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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
26.神子の戦乙女と、守護獣③
しおりを挟む瘴気を祓うことは精霊の巫女以外不可能。
闇落ちとなった「魔怪」は、巫女が神の力で瘴気を祓って後、巫女の騎士が精霊の刃をもって屠る以外に、滅する事が出来ない。
その事実は、シオリを絶望の底に突き落とすには充分だったのだろう、フラついたかと思うと、地に手をつき、打ちひしがれる。
「……唯一の手立てである、女神の祝福を受けた巫女が、国を守り巫女を守り抜くと誓った巫女の騎士が、この国にはいないんだ。
助けてやりたくても、助けられる力を持っている者が、この国にはいないんだよ」
ドルトスはそう言った。事実だ。
だが、わたしとリリティスとシオリだけが知っているもう一つの事実。
大神殿が先月行った大召喚術『聖女召喚』
大神殿には異界から取り寄せた、癒しの巫女と精霊の巫女、そして『聖女』がいるという。
彼女達がその能力を開花させていたなら、対処できるのかもしれない。
とにかく、瘴気溜まりが活発になると、全滅しかねないので、ここは一旦離れる事にした。
立ち上がって膝や脛についた土埃を払う。
「リリティス。神殿の誰かに、伝令を飛ばせるか?
ハウザー砦街の南東の畑に瘴気溜まりが発生。花畑と妖精の多くに被害。現在もなお、妖精を取り込みながら成長中、精霊術士の派遣を要請する、と」
もちろん、精霊術士で浄化は出来ないが、精霊を多く使った魔方陣を敷く事で、瘴気の成長拡大を抑えることが出来る。
指示を出し、地に両手を突いて蹲るシオリを回収するため手を伸ばす。
「主っ。緊急事態です! 大神殿北東のエナル村に闇落ちの魔怪、大型の犬が二頭襲撃!
……村人に被害が出ているようです。一頭は、大神殿の神官戦士が無力化捕獲、一頭は、村の外に逃亡、現在、詳細不明……」
リリティスが顔色を悪くして読み上げる。
大神殿への瘴気発生の伝達を、シオリを取り囲む風の精霊の一人にさせた所、別の情報を持って帰ってきた。それが、大神殿からここまでシオリが歩いてきた2つ目の村に、闇落ちの山犬が二頭出現、被害者ありと言うものだった。
しかも発生源は、大神殿近くの信者の村エフィゲルだという。
「無力化・捕獲──とは? 浄化、退治ではないのか? 残りの一頭が、アレならいいのだが……いつのことか判るか?」
「巫女がいないのに、浄化は無理なんじゃないか?
それよりも、どうやって無力化したのか、捕獲してどうするのか、の方が俺は気になるが……」
ドルトスの疑問はもっともだ。無力化となると、恐らく、シオリを嫌ったという異界の聖女だろう。
捕獲という事は、浄化、滅するにはまだ力が足りなかったのか『聖女』の能力は巫女とは違うのか。
「シオリ、ここは危険だ。街に戻ろう」
へたり込むシオリの腕を引き、立たせる。
「巫女が、さくらさんがいれば、助けられるの?」
「……わたしの知る巫女と同じ効力の能力を持っているのであれば、すでに取り込まれ消滅した花や妖精を取り戻す事はかなわないが、あの瘴気を浄化する事は出来るだろう」
揺れる眼でわたしを見上げるシオリ。
「巫女に精霊の加護がつきものだと言っていましたけど、とっても精霊に好かれる、カインハウザー様ではダメなのですか? わたしは、まだ精霊に聞いてもらえませんでした」
「わたしは、精霊に好かれる体質だが、精霊使いや巫子……女神の巫部にはなれないね。精霊術士にすらなれない程度の魔力しかない」
泣きそうな顔でわたしを仰ぎ見るシオリ。
ため息が出るが、仕方ない。納得させなければ、この場を去る事に素直に従わないだろう。
「サクラと言う巫女や聖女が、その持てる力を使いこなせるようになっていれば、可能だろうね。
だが、まだ、世間に彼女達の存在を公表しないのは、訓練中なのかもしれないね。
リリティスに大神殿へ瘴気の報告はさせたから、巫女達が浄化出来るようなら、自分達の生活にも関わる問題だから、ちゃんと派遣されてくるよ」
たぶんね。とはつけなかった。わたしは嫌われているだろうから、来るにしても後回しにされるだろう。エナル村に被害も出ていることだし。
「もし、さくらさんが、美弥子がまだ、力を使いこなせていなかったら?」
「シオリ。とにかく、一度街に戻ろう。ここのことは、大神殿や王都に相談して……」
「まだ、助けられるかもしれないのに、見捨てて行くなんて……」
こう言えるところが、異界人なのだろう。
自分の友人が、家族が、愛する者が、姿はそのままに、人ではないものに変わり果て、地を野を生き物を、異質なモノに変える怪物になってしまうおぞましさを知らないのだ。
一度そうなってしまっては、浄化して世界に帰すしかないのに、助ける方法などないのに、その恐怖を、怒りを悲しみを、彼女は知らないのだ。
己に力がないと知りながら尚もまだ、どうにかしたい、方法を教えてくれと望む。
力が足りない事を知りながら、他の方法はないのだと聞かされてもまだ、瘴気にのまれ、穢れに感染して生物の枠を外れた存在に成り果てる、それがどういう事なのかも解らず、助けたい、と望むその願いが、純粋な子供であるがゆえと大目にみてやれるほど、簡単なものではなかった。
これが他のことなら、知らないのだから仕方ないなと笑ってやれただろう。
子供の戯れ言だと聞き流せただろう。
だが、これだけは、そんな簡単なものではないのだ。
知らないという事は、こんなにも愚かなのか。
わたしは、初めて、シオリの純粋さに、虚しさと悲しみを、失望と怒りを感じた。
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
27.神子の戦乙女と、守護獣④
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