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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
閑話②-2 やはり納得がいかない事だらけ
しおりを挟む頭が痛い。
どうしてだか、あの詩桜里を見てると、イライラするし、気に入らない。
お父さんは家にいる時間が少ないからか、彼女のいいところしか見てないし、お母さんは実の娘と差をつけてはいけないと気を遣いすぎて、むしろ娘より大切にしてる感が否めない。
私の居場所に、音もなくスルリと入って来て、まるで私に取って代わるかのように、当たり前のようにそこに居る。
本当に、なんなの? あの子。
あの、落ち着いたようで妙に甘高い声を聴くだけで、黙ってて欲しいと切に願う自分がいる。
家族にも、友人にも、そんな自分を見られたくなくて、表向き取り繕おうとしても、あの子の姿を見ると、これまで培ってきたものが綻びるのだ。
*****
「詩桜里さん、本当に、放り出されたわよ?」
後から部屋に来るなり、彩愛が非難がましくこちらを見る。
「え? 放り出されたって、どこへ? 先に日本に帰してもらったの?」
検査水晶とやらに名を告げ、その身に持てる能力を測った際、女神の力とやらに染まって元々赤っぽい茶色のふわふわの髪だったのが、漫画みたいにピンク色に変わってしまったさくらも、私の背を摩りながら、咎めるような眼で見る。
「どう思う? 美弥子さん」
「知らないわよ。どうでもいいわ。あの、辛気くさい顔を見なくて済むなら」
「そんな事を言うものではないわ。あなた、責任を持てるの?」
「何の!? あの子の事なんかどうでもいいって言ったはずよ。一人でさっさと日本にでも、どこへでも行けばいいわ!!」
「美弥ちゃん……」
本心だった。そして、あの顔を見ずに済むなら、本当にどうでもよかったし、ホッとした。肩の力も抜ける。
「いくらなんでも酷いんじゃない?」
いやに食い下がるわね。いつもなら、あら、そ?って肩をすくめて終わりなのに。
「詩桜里さん、日本から持ってきた学生鞄も食堂に残したまま、お金も食べ物も持たされずに、裏口から、文字通り投げ出されてたわよ」
「え?」
「うそっ! そんな、酷い」
さくらが、私の背を撫で摩っていたのを止め、彩愛の方に向き直り拳を口元に掲げて、神殿側をか、私をか、批難する。
「一応、処分される前に預かってきたわ。いつか、生きて会えたら、返す事が出来るといいわね?」
* * * * *
その日は3人とも、目まぐるしい出来事にぐったりしてて、そのまま用意された部屋で、朝まですっかり寝入ってしまった。
──いつか、生きて会えたら、返す事が出来るといいわね?
眠れるまで、彩愛の批難がましい言葉が頭の中を何度も繰り返し嘖む。
私だっていっぱいいっぱいだったのよ。
手触りのいい掛布を頭まで被って、一生懸命、眠りが訪れるのを待った。疲れてるのに、体は眠りたがっているのに、頭の奥が冴えて眠れない。
それでも、体は、状況についていけない心は疲弊していたのだろう、いつの間にか眠っていた。
* * * * *
召喚された魔方陣のあった部屋から地下の泉へ、地下から階上の食堂まで、壁にも部屋にも階段にも、窓がなくて息が詰まりそうだったが、私達に用意された部屋は、かなり高い位置にあり、ちゃんと窓もあった。
朝日が眩しく、窓の一つは東を向いているらしい。
「ん~、もお朝ぁ?」
朝に弱いさくらが、寝惚け眼を擦りながら、上半身だけ起こす。
規則正しい生活を心掛けている彩愛は、すでに起き出していて、簡単にベッドを整え、用意された、高級シルクのような艶のある滑らかな法衣を着ていた。
植物や自然界の力を癒しの魔法に変える事が出来る彩愛は、淡い若草色、女神の力を一分借りることが出来るというさくらは、その髪の色に似た薄桜色の、そして私には聖女として聖なる象徴の光を表す生成りの法衣が数着、着替えも含めて用意された。
それにしても、さくらのピンクも、彩愛の青緑の髪も、違和感ないわね。日本人の顔に、おかしいんじゃないかと思ったけど……
私も、さくらほどではなくても明るい色味の髪だったけれど、今では殆ど金髪に変わっている。
現代よく見る白っぽい黄金色ではなく、遺跡などに見られる金細工にありがちな、銅を含んだ赤っぽいオレンジのような、濃くて重そうな、ザ・黄金!って色だ。ゴージャス感もあって悪い気はしない。
「この髪の色にもそのうち見慣れるのかしら」
用意された法衣に着替え、窓辺に立つ。
神殿のそばは森と数本の街道が見えるだけで、町や村は見えない。
かなり標高の高い山のようだ。
扉がノックされ、女性の神官達が入ってくる。
私達は『聖女』や『巫女』として、この国を救う事になるため、国王や大神官などの高官に次ぐ身分なんだと教えられた。
そのせいか、入って来た神官達はみな、頭を垂れた状態だ。
「おはようございます、聖女さま、巫女様方」
恭しく傅かれ、大神官や大臣の言ったとおり、まるでお姫様のような扱いだ。
「ん~、もうご飯?」
「ほら、さくら。しゃんとして」
朝食は、昨日豪華な食事をいただいた大きな部屋ではなく、この寝室に続くリビングに用意されていた。
果物、野菜、なにかの獣肉の燻製をスライスしたもの、柔らかいテーブルパン。
飲み物は、お水と果物を搾った天然のジュース。
どろっとした固形脂肪分の濃いヨーグルト。
とても満足だった。その瞬間までは。
*****
「どう言うこと!?」
信じられない事が起こった。
昨日は、異世界だという事が嘘なんじゃないか、ドッキリ企画か何かで担がれてるんじゃないかって疑うくらい、スムーズに会話が進んでいた。
ところが、一夜明けてみると、コミュニケーションをとる事が困難になっていた。
「本当に、なにが間違っとるのか判らんのです。
召喚術も、こちらの知識を植え付ける魔術も、間違いなく正常に働いたはずなのですじゃ」
大神官と呼ばれていた老人は、ペコペコと頭を下げ、低頭平身謝り続ける。
「巫女様方は、こちらの言葉を理解しておられるんですな?」
「そうね。普通に話せてる、と、思うけど?」
神官達やお城から来たと言う大臣達が、頭を付き合わせ、ゴニョゴニョと話し合っている。
いったい、なんなの?
代表者だろう、大神官と大賢者の二人が、申し訳なさそうな、情けない顔でこちらを振り返る。
「誠に言いづらい事なんぢゃが…… 本当に、原因が解らんのですぢゃ」
「ん、もお。はっきりしないわね」
「なんなの?」
再度、大神官と、大賢者が視線を合わせ、頷き合い、こちらを見る。眉はこれ以上ないくらい下がっていた。
「いいですかな、心して聞いてくだされ」
「ぢつは、儂らには、巫女様方の話す言葉が、まったく解らんのですぢゃ」
──はあ?
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
45.恩人への、初めての隠し事⑨
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