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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

51.番いとして

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 三人官女と別れ、再び、シーグとサヴィアンヌ、アリアンロッドと新しく仲間になったフィリシアの5人での旅に戻る。

 彼女達にいただいた羊毛織のケープは、防御魔術が織り込まれていて、私の魔力が漏れるのも多少抑えてくれるらしく、今までほど、元素精霊達は寄って来ない。
 感応力も高い人型や獣の形をした大精霊たちは様子を見に来るけれど、フィリシアが丁寧にお断りしてくれる。

 馬車駅の駅舎を離れてみると、なんとなくシーグが注目されているのがわかる。
 どうしたもんかな、と思っていると、シーグは物陰に隠れて、素早く人型に変わった。
「狼の姿だと、手を繋いで歩けない」のが理由らしい。

 確かに、ハスキーなんかよりよほど大きいので街中では目立つだろうし、怖がる人も出て問題トラブルも起きるかもしれない。そのほうがいいと思う。

「馬車代金をケチって狼になったら、屋根の上で仲間はずれだった。もう、人の多いところでは狼にはならん」

 少し拗ねたように、手を握り込んでくるシーグ。

《でも、アンタ稼ぎないデショ? 馬車だって食べ物だって、タダじゃないのヨ? あるのはシオリの蜂蜜の売上だけじゃナイ》

 サヴィアンヌの言葉に、更に傷ついた顔をするシーグ。男の子だもん、プライドだってあるわよね。

「働く。俺も、シオリのつがいとして、家族を養うために働くぞ」

 と言っても、急に仕事があるわけじゃない。どうするのかと思っていたら、サヴィアンヌが大仰に頷き、腕組みして提案してきた。
 
《わかったワ。この国ではネ、定職についてないけど体力のあるニンゲンに、日雇いの仕事を斡旋する機関があるノヨ。とりあえず、そこで登録してみたラ?》

 と言う事で行ってみると、ハウザー砦街でも見かけた『萬屋』に案内された。
 日本人の私には、よろず屋って雑貨屋とか質屋のイメージなんだけど、簡単に言うと、やる事ごとに値段設定のある便利屋か、ファンタジー小説やRPGゲームなんかにありがちな冒険者ギルド的なものらしい。

 中に入ってみると、某竜退治RPGドラゴン○エスト出会いル○ーザの酒場みたいな、酒場と受付窓口が併設された西部劇にでも出て来そうな木造の建物で、例にもれず、二階は素泊まりの宿になっているらしい。

 取り敢えずシーグが登録を申し込むと、名前と住んでいる場所を聞かれるけど、彼には正式な住所がない。この国には木札を持たない人はいないと、カインハウザー様は言っていた。仮に適当に住所を言ったところで、木札がなくては確認がとれない。

 私が、自分の木札を見せると、すぐに、軍人のドッグタグみたいな、金属の板に穴を開けて革紐を通した物をくれる。
 これが、この国の萬屋会員の証明らしい。
 シーグのではなく、なぜか私の名前が刻印されたものだ。
 いえ、私は希望してませんが⋯⋯

「困りましたね。登録をされるには、木札を生まれた土地のおさに再発行してもらってください」
「ない」
「は?」
「どうやっても生まれた土地のおさや世話役には会えないし、たとえ会えても、元々そういった住民票の制度がない」

 シークが馬鹿正直に答える。怪しい人物と思われたらどうしよう。

「この国の出身じゃないんですか?」
「そうだ。今は北の国境に隣接したハウザー城砦都市で、彼女と暮らしている。領主には住民票をとれないかの確認が済んでない」

 シーグが、嘘ではないけど正確でもない事をうまく言い訳すると、受付の女性は、困った顔でこぼした。

「住民票を使ってないって、獣人が多く住むと言う旧ケナルの国みたいな所がまだあったんですね⋯⋯」
「ここで、獣人の姿になればいいのか?」
「は? あの、ライカンスロープ型の獣人族なんですか?」
「誇り高き狼の一族だ」

 言うか早いか、クルッと一回転して、ふさふさのお耳とお尻尾を生やした、金茶の髪の青年姿になる。お耳とお尻尾があると、可愛らしさが加算される。と思ってるけど、きっと言わない方がいいとも思って黙ってる。

「まあ、本当に、獣人だったんですね! 可愛い♡」
「可愛? ──獣の姿だと要らぬトラブルを招く事もあるので、人が多い場所ではヒトガタを使っている」
「わかりました。犯罪歴も無さそうですし、狼系獣人族、現住所ハウザー城砦都市領主館別邸で登録しておきますね」

 どうやら、この女性は、現代日本で言うところの、ケモナーとかもふもふ好きとかって言う人種のようで、シーグへの対応が甘かった。
 何か小さな水晶玉──能力スキル検査サーチド水晶球クリステルより小さく野球ボールサイズ──をシーグに持たせて、犯罪歴なしと判断して、木札を確かめることなく(所持してないのだけど)会員証をシーグに与えた。い、いいの?
 私と暮らしているとは言っても、その事実を確認してないよね?

《突き詰めると面倒くさいシ、いいんじゃない?》

 サヴィアンヌが言うには、あの野球ボールサイズの水晶玉は、過去に犯罪を犯したことのある人や嘘の申告をしている人を見抜く、真実の精霊の力を宿したものらしい。
《まあ、ワタシがついてンだもの、アレに黒い反応はさせないケドネ》
 どうやら、木札を持っていないシーグでも、なんとかなると踏んだ上で、登録を勧めたらしい。さすがというか⋯⋯
 獣人の国では、多産系が多く、また、生まれても全員が大人に成長するとも限らず、いちいち戸籍を保存する習慣はないのだという。
 毛並みと血筋特有の匂いで見分けるのだとか。匂いね⋯⋯

「では、お一人づつ順番に、こちらの玉を撫でてくださいね」

 もふりーとな受付嬢が出してきたのは、懐かしの能力スキル検査サーチド水晶球クリステル。うう、トラウマが⋯⋯
《ダイジョーブヨ。今度ハ、ある程度は反応させるから》
 こっそり耳打ちしてくれるサヴィアンヌに勇気づけられ、手を伸ばすけど、私が躊躇ためらっていたのを気遣ってくれたのか、シーグが先に水晶球に触れる。
 水晶球の内側が、色づき輝き出した。



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