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47 ジョンピーチの冒険
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『アリサからいただいた本は僕の宝物。でもあれがきっかけで第一王子殿下の婚約者になってしまったのは本当にショックでしたよ』
ケネシスは憂いと安堵をないまぜにした瞳でアリサを見つめていた。
〰 〰 〰
アリサ発案の少年用の本が書かれるとワイドン公爵はケネシスから借りて驚愕し、友人であるバリヤーナ侯爵にそれを教えた。バリヤーナ侯爵はオルクス公爵に頼み込んで一冊譲ってもらいそれを息子の家庭教師に託した。
バリヤーナ侯爵とはテッドの父親である。テッドが学術に目覚めるきっかけになったのはアリサの本だったのだ。
その少年向け本『ジョンピーチの冒険』は鬼ではなく魔物に村を襲われその敵討ちに行く途中で犬やサルやキジの仲間ではなく一緒に戦う仲間ができて、魔物を倒し凱旋する英雄のお話。魔物の王の前に一人で立ち向かうのは家庭教師フリーラの意見である。
「その方が劇的でヒーロー的で男の子たちが喜びそうではありませんか?」
アリサは『ロッティー物語』よりもその本の内容にこだわりはないためあっさりと家庭教師フリーラの意見を取り入れた。
その本がきっかけで自分の息子が勉学に取り組むことになったことを喜んだバリヤーナ侯爵は騎士団長という立場から国王陛下と接点もあり、世間話の一つとしてその話を国王陛下にした。国王陛下と王妃陛下はオルクス公爵に全種類の本を献上させ、あまりの面白さに驚いた。その発行経緯について詰問する。
『このような物語が流行れば勉学に興味を持つ者も増えるだろう。学力向上は国力向上に繋がる。この作者を宮廷司書として雇用し本の制作に力を入れることをオルクス公爵に相談してみよう』
作者を大人だと考えていた国王陛下はそう考えていた。
しかし、オルクス公爵に相談してみると作者がまだ十三歳だと知ることになり驚嘆した。すぐにその場でオルクス公爵に第一王子とアリサの婚約を打診したのだが、オルクス公爵が頑なに拒否し爵位返上まで口にしたので『婚約者候補の一人』とすることで納得するしかなった。
オルクス公爵にとってもギリギリの妥協点だ。
「陛下。この本の作者がアリサだということはここだけの秘匿としてください」
「なぜだ? 才能を知らしめることができる絶好の機会ではないか」
「アピールしたつもりはなくとも本人の望まぬ縁談話が持ち上がります故」
「グググ……。相わかった。そのようにいたそう」
今さっき縁談話をしてしまった国王陛下は言葉につまりつつ納得する。国王陛下とオルクス公爵はウンウンと頷き合ったが全く別の解釈をしていた。
『たしかにいらぬ縁談で他国に行くようなことにでもなると大損害だ。第一王子の魅力に期待する他ないようだな。
まあ、我が息子ながら優秀であるし見目も麗しい。交流さえ持てばなんとかなるだろう』
『妻から王家との縁談の可能性があることを聞いておいてよかった。アリサの気持ちも確認しておけたしな。
それにしてもアリサがあれほど拒絶するとは。第一王子殿下の婚約者だぞ。王家への輿入れだぞ。貴族令嬢なら憧れるものではないのだろうか。
さらには王家に虚偽報告をするわけにはいかない事情も理解し作者がアリサだということを陛下には打ち明けるようにとも言っていた。
本当に現実を見据えたしっかりした考えができる子だ』
屋敷に戻りその報告をするとアリサはまるで大人のように頷いていた。
「王家との関係を悪化させるわけには参りませんからそのくらいが妥当だと思いますわ。あとはわたくしが王子殿下にお断りをし続けます。
それでもそうなってしまったときには……」
「お前だけを国外へ行かせるようなことはない」
「ありがとうございます。お父様」
大人びた少女だと思っているアリサが胸に飛び込んでくるほど喜んでいる姿を見たオルクス公爵は隣国逃亡生活の手段をいくつか準備しておくことにした。
幸いにも終ぞそれらの手段が使われることはなかったがオルクス公爵家の発展にはだいぶ役にたった。
ケネシスは憂いと安堵をないまぜにした瞳でアリサを見つめていた。
〰 〰 〰
アリサ発案の少年用の本が書かれるとワイドン公爵はケネシスから借りて驚愕し、友人であるバリヤーナ侯爵にそれを教えた。バリヤーナ侯爵はオルクス公爵に頼み込んで一冊譲ってもらいそれを息子の家庭教師に託した。
バリヤーナ侯爵とはテッドの父親である。テッドが学術に目覚めるきっかけになったのはアリサの本だったのだ。
その少年向け本『ジョンピーチの冒険』は鬼ではなく魔物に村を襲われその敵討ちに行く途中で犬やサルやキジの仲間ではなく一緒に戦う仲間ができて、魔物を倒し凱旋する英雄のお話。魔物の王の前に一人で立ち向かうのは家庭教師フリーラの意見である。
「その方が劇的でヒーロー的で男の子たちが喜びそうではありませんか?」
アリサは『ロッティー物語』よりもその本の内容にこだわりはないためあっさりと家庭教師フリーラの意見を取り入れた。
その本がきっかけで自分の息子が勉学に取り組むことになったことを喜んだバリヤーナ侯爵は騎士団長という立場から国王陛下と接点もあり、世間話の一つとしてその話を国王陛下にした。国王陛下と王妃陛下はオルクス公爵に全種類の本を献上させ、あまりの面白さに驚いた。その発行経緯について詰問する。
『このような物語が流行れば勉学に興味を持つ者も増えるだろう。学力向上は国力向上に繋がる。この作者を宮廷司書として雇用し本の制作に力を入れることをオルクス公爵に相談してみよう』
作者を大人だと考えていた国王陛下はそう考えていた。
しかし、オルクス公爵に相談してみると作者がまだ十三歳だと知ることになり驚嘆した。すぐにその場でオルクス公爵に第一王子とアリサの婚約を打診したのだが、オルクス公爵が頑なに拒否し爵位返上まで口にしたので『婚約者候補の一人』とすることで納得するしかなった。
オルクス公爵にとってもギリギリの妥協点だ。
「陛下。この本の作者がアリサだということはここだけの秘匿としてください」
「なぜだ? 才能を知らしめることができる絶好の機会ではないか」
「アピールしたつもりはなくとも本人の望まぬ縁談話が持ち上がります故」
「グググ……。相わかった。そのようにいたそう」
今さっき縁談話をしてしまった国王陛下は言葉につまりつつ納得する。国王陛下とオルクス公爵はウンウンと頷き合ったが全く別の解釈をしていた。
『たしかにいらぬ縁談で他国に行くようなことにでもなると大損害だ。第一王子の魅力に期待する他ないようだな。
まあ、我が息子ながら優秀であるし見目も麗しい。交流さえ持てばなんとかなるだろう』
『妻から王家との縁談の可能性があることを聞いておいてよかった。アリサの気持ちも確認しておけたしな。
それにしてもアリサがあれほど拒絶するとは。第一王子殿下の婚約者だぞ。王家への輿入れだぞ。貴族令嬢なら憧れるものではないのだろうか。
さらには王家に虚偽報告をするわけにはいかない事情も理解し作者がアリサだということを陛下には打ち明けるようにとも言っていた。
本当に現実を見据えたしっかりした考えができる子だ』
屋敷に戻りその報告をするとアリサはまるで大人のように頷いていた。
「王家との関係を悪化させるわけには参りませんからそのくらいが妥当だと思いますわ。あとはわたくしが王子殿下にお断りをし続けます。
それでもそうなってしまったときには……」
「お前だけを国外へ行かせるようなことはない」
「ありがとうございます。お父様」
大人びた少女だと思っているアリサが胸に飛び込んでくるほど喜んでいる姿を見たオルクス公爵は隣国逃亡生活の手段をいくつか準備しておくことにした。
幸いにも終ぞそれらの手段が使われることはなかったがオルクス公爵家の発展にはだいぶ役にたった。
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