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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
44.恩人への、初めての隠し事⑧
しおりを挟むにっこり
にっこり、きらきら
精霊達の飛び回る姿が透けて見え、きらきらとしたエフェクトのようになっているカインハウザー様と、にっこり笑顔で何も言わないリリティスさん。
なんだか、圧を感じる。
「今日は、一日畑にいたのかな?」
「水田……もう水を落としていたので、ただの田んぼですが、ノルお爺ちゃん達と雑草とりをしていました」
夕飯の時に、一日の出来事を報告するのはいつもの事なんだけど。
お二人の笑顔が、いつもより1.5倍増しのような気がする。
「タンボだけ?」
なにか、確信を持って訊いているんだろうか。
嘘は言わない、言いたくないことや言えない事は言わなくていい、だもん、まだ、狼犬の事は言わなくていいよね?
「この辺の習慣になれてないシオリにはピンとこないようだけど、本当に危ないから、あの花畑には行かないようにね」
花畑に行ったこと、バレてるのかしら。それとも、ただの注意喚起?
「……はい。わかりました」
私の大好きな、しゃが芋のマッシュサラダも味がしない気分になる。こんな事は初めてだ。
狼犬の事を黙っているから、なんとなく後ろめたく感じるのだろうか。
「三鈴達が元気になるまで、連絡がとれないと困る事があるかもしれないから、畑に行くときは、わたしか、ヒラス達と一緒に行くこと。
街にお遣いに行くときは今まで通りでいいけど、街の外へはあまり行かないでくれ」
「街のお外はって、畑も、ですか?」
中世ヨーロッパの国と同じように、この街も、民家や商家のある辺りを中心に、工業地や倉庫街などが広がり、人の生活圏を高い壁で囲んでいる。
畑や牧草地などは、壁の外で、毎日、農民達は日の出と共に街の外へ働きに行き、日の入りまでに街に戻ってくる。
「大神殿に近い村から、闇落ちの魔怪化した獣が出た。大型犬が、確認されたのは二匹」
「こないだの?」
「二匹のうち、一匹は神官戦士達のおかげで、攻撃性を無力化して捕獲、今は活動を停止しているらしい」
「どうやって? 巫女は……さくらさんは巫女の力を使いこなせているんですか?」
美弥子が『聖女』の力を開花させていても、さくらさんが『巫女』の力を開花させていても、それはこの国にとっては朗報だろう。
「まだ、正式な発表はないんだ。大神殿はなにを考えているのか……」
「わかっている事は、大神殿からこちらへの最初の村から発生したこと。
次の村で、民に犠牲が出ていること。穢れに感染した人は……」
凄く言いにくそうに、いたましげな顔で俯く。
「消化に悪いだろう、先に食べてしまおう」
カインハウザー様に促され、完食したものの、なにを食べたか殆ど覚えてない。
* * * * *
リリティスさんの話では、詳細は、近隣の街にも伝えられていないのだそう。
神殿近くのあの陰鬱な村。エフィゲル村と言うらしい。昔の有名な奉仕信者の名なのだそうだ。
道理で私が居心地悪かったはずで、大神殿の僕のような信者が集まった村だとか。
そこで飼われていた犬が穢れに感染して、闇落ちのと呼ばれる「魔怪」になって暴れた。報せからすぐ神殿から討伐隊が出たが、神官戦士の持つ、神気を帯びた武具にすぐに逃げ出したらしい。
その数刻後、こちらへの街道を次の小さな村──エナル村に現れ、家畜が少しと村人が何人か襲われた。中には子供も混ざっていたとか……
が、どうやったのかは伝えられなかったが、無力化に成功して、一頭は捕獲して処置出来たらしい。
その時、一頭は逃走。
神官戦士の神気を帯びた武具に身を削られ、あのゾンビのような腐肉と皮と骨の獣に成り果ててもなお、吐き出す瘴気と身に帯びた穢れの感染力は凄まじく、追撃は諦めたという。
「追撃を諦めたとは言うが、アレは放置できるものではない。通常であれば、滅するまで捜索するべきで、確実に仕留めなければならないものだ。
もっとも、現在この国にそんな力を持っている者は、表向きいない事になってるが」
──表向き
それは『聖女』美弥子や『巫女』さくらさん、『癒し手』彩愛さんの、あの3人の事だろう。
どうしてだか、国の新しい希望として、苦労してやっと成功した聖女召喚の事は、秘匿されたまま、未だ公表されていなかった。
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
45.恩人への、初めての隠し事⑨
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