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第94話 初恋の人
しおりを挟むそれはもう熱烈に、ひとつも聞き漏らすまいというように見つめられたルイーザはと言うと……。
「もう、嫌だわ、皆様ったら」
友人達の熱量に押され気味で、思わず頬を染めてしまう。
苦楽を共にした彼女達にタッグを組まれては逃げられない。
ジタバタと暴れ出したいほど恥ずかしいけれど、こうなったら話すしかないと覚悟を決め、目を泳がしながらも言葉を探す。
「わたくしだってまさか、あの状況で、その……あの方から求婚されるとは思ってもみませんでしたの」
ドキドキする胸を軽く押さえながら言った。
あの時の事を思い出すと、男の色気たっぷりの格好よすぎる姿が自動的に脳内再生されてしまうのだ。
こうして条件反射のように胸が高鳴るので困ってしまう。
「心臓が止まりそうになるくらい、びっくりしてしまいましたわ。だって、わたくしに都合が良すぎたのですもの」
いけないと思っていたのに、勝手に育ってしまった彼女の恋心。
それが今宵の婚約破棄騒動で二人を阻んでいた障害が取り除かれたというか、勝手に自滅してくれたというか……。
ともかく、婚約者だったクレイグからルイーザの心が完全に離れる出来事だったのは間違いない。
そして、そこに見計らったかのようなタイミングで現れた意中の人に、情熱的に求婚されるなんてこと、昨日までの自分は信じないだろう。
「……一度は叶わぬことと諦めておりましたのよ」
「ルイーザ様……よく、分かりますわ」
ため息混じりに呟かれた思いに、ダフネは無理もないことだと共感して頷いた。
だって、生まれた時から恋愛結婚など出来ないと諦めていたのは皆、同じなのだ。
この国の高位貴族の子女達なら当然、小さな頃から私心を捨て政略結婚するべしとの教育を受けるのだから……。
「でもこんなチャンス、掴まない手はないでしょう? ですからわたくし、勇気を振り絞りましたの。欲しいものに手を伸ばせない、苦しい想いは一度でたくさんですもの」
――たぶん、初めての恋だった。
諦めなければいけないのが、あんなに辛いとは思わなかった。
自制する必要が無くなってすぐの求婚に戸惑いはあったけれど、自分の気持ちと真摯に向き合い、彼の愛を受け入れた。そのことに後悔などない。
だから今、とても幸せなのだと照れくさそうにはにかんだ。
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