【完結】お義姉様が悪役令嬢?わたくしがヒロインの親友?そんなお話は存じあげません

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
46 / 57

46 本の作者

しおりを挟む
 たわいも無い話しをして雰囲気がよくなったのを見計らってエイミーは本題に入る。

「私にはとても大切な本があるのだけど、その本はオルクス公爵家で作られたと聞いたわ。私のお父様がプレゼントしてくれた本なの」

 話してはダメだという塩梅が若干十二歳のケネシスの予想と異なっていたためケネシスはギョッとして強張った。エイミーはアリサににっこりと微笑む。

「大好きな本なの。アリサ嬢にお会いしたらお礼を言いたかったのよ。お父様によろしくお伝えいただける?」

 オルクス公爵はワイドン公爵のススメとアリサの家庭教師からの懇願もあって写生生を使ってこれまで二巻を各三十冊ほど作成しており知る人ぞ知る本になっている。

「わかりましたわ。父に伝えておきます。わたくしも大好きな本なのです。気に入っていただけて嬉しいですわ」

「あれはやはりメイロッテが主人公なの?」

「そうですわ。わたくしがメイお義姉様おねえさまを大好きなことを知った家庭教師がわたくしのお勉強のために作成してくださったものなのです」

「もう。アリサ。それははずかしいからお外では内緒にしてちょうだい」

 メイロッテは頬を染めて両手でそれを隠す。

『なるほど。発案者であることは秘密だけど、オルクス公爵家で書かれたものであることやコンティ辺境伯令嬢がモデルであることは秘密ではないのですね』

 黙って三人の話を聞いているケネシスの頭の中はフル回転である。

『やはりどう見ても僕と同年代ですね。この方があれを作ったとは……。
上には上がいますね。僕はもっと精進しましょう』

「メイロッテ。いいじゃないの。すごく光栄なことでしょう。
ところで男の子用も書いていると聞いたのだけれど」

 この頃にはジャルフはロッティー物語の版画制作を始めていて、アリサと家庭教師フリーラは少年用の本の文章の編集に入っていた。

「はい。まだ作成途中ですが。絵師を務める執事の手がやっと空くことになりましたので作成をお願いしているところです」

『コンティ辺境伯令嬢が見たのはその作成作業なのかもしれないですね。僕も見たいですけど……。発案者が秘密なのだから無理でしょうね。
あの本だけでなく別の本もあるとはすごい方だ』

「よかったら、ケネシスにその本を一冊譲ってほしいのだけど」

 エイミーがおねだりポーズをする。

『あれは新しい馬や新しい剣がほしいときの義姉上の作戦ですね。義父上なら落ちますが、年下のオルクス公爵令嬢に通用するのですか?』

 ケネシスの心配を他所に年上からのおねだり攻撃にアリサは楽しそうに笑っていた。

「かしこまりました。執事に伝えておきますわ。できあがりましたらワイドン公爵邸にお送りすればよろしいでしょうか?」

「いえ!」

 慌てて否定したケネシスの声は少しばかり大きくなりメイロッテとアリサは驚いておりエイミーは呆れている。

「あー、コホン。すみません。
お手紙をいただければ受け取りに参ります。ご迷惑でなければですが」

 今度はメイロッテとアリサがフッと微笑み、エイミーが目を丸くしていた。

『ケネシスったら結構やるじゃないの! アリサ義妹計画は順調だわ』

「迷惑だなどということはございませんわ。ではその際にはご連絡させていただきますわね」

「はい! 楽しみにお待ちしております!」

『本ではなく、アリサに会えることが楽しみなのでしょうね。それまでに会話の訓練をメイドに頼んでおかなくては!』

 北部学園に入学を控えるエイミーはケネシスの会話の指導までする時間はないのである。

 エイミーの計略で交流を持つことになったアリサとケネシスであったがその一年後にアリサが第一王子の婚約者候補の一人に選ばれたことで距離を置かなければならなくなってしまった。
 その報告を受けたエイミーは北部辺境伯家で怒り狂い自分の婚約者である辺境伯の次男相手に剣を振り回して発散させたことは遠い未来でケネシスとアリサの耳に入った話である。

 〰 〰 〰

『あの時は目の前が真っ暗になる気分でしたが、諦めずにいてよかったです。エイミー義姉ねえさんがワイドン公爵家を後継してくれたおかげもありますね』

「ケニィ。本のことと貴方のことは同列にはならないですわ」

 アリサの不安そうな顔にケネシスは反省した。

「アリサ。君の本への情熱は別物であることはわかっていますよ」
 
「うをっほん! ケネシスの判断が我が家の助けになったことは確かだな」

 見つめ合いラブラブモードに突入しそうになったアリサとケネシスにオルクス公爵が待ったをかけた。
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。 ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。 というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。 そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。 周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。 2022/10/31 第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。 応援ありがとうございました!

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...