイドが振り向くとそこにはフローエラが左頬を抑えて倒れていた。
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