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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
114.収穫祭⑨武
しおりを挟む穀物とお酒の奉納式を見た後、大人達は振る舞い酒にわき上がり、若者は、雑穀のスープやパンを味わう。
シーグも領主館で、朝食を軽く食べたはずなのに、雑穀スープもパンも試していた。
まあ、育ち盛りというか、十代の男の子って、びっくりするくらい食べるわよね。
そして今日もサヴィアンヌは、穀物やお酒の奉納品に飛び込んでいった。
いくらその方が旨味が出るってみんなが容認してるとはいえ、食べ過ぎじゃないかしら?
穀類をお祀りしているだけあって、籾っ子ちゃん達が増えていた。
どこから? 南からやって来たの?
《違うわヨ。豊穣だったから、自然に増えたのヨ。ここはいい土地ネ》
そういうものなの? そういえば、妖精の結婚は価値観と気持ちの合う相手と融合──文字通りひとつになるらしいので、結婚するたびにどんどん数が減ってるんだと心配してたけど、自然発生で増えるんだ⋯⋯
《自然発生はちょっと違うカシラ? 大地の地精をよく含んだよい実りがたくさんあると、妖精を抱いた花が咲いたり、果実が実ったりするノヨ》
「種子とか? 果実や蜜?はちょっと違うか」
《だいたいそんな感ジ》
親指姫とかかぐや姫みたいなものかしら。
花が開くと中にお姫様。桃を割ると男の子⋯⋯
《アラ、シオリの世界にもそんな花の精とか居るのネ》
「いると言うかいないと言うか、お伽噺?」
《伝説やお伽噺って言うノハ、自分の視る力に気づかなくテ、夢でも見たのかな~って話が続くところから始まるノヨ。キット、そっちにも視えないだけで居るんダワ》
「そうかな」
《ダッテ、みんながてんでバラバラの話をするんじゃなくテ、だいたィ、似たような話になるんデショ?》
「そういえば、そうね」
でも、近代化が進んで自然が少なくなって、本当に居たとしても、最早いなくなってるのかもしれないけど。
お酒が入って陽気になるからか、初日よりもみんなの踊りに熱が入る。しかも、酔って踊るので、まわりが早くて、ふらついたり、隅で寝込む人もいる。この街にも泥酔するほど飲む人が居るのは初めて見た。
シーグに手を引かれ、酔っ払いがひと通り気が済んで退場して空いた輪に入り、私も踊りだす。
こんなに毎日運動するのはいつぶりかしら⋯⋯
去年の体育祭前に、訓練や予行演習した時以来かしら。
妖精もたくさん踊りに加わり、視える人は驚いていたけれど、カインハウザー様と私がいるからも含め、収穫祭だから、と驚くだけで騒ぎにはならなかった。
収穫祭は初日の天の日に、開祭宣言から新成人、新婚の祝いと、野菜や果物の収穫を感謝して奉納するのを皮切りに、毎日、二日目地の日が山の幸、野の幸、川の幸など、恵みに感謝する日、昨日の三日目火の日が畜産や加工食品、今日の四日目水の日が穀物や酒類、明日五日目風の日が鋳物や工芸品、六日目の樹の日は学問を称え、魔法と武芸を競い合い、それぞれ感謝と王都への納税の準備もする。
七日目の闇の日は、生命や死の安寧について祈る日で、お祭り騒ぎはなく、教会や神殿にて神々への信仰を篤くする日だそうで、また、クロノ神殿が係わってきそう⋯⋯
最終日の聖の日は、世界の恵みと営みである、精霊や妖精への感謝の日で、穏やかに過ごして、収穫祭は終わりとなる。
ここの暦では、一週間が八日間で何々曜日とは呼ばず、天の日地の日と言い表し、順に天地火水風樹闇聖となる。
それぞれ、精霊魔法の属性に呼応しているらしい。
鋳物や鉄鋼品、手芸品や工芸品などは、文化祭みたいな展示会でもあり、クロノ神殿への巡礼者に工芸や芸術に精通した人が居たようで、意見を交わしたりもしていた。
六日目も似たようなもので、新しい論文を書いた人の褒章式があったり、ちょっとした魔術や剣技でのトーナメントもあって、特に衛士隊の人達は素晴らしかったし、観客である街の人々も大声で応援したり拳に力が入ったりと、盛り上がって色々発散したように思う。
ちなみに、武芸大会ではベーリングさんがダントツ瞬殺で勝ち抜き優勝。ハルカスさんが熟練の技で準優勝。
意外だったのが、ロイスさんが、ドルトスさんと三位タイだったこと。小隊長さんだったとは聞いてたけど、そんなに強かったなんて。
「いつもはもう少し下の方なんだけどね。毎年ベーリングが圧倒するので優勝は出来ないってわかってるから、適当に勝ち抜いて適当な所で負けてたんだけど、今年は張り切ってたからね」
「そうなんですか? なにか心境の変化でもあったのかしら」
「いいとこ見せたかったんでしょ? 私も驚いたわ」
カインハウザー様とリリティスさんの説明から、どうやら、ロイスさんには自分が活躍するカッコイイところを見せたい人がいたらしい。ここの基準で言えば、結婚しててもおかしくない年だもんね。キリッとして冗談を言わなければ、ロイスさんもかっこいいし。
「それ、表彰式のあとで言ってあげると、喜ぶと思うわ」
「そうですね、お祝いを言うときに、ちゃんとカッコよかったって言っておきます」
「それ、要らん誤解を生まないか?」
シーグがギロリと睨む。
「誤解? カッコよかったのは本当だし、こういう時は、素直にカッコよかったって言うのは普通じゃない?」
その事自体には異論はないのか、納得はしてなかったみたいだけど、それ以上、シーグが不満を表すことはなかった。
そして更に意外な事に。
魔術系のトーナメントでも、大活躍だった。
優勝したのは、衛士隊所属の魔術士で、なんと準優勝がロイスさん。
「魔術の方は、第一回目に参加してやはり中間くらいに位置して、その後はずっと出てなかったのだけど、今年は本当に頑張ったようだな。魔術専門職に勝つとは思わなかったよ」
「いいとこ見せたい願望が、効果覿面ね。いつもあれくらい頑張ればいいのに」
リリティスさんが笑うと、カインハウザー様も苦笑しながら「意中の人にかっこよかったと言って貰えれば、来年以降も発憤興起するだろうさ」と仰った。
こんなに楽しいお祭りは、人生でも初めてだった。
ハウザー砦街で楽しく幸せな収穫祭を楽しんだのは、今年が最初で最後だった──
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