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34 婚約披露パーティー
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アリサがギリリと扇を握りしめるとメイロッテとケネシスが寄り添いアリサを宥めた。
「ふう。そうですわね。婚約の会食にもいらっしゃらないのですから知らないことも踏まえるべきでしたわ。
ですが、メイお義姉様の髪飾りでわかりそうなものですのに」
メイロッテがしている羽の髪飾りは特別なものだ。この国では羽を模したものは王族にまつわる者しか使えない掟がある。
「アリサ。ごめんね。報告する時間がなかったのだけど、わたくし、先程ズバニールから婚約破棄を言い渡されたわ。わたくしの婚約に反対しているのかと思ったのだけどどうやらわたくしとズバニールの婚約を解消するというお話のようよ」
「あの『アリサを使って虐めている』という件はそこから始まっておりますの?」
「ええ、そう。でもわたくしのお相手が誰であったにしても婚約の破棄または解消をズバニールの判断で行うことは不可能だと思うとは伝えたのだけど通じなかったみたい……」
メイロッテは悲しげにズバニールを見た。義弟を心配する家族の視線である。
「メイお義姉様。彼らの自業自得です。それよりお義姉様につらい思いをさせてしまってごめんなさい」
「アリサが気にすることではないよ」
「そうだぞ。アリサ。メイのことは私に任せておきなさい」
ルナセイラがメイロッテの肩を抱き招待客から黄色い声が湧いた。
「な! 何をなさっているのですか?」
「ちょっと! どういうことよ!」
アリサたちの話を聞いていたが一向に理解できずイライラしてきていたズバニールとパレシャにはルナセイラの行動が理解できない。
「ズバニールさん。今日のためにみなさんにお配りした招待状に目を通していないのですか?」
ケネシスが胸ポケットに手を差し入れ封書を取り出しながらズバニールに近づく。ズバニールはケネシスの手からそれを奪い取るように受け取った。テッドも自分のポケットから招待状を取り出し両手をノアルに抑えられているパレシャにも見えるように開いた。
『オルクス公爵家長男ズバニールと次女アリサの誕生パーティーを催します。
また、三組の婚約披露も兼ねております。
次女アリサ・オルクス & ケネシス・ワイドン
長男ズバニール・オルクス & パレシャ・ユノラド
長女メイロッテ・オルクス & ルナセイラ・プリュムリーナ
子どもたちの同世代の方々だけをご招待させていただくお披露目パーティーでございますのでお気軽にご参列ください。
尚、プレゼント等はお受けいたしませんことをご理解いただきますようよろしくお願いいたします。
オルクス公爵家当主 カイザー・オルクス』
ズバニールにとってツッコミどころが満載すぎて金魚のように口をパクパクさせている。パレシャは顔を真赤にさせた。
「こんなの何も聞いてない! 無効よ無効!」
パレシャはズバニールから友人を呼ぶようにと十枚ほどの招待状をもらったが、その中身を確認せずに配ってしまっている。
「あらまあ。ユノラド男爵令嬢様もこの招待状をお配りなさいましたのに?
でもよろしいですわ。ズバニールとユノラド男爵令嬢様の婚約は無効にいたしましょう」
アリサは壁にいる執事長に視線を送ると執事長がうやうやしく頷いて扉の向こうへ消えた。
震えた声がする。
「メイが長女とはどういうことだ?」
「メイお義姉様がオルクス公爵家の養子になられたということです」
「なぜ?」
ズバニールは瞬きもせずに泣きそうな顔でアリサたちの方を見ている。
「様々な理由が絡み合ったが故だ。くわしくはここで説明するものではない。
一つだけ言うならば、お前の不貞がきっかけであることは間違いない。
私は大変に感謝しているがな」
ルナセイラがメイロッテを愛おしそうに見るとメイロッテも頬を染めながらその視線に答える。実は先程アリサに向けたように見えた愛おしさを籠めた眼は自分の『婚約者』というセリフにメイロッテを思い浮かべ意図せず顔が緩んだものである。
「お義兄様はお優しいのですね」
「そうか? 義弟になるのだから、そう無下にはできないのは確かだね」
「ズバニール。お義兄様はここ一年の不貞態度だと申しておりますがそれは最後の一押しのきっかけという意味ですわ。元々は貴方の日常から始まっておりますのよ」
「ふふふふふふざけるなっ! オルクス公爵家の後継者である俺にいちゃもんをつけるつもりかっ!」
「そうよっ! ズバニール様は素晴らしいお方だわ」
「あら? 婚約は無効ですのにお庇いになりますのね」
アリサは不思議そうにパレシャを見た。
ズバニールはパレシャに『ケネシスが好き』と言われたことも『婚約無効』と言われたことも棚に上げ唯一味方であると思われるパレシャをノアルを押しやって助けた。ノアルはズバニールが公爵子息であるため、どうするべきかをテッドに目視確認するとテッドが首を軽く振って『放っておけ』と指示したので一歩離れて立つ。テッドやアリサに危害を加えるようなら再拘束のできる距離である。
「ふう。そうですわね。婚約の会食にもいらっしゃらないのですから知らないことも踏まえるべきでしたわ。
ですが、メイお義姉様の髪飾りでわかりそうなものですのに」
メイロッテがしている羽の髪飾りは特別なものだ。この国では羽を模したものは王族にまつわる者しか使えない掟がある。
「アリサ。ごめんね。報告する時間がなかったのだけど、わたくし、先程ズバニールから婚約破棄を言い渡されたわ。わたくしの婚約に反対しているのかと思ったのだけどどうやらわたくしとズバニールの婚約を解消するというお話のようよ」
「あの『アリサを使って虐めている』という件はそこから始まっておりますの?」
「ええ、そう。でもわたくしのお相手が誰であったにしても婚約の破棄または解消をズバニールの判断で行うことは不可能だと思うとは伝えたのだけど通じなかったみたい……」
メイロッテは悲しげにズバニールを見た。義弟を心配する家族の視線である。
「メイお義姉様。彼らの自業自得です。それよりお義姉様につらい思いをさせてしまってごめんなさい」
「アリサが気にすることではないよ」
「そうだぞ。アリサ。メイのことは私に任せておきなさい」
ルナセイラがメイロッテの肩を抱き招待客から黄色い声が湧いた。
「な! 何をなさっているのですか?」
「ちょっと! どういうことよ!」
アリサたちの話を聞いていたが一向に理解できずイライラしてきていたズバニールとパレシャにはルナセイラの行動が理解できない。
「ズバニールさん。今日のためにみなさんにお配りした招待状に目を通していないのですか?」
ケネシスが胸ポケットに手を差し入れ封書を取り出しながらズバニールに近づく。ズバニールはケネシスの手からそれを奪い取るように受け取った。テッドも自分のポケットから招待状を取り出し両手をノアルに抑えられているパレシャにも見えるように開いた。
『オルクス公爵家長男ズバニールと次女アリサの誕生パーティーを催します。
また、三組の婚約披露も兼ねております。
次女アリサ・オルクス & ケネシス・ワイドン
長男ズバニール・オルクス & パレシャ・ユノラド
長女メイロッテ・オルクス & ルナセイラ・プリュムリーナ
子どもたちの同世代の方々だけをご招待させていただくお披露目パーティーでございますのでお気軽にご参列ください。
尚、プレゼント等はお受けいたしませんことをご理解いただきますようよろしくお願いいたします。
オルクス公爵家当主 カイザー・オルクス』
ズバニールにとってツッコミどころが満載すぎて金魚のように口をパクパクさせている。パレシャは顔を真赤にさせた。
「こんなの何も聞いてない! 無効よ無効!」
パレシャはズバニールから友人を呼ぶようにと十枚ほどの招待状をもらったが、その中身を確認せずに配ってしまっている。
「あらまあ。ユノラド男爵令嬢様もこの招待状をお配りなさいましたのに?
でもよろしいですわ。ズバニールとユノラド男爵令嬢様の婚約は無効にいたしましょう」
アリサは壁にいる執事長に視線を送ると執事長がうやうやしく頷いて扉の向こうへ消えた。
震えた声がする。
「メイが長女とはどういうことだ?」
「メイお義姉様がオルクス公爵家の養子になられたということです」
「なぜ?」
ズバニールは瞬きもせずに泣きそうな顔でアリサたちの方を見ている。
「様々な理由が絡み合ったが故だ。くわしくはここで説明するものではない。
一つだけ言うならば、お前の不貞がきっかけであることは間違いない。
私は大変に感謝しているがな」
ルナセイラがメイロッテを愛おしそうに見るとメイロッテも頬を染めながらその視線に答える。実は先程アリサに向けたように見えた愛おしさを籠めた眼は自分の『婚約者』というセリフにメイロッテを思い浮かべ意図せず顔が緩んだものである。
「お義兄様はお優しいのですね」
「そうか? 義弟になるのだから、そう無下にはできないのは確かだね」
「ズバニール。お義兄様はここ一年の不貞態度だと申しておりますがそれは最後の一押しのきっかけという意味ですわ。元々は貴方の日常から始まっておりますのよ」
「ふふふふふふざけるなっ! オルクス公爵家の後継者である俺にいちゃもんをつけるつもりかっ!」
「そうよっ! ズバニール様は素晴らしいお方だわ」
「あら? 婚約は無効ですのにお庇いになりますのね」
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ズバニールはパレシャに『ケネシスが好き』と言われたことも『婚約無効』と言われたことも棚に上げ唯一味方であると思われるパレシャをノアルを押しやって助けた。ノアルはズバニールが公爵子息であるため、どうするべきかをテッドに目視確認するとテッドが首を軽く振って『放っておけ』と指示したので一歩離れて立つ。テッドやアリサに危害を加えるようなら再拘束のできる距離である。
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