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第93話 恋バナ
しおりを挟むそれからシルヴィアーナは、右側に座っているルイーザをチラリと流し見た。
いよいよ本題である。
「ですが……わたくし、今宵は他にもひとつ、大変驚いたことがございましたの」
「……まぁ、何かしら?」
美貌の友人からの探るような流し目を受けて、エメラルドの瞳をぱちくりと瞬かせるルイーザ。
気づかない振りをしながら口元を扇で隠し、可愛らしく小首を傾げてみせた。
「もう、ルイーザ様ったら、おとぼけになられて」
そんな友人の態度に、子供っぽくむくれて見せるシルヴィアーナ。
彼女がこんな風に砕けた姿をさらすのは、信頼する者たちの前でだけ……。
妖艶で大人びた公爵令嬢しか知らない人がみたら、さぞやびっくりするだろう。
ここのところ、まるで天災のように周囲を巻き込み引っ掻き回すサリーナのせいで、緊迫した状態を強いられていた令嬢達。
シルヴィアーナに限らず、上手く笑えない日々が続いていた。
だからこそ、久しぶりに明るさの戻ってきた彼女の、いつもながらのギャップにほっこりと場が和む。
一瞬で場の空気を変えた彼女はといえば、ルイーザから話を引き出そうとズイッと身をのりだしていた。
ヤル気満々である。
「貴方様だけはもっと、別の事で驚かれたのではありませんこと?」
ズバリと切り込まれ、ルイーザが一瞬、答えるのを躊躇した。
すると、すかさずダフネが口を挟んだ。
「あらあら、そうでしたわ。とっても素敵なことがありましたわよねぇ、皆様。これは聞かずにはいられませんことよ」
彼女も面白そうな話題に乗っかることにしたようである。
キラキラした瞳をルイーザに向けると、嬉々として問いかけた。
「わたくしも、シルヴィアーナ様と同じですの。はしたなくも好奇心が押さえきれませんことよっ。剣聖様との事、教えてくださいまし!」
「まぁ、ダフネ様ったら……」
普段は冷静沈着な彼女にまでグイグイこられて、タジタジになるルイーザ。
目を白黒させている彼女に構わず、求婚の場面を思い出してうっとりとしながらアンジュリーナが続けた。
「素敵でしたわねぇ。まるで、オペラのワンシーンを見ているようでしたわっ」
「ええ、ええっ。胸がキュンとしましたわよね、アンジュリーナ様!」
「分かりますわ、ダフネ様!」
親しい友人の恋バナにワクワクする気持ちを押さえず、声が弾む。
こんなおいしい話、じっくりと聞かない訳にはいかないだろう。
政略結婚が当たり前のハワード王国では高位貴族になる程、この手の恋バナは珍しいのだから。
三人の令嬢達の心が、燃え上がった瞬間だった。
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