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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
104.珍客②
しおりを挟む小屋に帰ると、狼犬のシーグが酔っ払ったサヴィアンヌを頭に載せて、フィリシアに冷風を送ってもらっていた。
迷った。カインハウザー様がここに来た時に、シーグが人だと驚くだろう。私が理由を話す前に、男の子を連れ込んだとか誤解されかねない。早く話すべきだろう。本当は人間なんです、と。
今は館内で狼の姿でいると、従業員やいろんな観点から神殿側にバレる可能性もある。
一応「メイドのみならず、全従業員に、客人の前ではシーグの話はしない、聞かれる可能性のある場では仲間内でも話さないと伝えておく」との事なので、大丈夫だとは思うけれど、万が一の事を考えると、しばらくは青年姿で居てもらうほうがいいみたい。
そう伝えると、わかったと答えるがいなや、その場で二十歳前くらいの青年の姿になる。
やはり、一瞬は、岸田くんを思い出す。
別に岸田くんに特に思い入れはない(挨拶も済まない内にこっちに来たから印象は薄い)けれど、あちらでは同年代の男の子と殆ど話したことがなかったので、恥ずかしそうにしながらもクラス委員だから頼れって言ってくれたり、挨拶と同時に握手を求めて来た人だったので、なんとなく覚えている。
元の学校の子も含め、顔と名前と声が一致する男子は数えるくらいしかいないのだ。その中で、最後にやり取りをした事もあって、ここへ飛ばされる経緯を思い出す時に必ず彼の自己紹介時の様子は思い出すし、あまり親しくするとトラブルになる可能性が頭をかすめる程度には見た目がモテそうに感じたのも同時に思い出すのだ。
元中で、図書委員の男の子と一緒に行動しただけで一部の女子にハブられたり、家庭の事情から心配してくれた一学年先輩の男子が、やたら構ってきたのが気に入らないのか裏庭に呼び出された(漫画の読み過ぎじゃないのかと思った)事などから、あまり岸田くんと親しくはしない方が良さそうに思ったので、そこは印象にあるのだ。
そんな事を考えていた時に、シーグからのセリフで、一瞬頭の中を覗かれたのかと思った。そんな魔法があるかは別として。
「そういえば、さっき、小屋に戻る直前、大神官がシオリくらいの歳の女の子を連れて歩いてるのを見た。アイツ、まだ居たんだな。そろそろ消えたかな?」
「それが、ここに、泊めろってねじ込んできたみたい」
「厚かましい。せめて低身低頭に頼んで「泊めてください」だろう。街の宿はなかったのか」
「王都と同じね。お祭りをみに来てる人達も巡礼者も居るから」
「面倒くさいな。ここにこもってるしかないかな」
「明日は私もここに居るわ」
本当は、ハビスさんの農場に行って、山羊や乳製品加工場を見せてもらう予定だったのに。
お祭りでみんなが休んでる時でもないと、急に見学したらお仕事のお邪魔になるし、お祭りで休みでも山羊の世話はあるので、ゆっくりお手伝いしながら話を聞かせてもらうはずだった。
時間があれば、トークンさんちの山猪の養豚場も。
「そうか。その時は俺も行く。シオリがそこで今後働くなら、俺も。加工場で働いてもいいし、山羊や猪の世話でもいい。力はあるからな。あるいは、山羊追いの犬の代わりをしてもいい」
「えっ!? いいの?」
「なぜ?」
「だって、いつも犬じゃない狼だって⋯⋯」
「狼でも、狩りはする。仲間で組んで、野生動物の群れを襲うこともある。その応用だろう?」
犬扱いは怒るのに、牧羊犬はやるの。その辺の線引きがよくわからないわ。
「それと、大神官の連れてた女が俺を見て、キシダクンと呼びかけたな。異界の言葉かな? キシダクンって解るか?」
美弥子達と顔を合わせた? シーグが?
「街から戻って小屋に戻ろうとしたら、三人の内の一人だけ、庭を見学に来てたんだ。仕方ないから林で隠れて待ってたんだが。
最初は碧い髪の女だったが桃色の女が呼びに来て、そこで居なくなったからいいかと思い、小屋に入ろうとしたんだが、気配無くいつの間にか黄色い頭の女が立ってて、その女が言ったんだ。「キシダクン、ここに居たの」と。
大神官の連れだから相手にしたくなかったが、俺を見て、会いたかっただの、3日前、なんでクロノ神殿にいたのかとか、呼んだのに無視して姿を消したとか、訳わからねぇ事言うから、人違いだろって誤魔化して、一度屋敷に入るふりしてこっちへ戻ってきた」
多分、バレてないとは思うが、狼で戻らなくてよかった。そう言って、シーグは水瓶の水を汲んで、手渡してくれる。
お風呂あがりに心地よいけど、胸に広がった不安は拭えない。
碧い髪の人は彩愛さんで、呼びに来たのはさくらさんだろう。
植物系の、風と土属性の治療士だから、ハーブ園が気になるのは解る。
黄色い頭──あの時美弥子は、聖女の判定として、光属性や聖属性の証の金髪に変わったはず。
クロノ神殿で闇落ちを斃したとき、美弥子は人型のシーグに会って、岸田君だと思って探していた? なぜ?
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