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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

19.知っている事と黙っている事⑫

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 まずは、シオリに、この世界の魔術がどういったものなのか、精霊の営む『魔法』と、その力の一部を抜き取って行使する『魔術』の違い、そこから理解してもらう。
 その基本が解らないと、他の説明もついて来れない可能性がある。

「わたしは、母が、精霊を視たり会話したりする力を持っていて、まあ、これは秘密なんだけどね」
「えっ!? それを私に話していいんですか?」
 眼をまん丸に見開いて驚いている。
 わたしが精霊への眼を持っているのは今まででも判っているだろうが、それが秘密だとは思わなかったようだ。
 深くつっこまれて、秘密にしている理由を訊かれると困るのだが、話せない事は判るのか、訊ねては来なかった。
 本当にこういう所は助かる。

「シオリはあちこちで言って歩いたりはしないだろう?
 勿論、わたしが精霊を視たり彼らの話し声が聴こえる事は内緒だよ?」
「ソ、ソレハトテモ重大ナ秘密デスネ?」
 青ざめながら、カタコトで確認するシオリ。
 脅かしてしまったかな?
 頭をゆっくり撫でて力を抜くよう促す。

 わたしが視る者だとは、軍部でも、身近にいた者なら何人かは知ってる。
 が、彼らの内緒話を聴いたり、願い事ヽヽヽをしたり、特定の精霊を呼びつけたり出来る事は、腹心の部下である副官のリリティスしか知らない。勿論、領主館の使用人達も知らない。執事長は父の代からの忠臣だ。或いは察しているかもしれないが……

 とりあえずこの国の魔術レベルが他国に比べて低いこと、魔術の素となる魔法を営む精霊に働きかけられる者は希少で、幼少の頃から国や大貴族に囲われるか、生まれた土地の者総勢で隠匿されるかだという事。
 魔術は、呪紋や呪文で、精霊が従わねばならない『法則』を仮固定する技術ヽヽであり、研鑽する事で向上したり発展したりする事。
 魔法は自然界の法則であり、どんな存在であってもその力には不干渉である事。

 技術である魔術を使うには、大気や大地に満ちたマナや、使う人の魔力と少しの霊力が必要な事。

 マナとは自然界の生きとし生けるものすべてを包み込む生命の絆の力で、これに影響されない存在は確認されていない事。

 リリティスが、昨夜の麻痺霧弾パラライズウェブを作り出して実演しながら説明する。

「実際、大魔道士って呼ばれる人達は、本が好きで勉強が好きで、好奇心旺盛で何事にも深い興味をもって1つのことに没頭できる、とても勤勉な人が多いかな?」
「興味のない事には無頓着で、協調性の欠片もない偏屈変人が多い も付け足した方がいいんじゃないかしら?」
 にこやかに話してはいるが、リリティスの目が笑っていない……
 魔術の師の事を思い出しているのだろう。

「で、シオリに言っておくけど、魔術ヽヽでもって、魔道で強制的に精霊達を使役する、精霊術士エレメンタラーは少なくてもそれなりに居るけど、精霊に好かれ、精霊と会話し、精霊に直接働きかけられるヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ精霊使いアークシャーマンは、生まれた時、或いは特性が発覚した時点で、周りから大切に隠匿されて、その存在は公に おおやけ は確認されていない……事になってる」
「なってる?」
 まず、精霊術士が手元に居れば、精霊に感知させる事は可能だ。なにせ精霊に好かれる体質だ。放っておいても精霊が集まる。
 魔術の縛りもないのに異様に精霊が集まる特定地点には、精霊に好かれる体質の人物がいる可能性が高い。
 その事に気づいたシオリが、青ざめるを通り越して土気色になり、その華奢な肩を抱く。

「精霊を視る者からしたら、精霊達に居心地がよくてつきまとわれる君は、大精霊使いアークシャーマンか、精霊の巫女エレメンツシルビスに見える事だろうね」
 ロイスが感涙して膝を折ったように。
 シオリがさせた訳でなくても、彼女の望む声を精霊は勝手に聞き分け、気紛れに魔法を営み、加護を与え、いつくしむ。

「今後、どこへ行ってもそう見られるかもしれないと自覚しなさい」

 重要人物である『聖女』がシオリを嫌い、彼女のために大神官に放逐するのだとされた以上、シオリは精霊を引き連れて目立つ訳にはいかない。
 精霊とうまく付き合っていってもらうしかないのだ。

「わたしはそんなに魔力が高くないからね。修行してまで精霊術士エレメンタラーになろうとは思わなかった。
 それでも精霊を視る力はなくなる訳ではないし、好かれる体質が変わるわけでもない。
 彼らと上手く付き合う方法を覚えるしかないのだよ」
「大神官さまの言う巫女シルビスって、神さまの力を代行して、魔獣や魔属に憑いた異界からの悪意や瘴気を祓うんですよね?」
「そう言われているね。直接会った事はないけど、昨年の大討伐遠征で見かけた時、加護する精霊が少ないのが気になったかな?」
「巫女って、みんな、精霊が憑いているものなんですか?」
「神が力を貸し与え、加護を与えた存在なら、精霊達も好んで関わりたがるはずだがね」

 ──さくらさんが検査水晶サーチクリステルに触れたとき、ピンク色に輝いて髪まで染まったのは、きっとその、神様の加護を受けたとか精霊の祝福をもらったとかだったのかしら。
 シオリが首を傾げる。
 異界から来て、検査水晶サーチクリステルに触れることで女神から受けた祝福、能力スキルが開花、精霊の加護を受けて髪の色が変化したという事だろうか。

「神殿にいる巫女はサクラと言うのかい?」

 気になったので訊いただけだったのだが……

 目に見えて、シオリが動揺した。



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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 20.知っている事と、黙っている事⑬
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