47 / 57
47 ジョンピーチの冒険
しおりを挟む
『アリサからいただいた本は僕の宝物。でもあれがきっかけで第一王子殿下の婚約者になってしまったのは本当にショックでしたよ』
ケネシスは憂いと安堵をないまぜにした瞳でアリサを見つめていた。
〰 〰 〰
アリサ発案の少年用の本が書かれるとワイドン公爵はケネシスから借りて驚愕し、友人であるバリヤーナ侯爵にそれを教えた。バリヤーナ侯爵はオルクス公爵に頼み込んで一冊譲ってもらいそれを息子の家庭教師に託した。
バリヤーナ侯爵とはテッドの父親である。テッドが学術に目覚めるきっかけになったのはアリサの本だったのだ。
その少年向け本『ジョンピーチの冒険』は鬼ではなく魔物に村を襲われその敵討ちに行く途中で犬やサルやキジの仲間ではなく一緒に戦う仲間ができて、魔物を倒し凱旋する英雄のお話。魔物の王の前に一人で立ち向かうのは家庭教師フリーラの意見である。
「その方が劇的でヒーロー的で男の子たちが喜びそうではありませんか?」
アリサは『ロッティー物語』よりもその本の内容にこだわりはないためあっさりと家庭教師フリーラの意見を取り入れた。
その本がきっかけで自分の息子が勉学に取り組むことになったことを喜んだバリヤーナ侯爵は騎士団長という立場から国王陛下と接点もあり、世間話の一つとしてその話を国王陛下にした。国王陛下と王妃陛下はオルクス公爵に全種類の本を献上させ、あまりの面白さに驚いた。その発行経緯について詰問する。
『このような物語が流行れば勉学に興味を持つ者も増えるだろう。学力向上は国力向上に繋がる。この作者を宮廷司書として雇用し本の制作に力を入れることをオルクス公爵に相談してみよう』
作者を大人だと考えていた国王陛下はそう考えていた。
しかし、オルクス公爵に相談してみると作者がまだ十三歳だと知ることになり驚嘆した。すぐにその場でオルクス公爵に第一王子とアリサの婚約を打診したのだが、オルクス公爵が頑なに拒否し爵位返上まで口にしたので『婚約者候補の一人』とすることで納得するしかなった。
オルクス公爵にとってもギリギリの妥協点だ。
「陛下。この本の作者がアリサだということはここだけの秘匿としてください」
「なぜだ? 才能を知らしめることができる絶好の機会ではないか」
「アピールしたつもりはなくとも本人の望まぬ縁談話が持ち上がります故」
「グググ……。相わかった。そのようにいたそう」
今さっき縁談話をしてしまった国王陛下は言葉につまりつつ納得する。国王陛下とオルクス公爵はウンウンと頷き合ったが全く別の解釈をしていた。
『たしかにいらぬ縁談で他国に行くようなことにでもなると大損害だ。第一王子の魅力に期待する他ないようだな。
まあ、我が息子ながら優秀であるし見目も麗しい。交流さえ持てばなんとかなるだろう』
『妻から王家との縁談の可能性があることを聞いておいてよかった。アリサの気持ちも確認しておけたしな。
それにしてもアリサがあれほど拒絶するとは。第一王子殿下の婚約者だぞ。王家への輿入れだぞ。貴族令嬢なら憧れるものではないのだろうか。
さらには王家に虚偽報告をするわけにはいかない事情も理解し作者がアリサだということを陛下には打ち明けるようにとも言っていた。
本当に現実を見据えたしっかりした考えができる子だ』
屋敷に戻りその報告をするとアリサはまるで大人のように頷いていた。
「王家との関係を悪化させるわけには参りませんからそのくらいが妥当だと思いますわ。あとはわたくしが王子殿下にお断りをし続けます。
それでもそうなってしまったときには……」
「お前だけを国外へ行かせるようなことはない」
「ありがとうございます。お父様」
大人びた少女だと思っているアリサが胸に飛び込んでくるほど喜んでいる姿を見たオルクス公爵は隣国逃亡生活の手段をいくつか準備しておくことにした。
幸いにも終ぞそれらの手段が使われることはなかったがオルクス公爵家の発展にはだいぶ役にたった。
ケネシスは憂いと安堵をないまぜにした瞳でアリサを見つめていた。
〰 〰 〰
アリサ発案の少年用の本が書かれるとワイドン公爵はケネシスから借りて驚愕し、友人であるバリヤーナ侯爵にそれを教えた。バリヤーナ侯爵はオルクス公爵に頼み込んで一冊譲ってもらいそれを息子の家庭教師に託した。
バリヤーナ侯爵とはテッドの父親である。テッドが学術に目覚めるきっかけになったのはアリサの本だったのだ。
その少年向け本『ジョンピーチの冒険』は鬼ではなく魔物に村を襲われその敵討ちに行く途中で犬やサルやキジの仲間ではなく一緒に戦う仲間ができて、魔物を倒し凱旋する英雄のお話。魔物の王の前に一人で立ち向かうのは家庭教師フリーラの意見である。
「その方が劇的でヒーロー的で男の子たちが喜びそうではありませんか?」
アリサは『ロッティー物語』よりもその本の内容にこだわりはないためあっさりと家庭教師フリーラの意見を取り入れた。
その本がきっかけで自分の息子が勉学に取り組むことになったことを喜んだバリヤーナ侯爵は騎士団長という立場から国王陛下と接点もあり、世間話の一つとしてその話を国王陛下にした。国王陛下と王妃陛下はオルクス公爵に全種類の本を献上させ、あまりの面白さに驚いた。その発行経緯について詰問する。
『このような物語が流行れば勉学に興味を持つ者も増えるだろう。学力向上は国力向上に繋がる。この作者を宮廷司書として雇用し本の制作に力を入れることをオルクス公爵に相談してみよう』
作者を大人だと考えていた国王陛下はそう考えていた。
しかし、オルクス公爵に相談してみると作者がまだ十三歳だと知ることになり驚嘆した。すぐにその場でオルクス公爵に第一王子とアリサの婚約を打診したのだが、オルクス公爵が頑なに拒否し爵位返上まで口にしたので『婚約者候補の一人』とすることで納得するしかなった。
オルクス公爵にとってもギリギリの妥協点だ。
「陛下。この本の作者がアリサだということはここだけの秘匿としてください」
「なぜだ? 才能を知らしめることができる絶好の機会ではないか」
「アピールしたつもりはなくとも本人の望まぬ縁談話が持ち上がります故」
「グググ……。相わかった。そのようにいたそう」
今さっき縁談話をしてしまった国王陛下は言葉につまりつつ納得する。国王陛下とオルクス公爵はウンウンと頷き合ったが全く別の解釈をしていた。
『たしかにいらぬ縁談で他国に行くようなことにでもなると大損害だ。第一王子の魅力に期待する他ないようだな。
まあ、我が息子ながら優秀であるし見目も麗しい。交流さえ持てばなんとかなるだろう』
『妻から王家との縁談の可能性があることを聞いておいてよかった。アリサの気持ちも確認しておけたしな。
それにしてもアリサがあれほど拒絶するとは。第一王子殿下の婚約者だぞ。王家への輿入れだぞ。貴族令嬢なら憧れるものではないのだろうか。
さらには王家に虚偽報告をするわけにはいかない事情も理解し作者がアリサだということを陛下には打ち明けるようにとも言っていた。
本当に現実を見据えたしっかりした考えができる子だ』
屋敷に戻りその報告をするとアリサはまるで大人のように頷いていた。
「王家との関係を悪化させるわけには参りませんからそのくらいが妥当だと思いますわ。あとはわたくしが王子殿下にお断りをし続けます。
それでもそうなってしまったときには……」
「お前だけを国外へ行かせるようなことはない」
「ありがとうございます。お父様」
大人びた少女だと思っているアリサが胸に飛び込んでくるほど喜んでいる姿を見たオルクス公爵は隣国逃亡生活の手段をいくつか準備しておくことにした。
幸いにも終ぞそれらの手段が使われることはなかったがオルクス公爵家の発展にはだいぶ役にたった。
17
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる