上 下
25 / 57

25 ヒーローガール

しおりを挟む
「このクズバカール!! よくもやってくださいましたわね!」

 眉間にシワを寄せたアリサは階段の最上段から透き通る声を高らかに上げた。
 ハーフアップの黄緑色の髪には下から見ても艶めきがわかり金色を基調としたドレスは紫色とのコラボレーションによって華やかなのに落ち着きのありアリサの雰囲気そのものであった。

「本当に信じられませんわっ!」
「アリサ」

 アリサの隣に立つ青年が優しく諭すように呟く。

「みなさんが女神の降臨をお待ちですよ。そろそろ参りましょう」

 二人が降りてくる姿は神々しく羨望の眼差しが集中している。先程ズバニールたちが降りてきた時とはまわりの視線に雲泥の差だ。
 パーティーの雰囲気ぶち壊し状態であったためアリサは登場しただけですでにヒーローガールである。

 しかし、アリサ本人はとある人物のためのヒーローガールになることしか考えていない。

「アリサぁぁぁ」

 半泣きのパレシャがズバニールの胸から顔を上げてアリサに助けを求めた。

 壁にいたメイドがサササササとアリサに近づきメモを渡す。

「そうですか。わたくしたちがいない間にこのようなお話になっておりましたのね」

 アリサはそのメモを隣の青年に渡す。

「グブッ!」

 メモを読んだ青年は絶句して驚愕の感情むき出しの視線をズバニールとパレシャに向けた。

「ここまで酷いとは」

 そこにはズバニールがメイロッテに言い募った言葉がメモされている。

「そうなのぉ。アリサぁ。ケネシスぅ。メイロッテ様が酷いのよぉ」

 パレシャはズバニールの胸に顔を寄せて泣き出した。

「いえいえ。酷いのはズバニールさんとユノラド男爵令嬢ですよ。ご理解をしていらっしゃらないのはお二人だけのようですし」

 絶句していたケネシスは気を取り直して周りをグルっと見回しパレシャに答えた。

「どうしてケネシスがアリサのエスコートしているの? アリサは王太子妃になるのよ」

「わたくしは王太子妃にはなりません」

 答えたのはアリサだった。

「それよりまずはこの内容について片付けましょう」

 アリサはケネシスの手からメモを取りひらひらと振る。

「ここにはお二人の本日の言動が書かれております。端的にまとめますと男爵令嬢による公爵令嬢への難癖ですわね」

「アリサのことは責めていないよっ!」

「ズバニールがわたくしが虐めのような低俗なことをしていたと声高らかにおっしゃったのでしょう?」

「だからそれはアリサがメイロッテに命令されたから……」

お義姉様おねえさまを呼び捨て……」

 アリサは小さくつぶやきメモをくしゃりと握りつぶす。

「手を痛めてしまいますよ」

 ケネシスはそっとアリサの手を握りそのメモを回収した。

「そっ、そんなことしたら王太子に睨まれるんだからっ!」

 二人の声が聞こえないパレシャにはただ手を取ったようにしか見えていないようだ。

「王太子殿下に敬称なしとは自殺願望でもあるのかもしれませんね」

 ケネシスがアリサに顔を近づかせた。パレシャへの呆れの嘆息をもう一度して凛々しく背を正してパレシャを見つめる。

「勘違いなさっているようですがそれは後ほど説明いたしますわ。
この虐めについてです。わたくしの言動は貴族として当然のことですし、最後の水たまりについては攻撃をなさったのはユノラド男爵令嬢様でわたくしは防衛したに過ぎません。
そもそもユノラド男爵令嬢様はわたくしに自分に協力てほしいと懇願なさったではありませんか?」

 それを知らなかったズバニールはパレシャを自分から引き離して顔をじっと見た。パレシャは慌ててズバニールに首を振ってみせる。

「それについては証人も見つけてあります」

 ケネシスがにっこりと笑い招待客の一部を手で示すと男子生徒と女子生徒が一人ずつ前に出た。

「俺はユノラド男爵令嬢と同じクラスの者です」

「私もです」

「お二人が何を見聞きしたのかを教えていただけますか?」

 ケネシスは優しく誘導する。冷たい印象を持たれているケネシスの温かな言葉に引き寄せられるように更に前に出た。

「二学年の中頃にオルクス公爵令嬢様が我がクラスにいらっしゃいました。ユノラド男爵令嬢の素行を見にいらっしゃったご様子でした。その頃にはすでにオルクス公爵子息様とユノラド男爵令嬢との噂は出ておりましたので。
その際、何を勘違いしたのかユノラド男爵令嬢はオルクス公爵令嬢様を自分の味方だという態度で『相談がある』と持ちかけ教室の隅へと行きました。その時に……」

 男子生徒が続けようとするのをケネシスが手で制した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生しました

かぜかおる
ファンタジー
悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生しました!しかもサポートキャラ!! 特等席で恋愛模様を眺められると喜んだものの・・・ なろうでも公開中

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

お姉さまから婚約者を奪って、幸せにしてみせますわ!

歩芽川ゆい
ファンタジー
「ごめんね、お姉さま、婚約者を奪っちゃって♪」 ラクリマンドは姉であるカンティレーナに満面の笑顔で言った。  姉はこの国の皇太子と婚約をしていた。しかし王妃教育を受けてからの姉は、優秀だったはずなのにその教育についていけていないようだ。また皇太子も姉のことを好きなのかどうかわからない。  自慢の姉が不幸になっていくのを見ていられない!  妹である自分が婚約者になれば、きっと全員幸せになるに違いない。  そのためなら悪役にだってなってみせる!  妹の奮闘記です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

はじまりは初恋の終わりから~

秋吉美寿
ファンタジー
主人公イリューリアは、十二歳の誕生日に大好きだった初恋の人に「わたしに近づくな!おまえなんか、大嫌いだ!」と心無い事を言われ、すっかり自分に自信を無くしてしまう。 心に深い傷を負ったイリューリアはそれ以来、王子の顔もまともに見れなくなってしまった。 生まれながらに王家と公爵家のあいだ、内々に交わされていた婚約もその後のイリューリアの王子に怯える様子に心を痛めた王や公爵は、正式な婚約発表がなされる前に婚約をなかった事とした。 三年後、イリューリアは、見違えるほどに美しく成長し、本人の目立ちたくないという意思とは裏腹に、たちまち社交界の花として名を馳せてしまう。 そして、自分を振ったはずの王子や王弟の将軍がイリューリアを取りあい、イリューリアは戸惑いを隠せない。 「王子殿下は私の事が嫌いな筈なのに…」 「王弟殿下も、私のような冴えない娘にどうして?」 三年もの間、あらゆる努力で自分を磨いてきたにも関わらず自信を持てないイリューリアは自分の想いにすら自信をもてなくて…。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。

処理中です...