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24 男爵家の借金
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「ボーラン男爵っ! いったいどうしたのだ?」
レンエールのわざとらしい優しい声かけに、文官は声をつまらせて笑いを堪えた。
土下座で絨毯に頭を擦り付けているボーラン男爵はそれには気が付かない。
「そ、それをされたら、私は……こ、殺されます……」
「何っ! 誰に殺されると言うのだっ! 義理の父親となるボーラン男爵を殺すなど、私が許さないぞっ!」
ボーラン男爵は絨毯に押し付けている頭を左右に何度も何度も振る。文官は絨毯の摩擦で痛いのではないかと案じた。
「ボーラン男爵。きちんと説明していただかねば何もわかりませんよ」
ネイベット侯爵の落ち着いた声音はボーラン男爵にはさぞかし親身に聞こえたであろう。
『お二人共、役者だぁ』
文官は愁いと温かみを持つ二人の目を見た。それを偽りのものだと知っているのだ。今、ボーラン男爵が頭をあげても、二人の心理を勘違いするだろうと容易に予想ができるほどだった。
ボーラン男爵は震えながら頭を少しあげ、チラリと二人を交互に見た。額は赤くなっている。二人は『大丈夫だよぉ』というように首肯する。
案の定、二人の役者に騙され、罪を認めることにしたようだ。目に薄っすらと涙を溜めた。
「すみません! すみません! すみません! む、娘が王子妃になりそうだと、い、言ってしまいましたぁ」
再び頭を絨毯に擦り付けた。
「なっ!! 本当かっ?! …………陛下の命なのだぞ……」
「それはマズイですねぇ。さすがに庇い立てのしようがないかもしれない……」
二人は困惑しているようにしか見えない。文官はもう何も言わず何も考えず二人に任せることにした。いわゆる指示待ちである。
「陛下はまだ知らないのだろう?」
レンエールはネイベット侯爵にわざと確認する。
「そうですね。
ボーラン男爵。どなたにそれを言ったのですか?」
ボーラン男爵はカタカタとずっと震えている。
「お、お金を借りた方々ですぅ」
「えっ!! まさかっ! 相手はそれを理由に貸してくれたということですかっ?」
「そ、そうだと思いますぅ……」
「…………だとすると…………殿下の婚約に変化なしと伝えると、問い合わせが来るな。そうなってしまえば、陛下に隠し立てはできないだろう」
レンエールは目を瞑り思案顔で神妙に頷く。
「ならば返済してしまえば、勘違いだったで済むのではないですか?
あっ! ですが、街道整備などは換金のしようがありませんから、お金にはなりませんね」
ネイベット侯爵は顎に手を当てて悩んだ顔をした。
「そ……それも……」
ボーラン男爵は消え入りそうな声であった。
「まだ何かあるのか?」
レンエールは殊更柔らかく聞いた。
「領地の開発は……そのぉ……屋敷しかしておりません……」
「……ボーラン男爵。屋敷は領地の開発とは別の物ですよ。屋敷の修繕は領地改革とは言いません。
ん??!! では、私が投資したお金はどうなさったのですか?」
ネイベット侯爵がここでやっと冷たい口調に変更した。
「そ……それは……」
「ネイベット大臣。今は大臣の金については我慢してもらえぬか? それより、他家への借金について考えなくてはならない」
「わかりました。殿下がそうおっしゃるのでしたら」
『二人で親身に対応』から『アメとムチ対応』へとシフトチェンジも阿吽の呼吸だ。
レンエールのわざとらしい優しい声かけに、文官は声をつまらせて笑いを堪えた。
土下座で絨毯に頭を擦り付けているボーラン男爵はそれには気が付かない。
「そ、それをされたら、私は……こ、殺されます……」
「何っ! 誰に殺されると言うのだっ! 義理の父親となるボーラン男爵を殺すなど、私が許さないぞっ!」
ボーラン男爵は絨毯に押し付けている頭を左右に何度も何度も振る。文官は絨毯の摩擦で痛いのではないかと案じた。
「ボーラン男爵。きちんと説明していただかねば何もわかりませんよ」
ネイベット侯爵の落ち着いた声音はボーラン男爵にはさぞかし親身に聞こえたであろう。
『お二人共、役者だぁ』
文官は愁いと温かみを持つ二人の目を見た。それを偽りのものだと知っているのだ。今、ボーラン男爵が頭をあげても、二人の心理を勘違いするだろうと容易に予想ができるほどだった。
ボーラン男爵は震えながら頭を少しあげ、チラリと二人を交互に見た。額は赤くなっている。二人は『大丈夫だよぉ』というように首肯する。
案の定、二人の役者に騙され、罪を認めることにしたようだ。目に薄っすらと涙を溜めた。
「すみません! すみません! すみません! む、娘が王子妃になりそうだと、い、言ってしまいましたぁ」
再び頭を絨毯に擦り付けた。
「なっ!! 本当かっ?! …………陛下の命なのだぞ……」
「それはマズイですねぇ。さすがに庇い立てのしようがないかもしれない……」
二人は困惑しているようにしか見えない。文官はもう何も言わず何も考えず二人に任せることにした。いわゆる指示待ちである。
「陛下はまだ知らないのだろう?」
レンエールはネイベット侯爵にわざと確認する。
「そうですね。
ボーラン男爵。どなたにそれを言ったのですか?」
ボーラン男爵はカタカタとずっと震えている。
「お、お金を借りた方々ですぅ」
「えっ!! まさかっ! 相手はそれを理由に貸してくれたということですかっ?」
「そ、そうだと思いますぅ……」
「…………だとすると…………殿下の婚約に変化なしと伝えると、問い合わせが来るな。そうなってしまえば、陛下に隠し立てはできないだろう」
レンエールは目を瞑り思案顔で神妙に頷く。
「ならば返済してしまえば、勘違いだったで済むのではないですか?
あっ! ですが、街道整備などは換金のしようがありませんから、お金にはなりませんね」
ネイベット侯爵は顎に手を当てて悩んだ顔をした。
「そ……それも……」
ボーラン男爵は消え入りそうな声であった。
「まだ何かあるのか?」
レンエールは殊更柔らかく聞いた。
「領地の開発は……そのぉ……屋敷しかしておりません……」
「……ボーラン男爵。屋敷は領地の開発とは別の物ですよ。屋敷の修繕は領地改革とは言いません。
ん??!! では、私が投資したお金はどうなさったのですか?」
ネイベット侯爵がここでやっと冷たい口調に変更した。
「そ……それは……」
「ネイベット大臣。今は大臣の金については我慢してもらえぬか? それより、他家への借金について考えなくてはならない」
「わかりました。殿下がそうおっしゃるのでしたら」
『二人で親身に対応』から『アメとムチ対応』へとシフトチェンジも阿吽の呼吸だ。
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