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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

104.珍客

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 疾走する馬に痛めたお尻を心配したカインハウザー様に、今夜もお庭の湯殿を使わせてもらえる事になった。
 カインハウザー様の執務室の前でリリティスさんを見かけたけど、ノドルとの交易のことや明日の祭りのことなどで忙しそうだったので、声はかけずに庭へ出た。

 ドルトスさんのお酒にほろ酔い気分のサヴィアンヌと、筋肉痛にならないよう長めに浸かるつもりの私が、長湯にのぼせないようにフィリシアが爽やかな風を送ってくれる。
 それを見たアリアンロッドが自分がやると言い出して、ふたりで交互に風を送ってくれる。

 こんなに毎日、振る舞い酒や収穫物の試食会をして、王都への納税分や、来年までの蓄えは大丈夫なのかしら。
 そもそも、現代のように、品質保持保管方法が確立されていないのであれば、一度に収穫しても仕方ないのだろうか。
 保存の利く農作物と利かないものがあるのだろう。

 温度調節の焼き石係のメイドさんにお礼を述べてから湯殿を辞し、明日以降の計画を訊ねようと館内に入ると、
「フィオリーナ、ちょうどよかった話がある」
と言ってカインハウザー様に、真後ろに立たれ王宮女官のケープのフードを被らされる。

 館内で、フィオリーナ呼び?

 ウインクを寄こして背をおされ、個人的にカインハウザー様が休憩なさる小さなサロンへ連れ込まれた。

「どうなさったんですか? 私も明日以降の予定を聞きたかったのでちょうどよかったですけど」
「今、ちょっとマズい事が起きててね。事前に精霊をって、確認してから帰るべきだった」
「カインハウザー様が帰宅なさるのに、問題なんか起きるんですか?」
「問題も問題、大神官とミヤコ達三人娘が居座ってるんだ」
「ええ? い、居座る?」

 先日の僧兵達の非礼を詫びる名目で昼前の四の刻(午前10時)から、大神官と大司教が来る事は聞いていた。
 だから、早朝からノドルに避難したともいえる。

「ああ、やはりそれもあったんだね」

 なぜか、祭りと聞いて、美弥子達も見たいと言い出したそうで、大貴族かと思うような豪奢な箱型馬車でやって来た。

 日本人はお祭りと聞くと、血が騒いだり覗きたくなるんです。
 まだ私と美弥子が親が又従兄弟という遠縁だと告げていないので言えないけど、心の中で謝ってしまった。

「参加すること自体はいいのだけどね」

 日が暮れるまで、踊りや振る舞い酒を楽しみ、日が落ちたら参道を帰るのは危険だからと泊めて欲しいと言い出したらしい。

 私やカインハウザー様が商工会詰め所で山芋談義をしていた頃は、教会で休んでいたとの事。
 戻る前に知ってたら、ノドルに引き返していたのに。それはカインハウザー様も思ったらしいけど、みんなには内緒にする約束をさせられた。
 或いは、私と大神殿の確執を知らない人達が、カインハウザー様が帰りたくなくなるのを危惧して、ワザとまだ居るよと連絡してこなかったのかもしれない。

 そのまま教会に泊まるつもりだったらしいけれど、生憎あいにく、巡礼者や収穫祭を見に来た近隣の街の人達が泊まっていて、空きがなかったとかで、美弥子達に質素な宿坊や民間宿に泊まらせるのも気が引けたのだろう、領主館の迎賓室に泊めろと言ってきたらしい。

「厚かましい人達だよ。単に客室という意味で言っているのかもしれないが、呼ばれもしないのに押しかけて来て、迎賓室に泊めろと言うかね」

 まあ、あの大神殿内の煌びやかな内装や、金杯とか思えば、どんな感じで言い放ったかわかる気はする。

「元が国境砦の田舎領地なので、貴賓室などない城砦やかたですので、行き届かないかもしれませんが、と言ってみたけれど、ね」

 お父様が領地として賜った頃は、本当に城壁と砦しかない、住んでいるのも、駐屯兵と下級騎士、その家族と小さな商店くらいだったという。
 教会の司祭も当時からの方で、まだ代替わりした事はないそう。

 確かに、普段使っている、居住区はちょっといいお屋敷だけど、執務室や一般客室、食堂などの領主館として利用されている区間は、実用性重視の武骨で頑強な砦の顔をしている。

「そのフードを被っていると、魔力の放出が抑えられるようだけど、質までは変えられないから、明日の朝追い出すまで、小屋から出ないように」

 家事の苦手なリリティスさんのために、精霊がたくさん居る小屋であるし、裏手の防風林も日時計のある花畑も精霊や妖精がたくさんいるので、そこに隠れている事になった。

「ああ、こんな事なら、ノドルに泊まってくるんだったね」

 まったくである。


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