一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第六章 戦争Ⅱ

第三十五話 領域魔法

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「……何回飛んだ?」

「ええっと……五回です」

 アルルは指折り数えて数字を出す。この数は転移の回数だ。転移の罠が作動して船内のあらゆる場所に移動させられた。時には寝台に、時には倉庫にと、通路以外にも飛ぶことがある。一貫しているのは出入り口となる舵付近の穴や甲板に近い場所には転移しない事だ。絶対に外に逃さない意志を感じる。

「多分決まったルートを通らないとやり直しになる仕様だろうな……」

 試行回数はそこまで多くないが、即座にこの思考に辿り着けたのは炭鉱跡の経験が活きている証拠だ。闇雲に走り回って体力を減らさずに済む。

「通路だけじゃ無くて部屋にも飛ばされてましたよね?もしかしたら制御室は転移で無いと行けない可能性はないですか?」

「その可能性は否定できないけど肯定もできないな。もしこの中に入った敵が、万が一にも制御室に転移された場合どうする?可能性が爪の先ほどあるなら潰したいと思うのが白絶の考え方だと思うが……」

 仮に転移で部屋を見つけられる場合、罠の詳細を知っているラルフ達にとっては好都合この上無い。転移の兆候を見極め、行った先々に印を書く事でどこからどう転移するかを読み解く。転移のパターンを見つけられたら制御室に辿り着くのは最早自明だ。
 しかしこれには時間という大きな壁がぶち当たる。激戦を繰り広げているだろうミーシャを抜いた仲間、計十三人には時間を掛けている余裕は無い。白絶に戦いを強いられている以上、最終的に行き当たるのはいずれか複数の死。仲間を手に掛ける、あるいは手に掛けられる最悪の末路。これを打開する手立ては濃霧の解除。というより領域魔法の解除だ。

 白い珊瑚ホワイトコーラルへの侵入時——

「……あくまで仮説ですが、白絶の魔法はかなり特殊だと思われます」

 アルルは顔をほころばせてラルフに話す。

「この霧の領域内にある魔素を変化させているんですよ。おじいちゃんと話したんで間違いないです」

「……ん?その……マソ?を変化させる事で何で白絶様以外のみんなが魔法を使えなくなんの?」

 シャークはここに居る疑問符を浮かべた姉妹たちに代わって質問する。

「んー、そうですね……私たちが魔法を使う際に魔力を使用しますよね?実は空気中には「魔力の素」、つまり「魔素」が漂っていて、それと魔力を混ぜる事で魔法を生み出しているんです……」

 そこまで話せばさっきまで分からなかった姉妹たちでも理解出来る。すぐさまエールーが声を上げた。

「え、つまり白絶様は空気中の魔素をあらかじめ変化させる事で魔力との結び付きを阻害し、敵に魔法を使用させないようにしていると?」

「はい、その通りです」

「待った。君たちは体内に魔力を内包しているのだから、それを使用する事で魔法を使えるんじゃ無いのかい?」

 アンノウンは初歩的な事を聞く。RPGのゲームだとMPマジックポイントを消費して魔法を生成している。この世界でエルフから仕入れた情報ではその考えであっていると認識していたが、どうもこの感じだと多少違うことが窺える。

「確かに自分を強化させたり回復を増進させたりするのは体内の魔力で行います。だけど体外で魔法を使用する場合、自分の魔力を空気中の魔素と結び付けないと発動しません。これをみんな無意識に行使しているので、魔力を使用すれば魔法が使えると勘違いしているんです。魔素が無ければ魔法の発動は無理です。少なくとも私はおじいちゃんからそう教わりました」

 突然の講義にジュリアも「へー」と間抜けな声が出る。ラルフもウンウン頷きながら納得する。

「なるほどな。俺もアンノウンと同じく勘違いしていた口だが、そんなもんがあったとは……ということは要塞の攻撃が届かなかったのも途中で魔素がほつれて分解されてたって事か?」

「それはっ……何とも言えませんが、恐らく……」

 さっきまでの自信満々の感じから一転、尻すぼみになる。

「しかし、これならミーシャさん達が操られるに至った経緯も何となく分かりますね。白絶自身が変化させたからこそ魔素の組み立て方を知っているなら、魔素の組み立て方を知らないミーシャさん達は足を掬われた形でしょうし……」

 ブレイドは要約して相手だけが魔法を使える理由を的確に当てる。これにはカイラがポンと手を叩いてニコリと笑う。

「ああ、そういう事ですの?やっと白絶様だけが有利な理由が分かりましたわ。……でもそうなると尚更、黒雲様に敗北された理由が分かりませんが……」

「それは多分、黒雲と戦っている時はこの魔法自体まだ確立してなかったんだろうぜ」

「フム……ソウデアレバ、白絶ガ今日マデ動カ無カッタ理由ハ……コノ領域魔法ヲ作ル為ノ期間デモ有ッタ訳ネ」

 ジュリアは顎に手を当てて白絶の雲隠れの期間に触れる。

「ここ百十数年の話だし~、もしかして魔素の組み立て練習とかしてたりして~……」

 シーヴァは幼い容姿である白絶が魔素を粘土に見立てて捏ねている姿を想像する。幼児のような可愛さにシーヴァの顔はほころぶ。

「!!……おいシーヴァ!」

 ラルフは解けた表情で妄想しているシーヴァに対して声を上げる。いきなりの事にビクッと体を震わせて「なになに?」とラルフを見る。怒られたのかと身構えたが、ラルフの顔には笑顔があった。

「それだよ!奴はこの領域魔法の中に居続けて本来の魔素の形を忘れている可能性がある。特殊な組み立て方で慣れきった身で通常の状態に戻せば……」

「……逆に魔法の形を保てなくなるとか~?」

 パンっと柏手を打ってシーヴァを指差す。「その通り!」とでも言いたげな顔だ。シーヴァは「えへへ~」と褒められた気になって照れている。

 要塞の魔力砲が届く事なく防がれた理由に魔素のほつれが関係している場合がある。つまり変化させた魔素で作り出した魔法はこの中でのみ、その真価を発揮していると考えるのが妥当だ。突然船に展開されている領域魔法が消失した時点で白絶の魔法は、あるべき魔素の形に邪魔されてその形状を保てず崩壊する。
 これはあくまで仮の話だ。白絶が臨機応変に対応して通常の魔素に対応することも考えられるし、そもそも論としてこの領域魔法はそんな複雑なものではなく、単純に白絶以外が魔法を使えなくする特別な術式を組んでいる可能性だってある。いずれにしても領域魔法を解除出来れば、圧倒的に不利な状態から「圧倒的」を差し引いた「不利」な状態に持っていける。
 希望的観測込みなら洗脳が解けて圧倒的有利をもぎ取ることも夢じゃない。

「私がおじいちゃんと話している時もその結論に至りました。狙うは領域魔法の魔法陣です」



 その後、十回ほど転移を繰り返して転移先に印をつけた。

「また見た光景だ。印もあるし……やはり順序があるのか?」

「転移自体は関係なくてそれっぽいところに進むのが得策かも知れないですね。もしくは気付かなかっただけで一度制御室の前を通ってたりするかも?」

 混乱してきた。

「……二つに一つだ。転移で制御室へ辿り着けるのか、転移は関係なくて真っ直ぐ罠を掻い潜れば到着出来るのか……」

「いっそ二手に別れますか?」

 この船内には白絶と喪服女以外の脅威は領域魔法と転移魔法。虫もいなければ追ってもいない。

「あり……だな」

 単純に二倍の労働力。だが心配なのは情報の共有だ。ここ一度通ったとか、他にも敵がいたとか、制御室見つけたよ!と教える為の情報伝達手段がない。あるとすればゼアル団長から取り上げたネックレスだけ。ゴソッとネックレスを取り出し、どうするべきかと悩んでいた。

 するとアルルの槍がラルフに近付いて、ネックレスにコンッとおもむろに刃を立てた。「うおっ!」とちょっと驚いたラルフだったが、何をしているのか確認していると、槍に埋め込まれた水晶玉が淡く光を放ち、ネックレスの宝石部分にもその光は伝染した。その綺麗な光景に釘付けになるウィー。ラルフは首をひねった。

「あれ?魔法が発動しているのか?」

「これは共鳴効果ですよ。例えば私がラルフさんに触れながら強化効果を与えればラルフさんを強化可能です。効果はいつもと差がないので触れるという面倒な行程が追加されますが、今でも使用出来ますよ」

 手を出してワキワキと軽く握っては開いてを繰り返す。

「なるほど、共鳴か……ってそれをしたところで何になるって……」

『……ザザ……ラルフさん。聞こえるかのぅ?』

 アスロンの声だ。

「なっ!?通信が出来たってのか?!でも魔素が……」

『残念、通信では無いのじゃ。儂はこのネックレスに記憶を複製して話しとるぞい。アルルとはいつでも会話可能なんで助言も出来るが、ラルフさんには声が届かんのでこの形を取ったんじゃ。魔素の阻害を受けるが故、記憶の共有は出来ぬが、二手に別れるなら儂の知恵を貸せると思うての』

 情報共有に関しては解決していないが、大賢者が制御部屋の捜索に一役買ってくれるならこれほど頼もしいことはない。

「心強いぜ!それじゃアルル。……本当は危険な行為だから固まって行動するのが一番安全なんだが、手段を選んでいられない。すまないが、二手に別れて捜索しよう」

「いやそんな……私から言い出したことですし、早くみんなを助けてあげたいのは同じ気持ちです」

 二人の考えが合致し、二手に別れる事になった。アスロンナビゲーターがサポートしてくれる事も相まって、安心して行動できる。

「よし!それじゃ転移の罠を使用するか、出来るだけ罠を避けて見つけるか。どっちか選んでくれ」
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