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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

18 アルフレードの決心

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 アルフレードは、3年生になる今年も春休みから夏休みまでビアータが学園に帰ってこないと聞いて、ショックを受けていた。しばらくして、冷静になり、今までビアータとともに、ここでやってきたことを反芻してみた。

 『小麦畑と牧草地の休畑は、秋までに新しい小麦畑を用意したいところだよな。でも、あんな小さい子供たちを連れて行って、そんなことできるのかな?
 牛が何頭いるのか知らないけど、牛乳からチーズやバターが作れるなんて知らなかったから、やってみたいよな。
 子供たちが、何人いるのかは知らないけど、サンドラの大きな野菜は、育てたいよな。
 水車の勉強もしてたな。水車がないのかな?小麦畑があるなら、水車はほしいところだよな。
 鍛冶屋で作ってもらったプラウはどうだろう?使ってみなくちゃ改善点はわからないよなぁ。
 なんだか、やってみたくて、ウズウズすることばかりだな』

 アルフレードは、両親に手紙を書いた。
『友達の家の農業の手伝いをしたいんだ。3年生の4月から7月は、学園を休むけど心配しないでほしい』
 学園のシステムなどの説明もちゃんと書いた。

 両親からの返事は出発の前日に届き、学園長に相談もギリギリになってしまい、コルネリオとファブリノに相談する時間はなかった。でも、アルフレードは、コルネリオとファブリノならわかってくれると思っていた。だって、一緒に勉強してきたんだから。

 『ビアータの家』それは、ガレアッド男爵邸という意味ではなかった。アルフレードも、コルネリオとファブリノのように、広がる景色と出迎えてくれた子供たちに面食らった。それでも、数日過ぎれば、環境にも慣れた。

 アルフレードとビアータは、畑担当ジーノと酪農土木担当ラニエルに、早速、休畑の話をした。二人は、納得してくれて、小麦畑を今の牧草地と同じくらいの大きさまで広げる。今の小麦は6月下旬に収穫できるから、その後牧草地を耕しても、9月の小麦の種まきには間に合うだろう。更地を耕すのは、鍛冶屋で作った牛用の鍬(プラウ)だ。これには、ジーノもラニエルも感動していた。

 アルフレードは、両親に興奮気味に手紙を書いた。ビアータがどんなにすごいことをやってきていたか、それの手伝いをできることがどんなに嬉しくて、どんなに楽しいか。

 牛は、8頭いた。ラニエルは、いつでも牛乳が飲めるように、計算して妊娠させているそうだ。

「交配を考えると、次にはオス牛を中から借りてこようと思っているよ。近親交配は、よくないからな。それと、もう少し頻繁に子供を作らせていかないと、子供たちに牛乳も飲ませられなくなっちまうな」

 中とは、壁の向こうつまりスピラリニ王国ガレアッド男爵領ということだ。

 ラニエルは、さすがによく知っている。だが、ビアータとアルフレードが勉強してきている分、話が早くて、ラニエルはかなり喜んだ。
 近親交配についても、ビアータとアルフレードは、放課後に勉強してきたところだ。ラニエルは、井戸掘りや柵作りもできる頼れる大人だ。

 ラニエルと相談して、大きな溜池を作ることにした。最初から大きくはしないが、大きくする予定で場所を決める。鍛冶屋に作ってもらったのは、プラウとシャベルはここでも活躍する。まず、牛にプラウを引いてもらい、土をできるだけ柔らかくする。それをシャベルで掘り出していく。
 1月かけてある程度の大きさになったので、川下と川上両方にむけて小川になる溝を掘っていく。これも、牛に作ってもらった溝を掘っていくことにした。ピエガ川からの支流が『ビアータの家』から1キロほどのところに流れている。その川上と川下を結ぶように小川を作る予定だ。

「水は動かないと腐るんだ。いつか溜池で魚釣りができるかもしれないぞ」

 湖のような大きなものなら別だが、10メートル四方の池はすぐに腐る。

 溝掘りは大変だったが、大工のレリオの自称弟子テオとウルバがとてもよく働いてくれた。1月後、川下はつながった。その半月後川上も川まであと1メートルまで来た。ラニエルの指示で、そこに大きな石というより岩ほどの大きさの物を男の子5人で転がして、何個も落としていった。

「これはなんのため?」

 アルフレードは、知識に貪欲だ。自分が貴族で相手が平民であることなんて、なんとも思っていない。

「水の勢いを殺すのさ」

「勢いはあった方がいいんじゃないの?」

「家の近くを通る小川は、穏やかな方がいいんだ。水害も少なくてすむし、いつか水車を作ったとしても、水車が痛みにくい」

 およそ長さ10メートルほどを、岩で埋め尽くした。

 小川の開通は、『ビアータの家』の者、全員が見守った。腰紐を付けたアルフレードとウルバが、残り1メートルを掘り進める。腰紐の先は、大きな子供たちみんなで握りしめている。ラニエルの指示でウルバが岸に上がり、アルフレードの腰紐を握る方へとまわる。すでに水は滲み出し始めていた。アルフレードが最後の1シャベルを入れると、勢いよく、小川に水が入ってきた。アルフレードは、腰紐を辿ってなんとか岸にたどり着く。
 小さい子供たちは、水と一緒に家の方へと走っていった。アルフレードたちも家へと向かう。10メートルも積んだ岩のおかげで、水はのんびりと流れているように見える。溜池まで着くと、すでに溜まりはじめていた。
 ラニエルが水の勢いを確認する。

「この大きさなら、2日後には川下に、流れはじめるさ。月に一度は、さっきの岩場を見ていこう」

 家の近くに小川ができると、生活は一変して楽になった。洗濯、皿洗い、掃除、畑の水のやり、家畜の水やり、水が近くにあるのは、本当に楽だ。井戸は、料理用にすることになった。その分、やれることも増える。勉強時間を1時間増やした。初等学校の勉強は、必須でやらせている。

 希望者には中等学校の勉強もみてやるが、昼間の2時間だけなので、早々には進まない。州都で3年分でも、ここでは5年~6年かかるだろうと、ビアータもリリアーナも予想しているし、子供たちにもそう伝えている。それに、ここにいる子供たちは、初等学校の勉強も半分くらいの子が多いため、14歳でも、初等学校の勉強だったりするのだ。それでも、『ビアータの家』での仕事の大切さも、ここでの生活の良さもわかっている孤児たちなので、納得してくれていた。

 ジャンとテオとウルバは、この家の一人目の子供だ。2年程前に初等学校の勉強は終えた。
 テオとウルバは、勉強を選ばず、レリオがいるときはレリオの弟子をやり、そうでない時は、どこへでも手伝いをするスーパーヘルパーで、頼りにされていた。
 ジャンは、中等学校の勉強を選び、性格も真面目で面倒見がいいので、自然に子供たちのリーダーになっていた。

 女の子のリーダーケイトとメリナは、去年から中等学校の勉強を始めた。ケイトは、算術だけを選んでいるので、もうすぐ終わる予定だ。メリナは、難しい文字の読み書きや地理なども始めたので、もう少しかかる。

〰️ 

 手作り小川には、丸太を置いただけの橋がすぐにかけられた。それも日を置けば、レリオたちの手で、立派な?丸太橋になった。
 レリオは、家から少し離れた木陰になる小川の近くにベンチ代わりの丸太を置いた。アルフレードに、コソッと伝える。

 その日の夕方より少し前、アルフレードはビアータを散歩に誘い、初めて手を繋いだ。それは、二人にとってあまりに当たり前でとても自然にできた。二人で丸太に座り、ゆっくりと流れる小川を見ながら、これからやりたいことをたくさん話した。

〰️ 〰️ 〰️

 小川が開通する1月ほど前、アルフレードの父親デルフィーノから、手紙が届いていた。『ビアータの家』のことをもっと詳しく教えるようにという内容だった。アルフレードは、家族の人数、家族それぞれの仕事、家の広さや部屋の数、畑の広さや牧草地の広さ、家畜の数などをできるだけ細かく書いた。そして、溜池を作っていることも書いた。

 小川が開通するころ届いた手紙には、水車の設計図が同封されていた。

 レリオは、その設計図を説明はするが、基本的にテオとウルバに水車小屋を任せることにした。二人は当然張り切っている。今はまだ、畑も小さいので、小麦は手でひけるということで、二人の宿題となっている。アルフレードが先日見にいくと、車輪のような部分が制作途中であった。


〰️ 〰️ 〰️

 小川ができた頃、小麦の収穫となった。収穫してみて、今の人数であれば、どうにか一年間持つだろうという判断となった。つまり、人数が増えることが予想されるここには、足りないのだ。急遽、もう1面小麦畑を増やすことにした。
 まず、小麦畑だったところに、牧草の種を巻く。牧草が生えてくるまでに、新しい小麦畑の準備をする。準備が終わる頃、牧草がチラホラと生えてきたので、牛たちはそちらに放牧するようにした。

 今まで放牧していた牧草地を小麦畑に変えようと始める頃、サンドラたちがやってきた。

 コルネリオたちは畑の世話の後、ファブリノたちは牛や鶏の世話の後、前牧草地の石拾いから始めている。それが終わったら、耕すのだ。牛のプラウを使うので、今までの耕す時間を考えれば、何倍も早くなった。
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