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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

50.友達からの贈り物と友達への贈り物

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 再び乗合馬車に乗って、終着駅『ヴィスコンティン』まで、王都ヴィスコスの街並みを進む。

  浅く陽に焼けた人や白人が多く、あまり肌の色の濃い人種はいないみたい。
 髪の色も、金髪や茶髪、オレンジや赤毛が多く、私みたいな黒に近い暗褐色や漆黒の髪の人は見かけない。
 ロレッタさんは蜂蜜色、ギルビッタさんは暗いオレンジ色で、バレッタさんは淡い灰褐色アッシュブラウンで、三人とも緩く巻いたクセのある髪。
 瞳はギルビッタさんが深い海の色で二人は空色。
 三人とも、宮廷女官のコートとストールが似合っている。

 終着駅は、ダウンタウンのど真ん中にあった。
 途中で数人が降りて、ここまで乗っていたのは、私達と、二人だけ。さすがに王都に入ると、残り二駅で乗ってくる人はいなかった。

「フィオリーナちゃんのおかげで、楽しい旅だったわ」
「また会えると嬉しいわぁ」
「もし、手紙を書くとしたら、ハウザー城砦都市の領主館に宛てればいいのかしら?」
「はい。私も、とても楽しかったです。お世話になりましたし、知らないカインハウザー様のお話を聞かせていただいたのも嬉しかったです」

 三人は、私の手を握って、名残惜しそうにする。
 シーグはここまで狼犬のふりをしたまま、今は足元で、後ろ脚で器用に首の後ろを掻いている。
 サヴィアンヌは、自分が乗合馬車に乗りたいと言ったくせに、とうに飽きていて、蝶のふりでシーグの頭にとまっている。

「そう言えば、フィオちゃん、ずいぶん荷物が少ないけど、着替えは数着しかないの?」
「今はこの国を見て廻ってるんですけど、あまり大きな荷物でいかにもって感じを出したくなくて⋯⋯
 着替えは、アリアンを使えば瞬時に洗濯と乾燥ができますし、よそ行きのドレスも必要ないですから」
「まだ、すぐにはハウザーに帰らないの?」
「もう少し、この国を見て廻ります」
「もう近い内に、急に冷え込むわよ。これを持っていきなさい」

 馬車からおろしたボストンバッグから、みんなとお揃いのケープを取り出して私に持たせる。
 合わせ目の裾の方にある縫取りと刺繍が咒紋になっていて、階級や身分を確認したり、特殊な糸を使っていて、防御魔法がかかっているって言っていた。

「え? 女官のお仕着せなんじゃ⋯⋯」
「これは、城内で着るやつで、貸与品じゃなくて常備の共用消耗品なの。階級咒紋はついてないわ。でも、防寒・防水仕様で、簡単な防御魔法が仕込んであるのは同じ」
「私達、擦り切れたのを着るのは嫌だから、何枚も買って着まわしてるの。その内のひとつよ。気にしないで」
「下級女官なんかも、普通に外套として城外でも普段使いにしてる人もいるからぁ、見咎められたりしないわよぉ」
「階級咒紋がなければ、ああ、魔法防具替わりに使ってるんだな、くらいのもんよ」

 実際、街で魔道具屋で魔術を仕込んでもらうと、庶民のひと月の収入くらいかかるそうで、王宮内にツテのある人は、そこまではしない手頃な値段なので、わりと着てたりするらしい。

「王宮内ではね、消耗品扱いなのよ。秘密よ?」

 それでもそんなに安くはないはず。お小遣いの入った袋を出すと、頭を軽く小突かれる。

「こぉら、お姉さんに恥かかせる気? 素直に受け取りなさい。使い古しなんだから」
「仲良くなった記念よぉ。同じ部屋に泊まった仲でしょお」
「これね、防御魔法陣が仕込んであるだけあってね、着てる人の魔力が漏れるのを防ぐ効果もあるの」
「今よりももっと、精霊がやたらと寄ってきたり、魔力の強い子供を攫おうとする悪い人に目をつけられたりしにくくなると思うわ」

 私のため? 魔力操作が下手で漏れて精霊を寄せ付けるのを心配してくれてるの?
 私は、目に涙をためて、三人にしがみついた。

「ありがとうございます! 三人に出会えたのは、とても幸運だったと思います」
「バカね、幼馴染にしてあげられなかった事を、あなたにして自己満足してるだけよ」
「ひとりでも、バカな上位貴族の犠牲になる子供が減りますようにって、私達の願いなの」
「私達のために受け取ってよね」

 感動して、涙が⋯⋯

「でね、ものは相談なんだけどぉ」

 ん? 感動シーンで終わらない? タダより怖い物はない。交換条件があった?

「フィオちゃん本舗の妖精の蜂蜜を適価で分けていただけないかしら」

 わざわざ商業都市ファーマーズ、市が立つ街マガナとアグィハを廻っても入手できなかったらしい。

「金貨でいいかしら?」
「大金貨までは予算内よ」

 大金貨なんて、一般的な町民のひと月の生活費くらいの価値があるんじゃないの? たかだか蜂蜜で?

 ──カインハウザー様は、幾らで売ってたんだろう

 おそらく、そんなに高価ではないと思う。

 背負袋から、予備のひと瓶を出して、バレッタさんに握らせる。

「今回とてもお世話になった分と、ケープのお礼と、私の新しいお友達への気持ちです。受け取ってください」
「えっ⁉ ウソ、いいの? 今、どこも品切れなのよ?」
「私が旅に出ちゃって、蜂蜜集めしてないからですね⋯⋯ そのご迷惑料も兼ねて、ということで」
「やったぁ! 王妃様に堂々と顔向けできる!」

 え? 王妃様に? もしかして、お使いって⋯⋯

「そう、他にもあるけどね、一番の目的はそれだったの。最近体調が優れないみたいで、噂のフィオちゃん本舗の蜂蜜を、お試しになりたいって仰って」
「今まで売られてたって話の街を順にまわったんだけど、どこもなくて」
「お使い失敗状態で帰るところだったの」

 俯き加減で今更告白するバレッタさん達。

 もちろん、サヴィアンヌ用に持って来てた蜂蜜も、彼女達の分として差し出した。






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