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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

115.信仰祭

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 明日の収穫祭最終日を目前に、七日目の今日は、闇の日。
 今年も無事に生きていることを管理神アルファに感謝し、ご先祖さまや今年の死者の安寧を願って静謐神クロノに祈る日で、お祭り騒ぎは昨日まで。

 そして、心配していた通りに、頼まれもしないのに、大神殿から枢機卿と美弥子達が朝からやって来た。

「今夜は、クロノ男神に、先祖や隣人の安らぎを祈る日ですから、私達がお手伝いを致しましょう」

 それでも、要らないと突っぱねる訳にもいかず、彼らは堂々と南門から入って来た。

《シオリ! ミヤコ達が来たわ! クロノ男神に祈る日だからって、枢機卿を寄越したのよ。それに、見学、勉強会と称して、ミヤコ達が便乗してきたの》

 教会でアルファ女神に祈っていたら、フィリシアが叫んだのでちょっとびっくりした。

 この世界へ来る時に、私に祝福や加護を與えてくれたかもしれないという世界の管理神アルファ女神さま
 この世界で、精霊や妖精達と仲良く幸せに暮らせる喜びを伝え、カインハウザー様と出会えた感謝を祈り、シーグと幸せな家庭を築けるように心の中で決意を述べていたのに、気分がぶち壊しである。

「え? でも、美弥子達はアルファ神の『聖女』と『巫女』で、神官じゃないんでしょう? 手伝うって、クロノ神の言葉を聞けるの?」
《一応、それは枢機卿がやるんでしょ? 初めてだから見学するだけらしいわ。ついでに男あさ⋯⋯》
「は?」

 今、男漁りって言った? 美弥子が? ここで?

《別に、男遊びをしたいとか伴侶を探しにって訳じゃなくて、ただ、この街の衛士や領主の見目がいいから、目の保養って言ってたわよ。サクラが。騎士は、王子に並ぶ優良物件なんだそうよ? 騎士の家まで押しかけて、見るつもりかしら》
「ああ、その『優良物件』はこの場合、住んでる家屋の事じゃなくて、婿がねとして好条件かどうか、好人物かどうかって事よ」

《いいお家=いい男、ナノ?》
 目をキラキラさせて、サヴィアンヌが食いついてくる。

「必ずしもそうではないけれど、彼氏や旦那様にするのに、好条件──家もしくはその環境、資産、性格、外見、職種なんかの優れていると思われる男性のことを私達の国では『優良物件』と呼ぶこともあるのよ」
《逆もアルノ?》
「まあ、条件が良くない、オススメできない男性のことを『不良物件』って言うかもだけど、あんまり使わないかな? 借金があるとか、性格に問題がありすぎる人、結婚したら苦労する予感しかない人を『事故物件』とか『不良債権』って言う事もあるかしら?」
《あんた達って面白い考え方するノネ。さしずめ、セルティックやキーシン達は『優良物件』ナノネ?》
「そう⋯⋯ね。カインハウザー様は、領主様だし、金と青銀せいぎんの端正な外見で、元大将軍の騎士団長。
 キーシンさんも貴族の子息で、元騎士団員で、金髪碧眼の美形で、さくらさんは好きそう⋯⋯」

 様子を見て今日は帰ろう。どのみち、踊ったり飲み食いする訳じゃない、神様に祈る日だもの。自分ちでも構わないだろう。

《モチロンヨ。管理神様は、どこで祈ってもちゃんと聴こえてるワ。特にシオリ、アンタはアルファ女神さま祝福ブレスを貰ってるんだから、神のシルシがついてるようなものよ、どこにいたって聴いてるワ》

 ええ? そうなの? じゃあ、毎日感謝のお祈りを、もっとちゃんとしなきゃ!

《なぁに? 今まで適当に祈ってた訳じゃないでしょ?》
「そうだけど、ただ祈るのと、聴かれてると知ってて祈るのとでは違うでしょう?」

 サヴィアンヌもシーグも笑うので、恥ずかしくなってくる。

「もぉ、ィグナリオンまで笑うの?  いいわよ。笑ってれば? もう帰るわ。美弥子に見つかりたくないし」

 今は、人型の時はィグナリオン、狼の時はシーグと呼び分けているけど、いつか普通にシーグって呼びそう。

 肩甲骨の下まで伸びた、この国にはあまり見ない濃い栗色の髪を三つ編みにし、魔力の漏れを抑える王宮女官のケープの内側に入れ込んで、フードを深くかぶり直して顔がわかりづらいようにしてから、教会を出る。

《外見が、金髪碧眼に見えるようにする?》
「いいえ。それだと、神官に目をつけられるかも。まだ、一週間よ」

 フィリシアが、見目をごまかす魔法を提案してくれるけれど、金髪のシオリは、クロノ神殿でまだ探されているかもしれない。用心には越したことはないだろう。
 
 魔力は頭から漏れるのだろうか? 全身から漏れるけれど、頭を隠すと漏れなくなるのだろうか? ケープのフードを被ると、魔法が使えそうには見えなくなるし、小さな精霊もあまり寄ってこなくなる。

 教会から、街の大通りを通って領主館を目指すけれど、その途中で、広場を横目に通過する。

 カインハウザー様たち元黒翼隊とクロノ大神殿側は仲良くはないけれど、真っ向正面切って対立している訳でもないらしい。
 まして今日は収穫祭七日目の、神に祈る日なので、広場でクロノ神殿の枢機卿が説教を説いてても、街の人たちは大人しく聴いていた。
 普段神殿側のトップとして顔を合わせる大神官や大司教ではなく、各地への説法と説教会を行い、大神官を支える、いわば聖職者の筆頭貴族のような存在を持ってくるあたり、大神殿側も考えているのだろう。

 とにかく、私達日本から来た女子中学生四人の頭には、召喚した大神官たちの都合で、特に宗教と魔術に関する知識が偏って詰まっている。

 あの黒法衣キャソック司教冠ミトラ司教杖バクルスは、高位の枢機卿カーディナルが祭典時に使うもので、司教、大司教から選ばれ、各宗派の大神官や教皇などのトップを支える重要人物である。

 わざわざそんな大物を連れてきて、説教を説き、この後、前年の収穫祭のあと昨日までに亡くなった者を悼んで、その安寧の眠りを祈るらしい。
 ここへ派遣された枢機卿は、一瞬目があったけど、召喚時には居なかった人のようで、私になにか思ったり感じたりはしなかったのだろう、そのまま視線を外して、街の人たちに神のありがたみの話を続けていた。

 フードを被ってても寒さから特に違和感はないし、髪もケープの内側に入れてあるし、ケープが魔力の漏れを抑えるから、正面から見られない限り、美弥子達にもバレないと思う。

 思ったんだけど⋯⋯

「ねぇ、待って!」

 美弥子から声をかけられた──




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