一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十章 虚空

第三十四話 いがみ合う二人

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「そこに座りなよ」

 ラルフは公爵を対面に誘う。公爵はそのことを無視して目だけで周りを見る。

「アイナはどこだ?」

「……気になるわな。でも安心しなよ、アイナさんは今世界一安全だからよ」

 引っ掛かる言い方をしながら椅子を手で指す。

「会わせるつもりはないのか……」

 ラルフはその問いに答えるつもりは無いようにじっと見つめ返すだけ。公爵は鼻を鳴らして一人掛けのソファに座った。
 そこで少しの間沈黙が流れる。この空気を最初に破ったのはラルフだった。

「お茶いる?」

「ふざけるな、要件をさっさと言え。貴様を殺す時間が早まる」

「マジかよ。すっげぇ殺気だな……心配しなくてもアイナさんは逆剥さかむけ一つなくお返しするぜ?」

 ギンッと刺すような視線をラルフに向ける。「二度言わせるな」と言っている顔だ。ラルフは肩を竦めて本題に入る。

「あんたに提案がある。ここらでお開きにしないか?」

「お開き……だと?」

「そうよ。俺は争い事が嫌いなんだ。出来ればそっとしといて欲しいんだよな」

「……ふんっ、無理な話だな。貴様は私の計画を潰し、みなごろしを解放した。万死に値する」

「へぇ、ってことは?」

「無論、最後まで……」

 真っ直ぐにラルフの命を狙うマクマイン。歩に指摘された武器を手放していなければ、今ここで放っていただろう。

(いや、必要ない……この手で締め殺せば先ずは一つ片付く……)

 ミキッ

 マクマインの鍛え上げた筋肉が殺人を意識する。今すぐにでも飛んでいきそうなほど体に力が入った時、横からそっと小さな手が触れた。

「?!」

 そこにはアシュタロトが相変わらず足をプラプラさせながらソファに座っていた。

「あっ!」「貴様っ……!」

 見たことある顔に緊張が走る。
 ラルフにとっては前に突然現れてお楽しみを邪魔した自称神様。マクマインにとっては今現在ラルフに攻撃しようとするのを止める邪魔者。

「何故ここで出てきた!?私の邪魔をするつもりか!!」

 その言葉にラルフはハッとする。豊穣神アシュタロトはマクマインの側だと気付いた。この男の言い分を聞くに「ここぞ」という時に出現させてラルフを殺すつもりだったのかもしれない。そう思えば少女の無邪気な表情が邪悪そのものに見えるからイメージとは不思議である。

『どうどう。そんなに怒らないの。ここには話し合いに来たんでしょ?まだ終わってもないのにフライングはご法度だよ』

 どうやらマクマインが痺れを切らして飛び掛かってくる寸前だったようだ。それを未然に阻止してくれた。そう思えば少女の邪悪な顔が天使に見えてくるからイメージとは不思議である。

「マクマインに力を貸していたとは驚いたぜ。神様ってのは俺みたいなどうしょうもない奴の前に現れるのかと思ったのに意外だな……」

『うふふ……神様にも好みがあってね。僕にしてみたらマクマインくらい才能がある方が力の貸しがいがあるよ』

「そりゃ残念」

 マクマインはアシュタロトの手を振り払い、腕を組む。

「ふんっ……貴様とて神が味方についているのだろう?アシュタロトとは違い、出てこんのだな……」

「あいつは出てこねぇよ。シャイなんでな。もしこの世界に顕現したら凄ぇぜ?そこのちんちくりんと違って体つきがエロいのなんの……つっても俺の死に際か夢枕にしか立たねぇけど……」

『ちんちくりんって可愛い表現だね』

「……バカにされてるんだぞ?」

 呆れながらも眉間の険は取れない。ラルフと同じ目線で会話している事実に虫酸が走っているのだ。そのことを肌で感じながらラルフはひょうきんな姿勢を崩さない。

「ところで豪勢な服を着てるな。俺のとこに来た時は俺の抜いだシャツを着てたってのに……それは公爵の正装だな。そうだろ?」

「何故知っている」

「三年前に見たのよ。大通りでパレードをしてるのをな……」

 ラルフは遠い目でその光景を幻視する。

「英雄然としたあんたを見て感動してたんだぜ?白馬に乗って聖剣を携えながら、黄色い声援を平然と受けるあんたにな。清廉潔白の顔で表通りを堂々と……でも裏じゃ、人を人とも思わず、自分の目的を全うするためならばどんな犠牲もいとわない。きっとミーシャを殺すのにこの街全員の命が必要と言われたら迷わず使うんだろうなぁ」

みなごろしに対する対価がこの街の人間であるなら安いものだろう?貴様の言う通り、そのような方法があるならば私は迷わない。しかし、貴様にはそんなものは使わん。この手で捻り殺す」

 丹田から絞り出すような恨み憎しみ。「殺す」という語彙ごいしかなくなるほどの怒り。人生で怒らせた人は数知れず。殺意にまみれて追われた過去もあるが、ここまで奥底から滲み出すような憎悪は初めてだった。

「このひとでなし。あんたを崇拝してる国民に今のあんたを見せてやりてぇぜ」

「ろくでなしが……図に乗るなよ?」

 子供の喧嘩のようになってきた。アシュタロトはニコニコしながらその様子を見ている。その場違いな顔にラルフは気を乱される。頭を振って気を張り直すと、マクマインを睨んだ。

「無論、最後まで。か……受けて立つぜマクマイン。俺とあんたの意地の張り合いだ」

「よかろう、宣戦布告と受け取る。貴様を……全身全霊をもって叩き潰す」

 マクマインはすくっと立ち上がった。完全にラルフを見下す視線でじっと見ている。

「……ここでやるかい?」

「いや、やらん。お互い刃物の一本もないこの状態では泥仕合いも良いところよ。アシュタロトに引き止められて興が削がれたのもある」

「俺が武器を持ってないのがよく分かったな」

「この話し合いの場に来た時点で、ある程度察している。アイナが私の身を心配して武器の所持を認めなかったのであろう?」

「お見通しか。……アイナさんはこの建物の外で待ってる。行っていいぜ」

 マクマインは大きく舌打ちをする。「何様だ」と言わんばかりの苦々しい顔だ。その目でアシュタロトの方を見ると、こくりと頷き、とととっとマクマインに近寄る。それを合図に踵を返した。

「ここで殺せなかったのは残念至極。だが、次に会う時は戦場だ。必ず……その息の根を止める」

「おお、こわっ……」

 最後までふざけた空気を纏いながらも、常に気を張っていたラルフ。万が一マクマインが飛びかかっていたら、強化されたラルフの前に為す術はなかった。
 部屋を後にした二人。アシュタロトはゆっくりとその存在を希薄にしながら静かに思う。

(……マクマインも強化するべきかな?)

 そのまま建物から出ると、外で待機していたアイナと合流し、お互いの無事を確かめ合う。事の経緯を問いただしていると、飛行艇の発着場から船が一隻飛んだ。

「なるほど……あれが侵入経路か……」

 マクマインは一人納得してアイナを抱き寄せた。
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