63 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
27.神子の戦乙女と、守護獣④
しおりを挟む「私がお願いしても聞いてもらえなかったけれど、カインハウザー様なら……」
「無理だと言っただろう?
どうしてもと言うなら、いずれ、君が出来るようになればいい」
聞き分けのないシオリをおさえ、引き寄せようとしても、振り払って、瘴気に捕食される妖精を泣きながら見ていた。
「一人一人、名前があって、言葉を交わしたお友だちなの…… 友達が、死んでいくのを黙ってみてるなんて。耐えられない」
「なら、見なければいい。聞かなければいい」
小柄な少女ひとり、リリティスを除くこの場の誰でも、簡単に連れ帰ることが出来る。
仕方ない。
シオリを縦抱きに抱え上げ、馬まで運ぶことにした。
「やだっ! 離して。あの子達を助けるの!!
リリティスさん! 大神殿から、あの子達をよんで! 助けてもらえるよう頼んで!
……でなきゃ、精霊との交信の仕方、今すぐ教えて!!」
無茶な事を言う。リリティスは精霊術は使えないし見えないのだ。精霊の「魔法」の一部を借りる技術「魔術」しか使えないのだ。教えようがない。
大神殿も、異界の巫女達の存在を秘匿しているのに、貸せと頼むとは、なぜ知っているのかの問題から、シオリの存在が向こうに知れるだろうし、もっとややこしいことになる。
《シオリが、もっとちゃんと、精霊と同調して、魔力や霊力を共有出来るようにならなきゃムリよ。ここは、セルティックの言う通りよ、あの子達は可哀想だけど、今は諦めなきゃ……》
サヴィアが説得にかかる。私の代わりに憎まれ役に……ではなく、本気で言っているのだろう。三鈴も声は出せないままだが、何度も頷く。
「シオリ。感傷で、無理を言わないでくれ。君には現実味がないかもしれないが、本当にどうにも出来ないんだ。ああやって取り込まれたら、君もわたしもみんな、この世から消え去ってしまうんだよ」
馬の鞍に座らせ、その後ろに私も乗り、背後から支える。このまま、街まで帰ってしまおう。
その意を汲んだのだろう、この場にいる者総てが馬に乗り、ヒラスとドルトスは先に走り出す。
リリティスも、酢を飲んだような顔をして、駆けだした。
進行方向に馬を巡らせようとした時、シオリが、喉を詰まらせるような悲鳴をあげた。
振り返ると、骨と皮と少しの腐肉になって尚、闇落ちの山犬だった残骸が蠢いたのだ。
──マズいな
あの状態で進まれれば、今は追いつかずともいずれ、畑を野を穢し、街道を瘴気に変えるかもしれない……
「アレが、追いかけてきたら、どうなるの? みんな、お花畑や妖精達と同じになるの?」
「……そうだ。だが、アレを食い止める方法が、光や闇の精霊を使った結界魔術を組んで、その内に閉じ込めるか、巫女に浄化させるしかないんだ。本当に。
そして、この国には公式には巫女はいない。非公式に大神殿に隠されている、サクラだったかな? その子が能力を使いこなせるようになっていれば、花も地も妖精も、元には戻らないが、アレと、アレに穢されたものは世界に帰る。女神の掌に戻って、新たな命になれる」
「光と闇の精霊の結界魔術……」
まさか、シオリを追っているのか、闇落ちの残骸が、にじり寄るスピードを増したように見えた。
かなり、マズい状況かもしれない。
だが、シオリを置いていくわけにもいかないし、かといって、アレに追いかけられるのも困る。
「あっ……ああっ ダメよ! やめて!」
シオリが、再び過剰反応を示す。
シオリが名付けし、わたし達3人の花飾りに棲む白絹草の妖精達が生まれた親花に、届きそうな位置にまで、瘴気溜まりが拡大していた。
人や犬のような、精神と肉体が別にある生物は、精神が先に喰われて、屠る事の出来ない悪鬼となるが、妖精は妖気と魔力とマナで出来ている。そのまま丸ごと穢れに染まって瘴気の一部になるのだ。拡大スピードが速すぎる。
シオリが慈しむ事で、この花畑は普通の野よりも多くの妖精が存在していた。小さいが、妖精の国と言ってもいいくらいだ。
「やめてやめて!! あの子達まで死んでしまう! そんなの嫌っ! ダメなのぉ」
シオリは両親を亡くしたばかりだ。
身近な者が死する事に敏感なのかもしれない。
その時起こった事は、いつまでも追いつかないわたし達を心配して振り返ったリリティスと、わたしと妖精達しか見ていなかった。
泣き喚くシオリを、仕方なしに気絶させて強引に連れ帰ろうと肩を引いた瞬間、わたしとシオリの眼が、同調した。
いつかの妖精を視る訓練で行ったあれと同じだ。
こちらの呼吸が止まりそうなくらい強い力で、わたしの中の霊力と、リリティスにも劣る僅かな魔力がごっそりとシオリに吸い取られ、シオリが視る世界と、わたしの脳裏にある精霊と交信できる第三の眼ともいえる感覚が、馬を通して地から吸い上げるマナをエネルギーに拡大して繋がる。
「これが、精霊の声…… これが、精霊の、営む魔法と世界の絆……」
わたしの胸や腹に、背をぴったりとつけて、全体重を預けたまま、シオリが世界を視る。
わたしを通じてシオリが視ているのは、光と風の精霊が視ている、世界と瘴気溜まりだった。
「クラクラする……」
人間は空を飛べない。宙に自由に存在し溶けるように飛びまわる精霊の視る世界は、貧血にも似た倦怠感と体中を攪拌されるような不快感と、僅かな高揚感を与えた。
わたしは、子供の頃から慣れているが、シオリは初めてだろう。グッタリとわたしに身体を預けたままだ。
このまま街に帰ろうにも、わたしも身体が動かせない。
見なくても視える、瘴気が触手のようにその一部を伸ばし、震えながら、白絹草に近づいていく。
「……………!!」
シオリはなんと叫んだのか。後から聞いても、先に行くドルトス達も、リリティスにも解らなかったという。
光の精霊と風の精霊が、融合して1つの塊のようになり、光の刃と化して、瘴気溜まりを撃ち貫く。
あまりの眩しさに、眼を脳を灼かれるような痛みと熱さと、何か言葉に出来ない開放感を味わった。
🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯
次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
28.神子の戦乙女と、守護獣⑤
50
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる