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第十章 虚空

第三十五話 退屈しのぎ

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「ねぇ、外が騒がしい感じするんだけどぉ。何やってんの?」

 美咲はつまらなそうに広間に戻ってきた。暇つぶしに外に出たら騎士たちが忙しなく動いているのが目に止まったのだろう。
 ハンターは何でも無いように答える。

「何でもラルフさんを捕まえようと躍起になっているのだとか聞きましたが……」

「ラルフって誰だっけ?」

「おや?何度か合われてたと思うのですが……えっと、外見は全体的に茶色くて、ハットを常に被った御仁です。話してみれば面白い人ですよ」

 その答えにガノンが引っ掛かった。

「……手前ぇやけに親しげじゃねぇか……知り合いなのかよ?」

「ええ、まぁ。多少なりともお世話になりましたし」

「世話?初耳ダギャ」

 藤堂を混じえての話し合いが一応の決着をつけた頃、それぞれでくつろいでいた時に来た話題。美咲が席を外したように、そろそろ各々の与えられた部屋に行こうかという退屈を埋める兆し。

「俺は覚えてるぜ、印象としては何者でも無い奴だな。どいつもこいつもこいつの名前を出しやがるが、いったい何をした奴なんだよ?」

 正孝も口を挟む。心底どうでも良さそうな顔をしているが、尋ねた以上気にはなっているのだろう。その問いにはアリーチェが答えた。

「犯罪者だよ。鋼王の話しじゃゴブリンの丘を襲撃して壊滅させ、復讐に燃えるゴブリンたちを返り討ちにしたんだって」

 アリーチェの言葉にぐっと喉に引っ掛かるものを正孝は感じる。美咲は「それって……」と正孝を見た。

「何?何か知ってるの?」

 アリーチェの質問にバツが悪そうにプイッと顔を背ける正孝。それを見てガノンは鼻を鳴らした。

「……どうでも良いことだろうが。やってようがやってなかろうが……第一、奴の懸賞金は既に取り下げられたんだから、もう放っといてやれよ」

「ほんとガノンってそればっか」

「……っるせー。そんなことよりハンターだぜ」

 ハンターに視線が集中する。余計なことを言われては不味いと焦った部下のエルフたちがコソコソとハンターに何かを言い含める。それに対して彼は涼しい顔で目を瞑った。

「……隠してどうなる?ラルフさんたちは我らエルフを救ってくれた。それを隠すことは不当だと思わないのか?」

 部下たちは苦々しい顔で退室した。

「何ダ?ドウシテ出テッタ?」

「プライドが許さないんですよ。エルフェニアを救ったのがヒューマンと魔族だなんて、考えたくもないんでしょう……」

「……ソレハ エルフノ里ニ入リ込ンダ キマイラ様ノ件ダカ?」

「ええ、その通りです。あれに関しては流石に死んだと思いましたよ。ミーシャさんが居なければ古代獣エンシェントビーストに全て破壊されていたでしょうね……」

「……はっ!それじゃ手前ぇらの救世主は本来なら魔族だけってことになんねぇか?その仲間だったからラルフも救世主ってか?なんつーか目出度い頭してるぜ」

「話は最後まで聞いていただきたい。森王のお言葉をお借りするなら「邪神により、我が国は崩壊寸前だった。あの男が居なければ、古代種エンシェンツの襲来を待たず終焉を迎えただろう」と……確かにあの獣をどうにかしたのはミーシャさんですが、ラルフさんも立派に活躍されてますからね」

 その持って回った言い方は為政者の空気を感じ、森王が本当に言ったのだろうと連想させた。

「何だよその邪神ってのは?初耳だぞ?」

 正孝はさっきまでの不機嫌な態度を払拭するように語気強くハンターに尋ねた。美咲も興味深そうな顔をしている。

「一応非公式ということで他言無用でお願いしたい。僕も聞かされて驚いたのですが、エルフの巫女が森王曰く、邪神に取り憑かれていたそうで……守護者ガーディアンの皆様をこの世界に顕現させたのは、その邪神の単独であり、他の方々も邪神に操られての行動だったと聞きました。やりたい放題だった邪神をラルフさんがどうにかしたと聞きました。そのどうにかの部分までは教えてくれませんでしたけど……」

「一番大事なところを……つーか俺らはその邪神の思惑でこの世界に来たってのか?通りでエルフたちが何の説明も出来ないわけだ」

「てゆーかー、それじゃラルフは私たちにとっては敵も同じじゃん。私たちがもし元の世界に戻ろうと思ったら、邪神の力が必要なわけでしょ?それをどうにかされたら帰り道がないも同じだよ?」

 美咲は正孝に対して推測を展開する。その推測は正孝にもよく理解でき、理解した瞬間に焦り出した。

「マジじゃねぇか!どうすんだよ!」

「お待ちください正孝様。何とかしたと行っても一時的なもの。邪神は死にません。現にカサブリアでの最終決戦に現れたアンデッドの集合体。それを操っているのがその邪神であると合致しました」

「……創造神アトムか……」

 ガノンは当時のことを思い出して苦い顔をする。アトムの力はこの世界の人間では抗うことが不可能。
 それは言葉の力。生き物が聞き取れる範囲内という制限こそあるが、範囲内であればたとえ耳栓をしていたとしても操ることが可能。

「その通りです。神出鬼没であり、いつ出てくるかは全く不明ですが、あれは死にません。いずれ元の世界の足明かりになると思うので、その時にお願いするか、実力行使のどちらかで元の世界に戻るしかありません。……話が逸れました。とにかく、ラルフさんは世間で言われてるほど悪人ではないです。僕が保証します」

「新人ノ保証ガ何ニナル?」

 ハンターのせっかくの決め台詞を雑に処理される。「そんなことより聞きたいことがある」と部屋の人間は前のめりにハンターに質問しようとする。その時、突然声をかけられた。

「なになに?何の話をしているんだ?」

 そこに立っていたのは草臥れたハットの男と、サングラスをかけた不思議なダークエルフっぽい何か。

 場が凍りつく。こんな事態は想定していない。
 いつからそこに?どうしてここに?どうやってそこに?色んな言葉が浮かんでは消える。

「……て、手前ぇは……何でここに……」

「白の騎士団が集まるってんだから、こうしちゃいられねぇって面子見たさにわざわざ来たってわけだ。せっかく静かになったし、俺も入れて最初から会話を始めるってのはどうだ?」

 白の騎士団である自分たちの話し合い。それが例え暇つぶしに駄弁っている中であっても、声をかけるのは常人には図りかねる。
 だが、ラルフには当てはまらない。
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