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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

13.知っている事と黙っている事⑥

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 バレてた!! そんな顔をして、血の気が引いていく。真実の精霊が自分の考えを読んで教えているのかとか、自身の隠している事まで筒抜けなのかと青ざめているようだが。

「ああ、そんなに怯えたり困ったりすることはないよ、なんでも教えてくれる訳じゃない。嘘かどうかを教えてくれるだけなんだよ、普段はね。
 ……ただ、イタズラ好きな個体にあたると、面白がって今みたいに、君のプライバシーに深く係わることでなければ教えてくれる事もあるんだよ」 
 今回は、わたしが落ち込むのが面白くて態々わざわざ告げたようだがね…… 
 まあ、生きるため領地のためには、とりあえず地位を築く事で、自分に出来ることの内、馬術と剣術そう術は、幾つかの選択肢の幅があるので、よそ事をする余裕もなくそればかりやって来て、若者らしい事は殆ど知らずに育ったが……
 
「え、えと、少し日に焼けた精悍な顔立ちが落ち着いた大人に見えるって言うか、爽やかな笑顔と低めの声が大人の余裕を感じるというか……」 
「ははは、ありがとう。昨年まで、馬に乗ったり剣を振り回したりする仕事に就いていたものでね、日焼けは仕方ないかな。
 大声を張り上げることも多かったので、喉も荒れてね、前はもう少し柔らかい今よりもちょっぴり高い声だったんだよ」 
 子供に気を遣わせてしまうほど、態度に出してしまっただろうか?

 ──馬に乗ったり剣を振り回す職業って……剣士フェンサーとか騎士ナイト
 さくらちゃ~ん!! こんなところで、緑がかった青銀せいぎんの瞳が知的で黄金の髪が神々しい、去年まで馬に乗ってたらしい元騎士様に逢いましたよ!!

 本人は小声のつもりだろうがやや高揚していて、精霊のせいもあって、しっかり聴こえてしまった。リリティスもこちらを覗うところをみると聴こえていたのだろう。
 子供でもこういうところは女なんだな……

「金と銀のキラキラ騎士様なんて女の子にモテそうなのに……」 
 「お褒めにあずかり光栄なんだけどね、そうでもないんだよ、これが」 
「鬼将軍って怖がられてましたからね」
 奥方と思われていた秘書官のリリティスが笑いを堪えるように付け足す。 
 今の流れにそれは必要な情報か?
「リリティス」 
「いいじゃありませんか、もう退役して半年ほど経つのですし、事実でしょう?」
 せっかく『ロイス』 気のいいお兄さん を装ってるのに、怖がられたらどうするんだ。

「部下の人達に鬼将軍なんて怖がられるくらい厳しい方なんですか?」
「そんな事はないんだけどねぇ?」
「愚かな者が多いだけですわ。 あるじが特別厳しいとか暴君だとかって事ではありません」
 澄ましてニッコリ笑う我が秘書官。その様子で、なんとなく察したらしい。

「それで、あの……」 
 呼びかけようとして呼び方に困ったようだ。そう言えばまだ名乗ってなかったな。

「あ、すみません、申し遅れました。私の名前は詩桜里しおりと言います」
「シオリちゃん、ね。可愛い響きだね。こちらも遅れたね。
 わたしはセルティック・ヴァル・カインハウザー。今はこの、ハウザー城塞都市の地方領主さ」
 ある程度の予想はしていたのだろう、表情、特に眼を輝かせる。

「カインハウザー様は、見ず知らずの私を泊めてくださって、……とてもありがたいのですが、後々私が棘になって、神殿と揉めたり立場が悪くなったりしたらと心配されないのですか?」
 神殿から穢れと言われて棄てられた人物を匿う、腹に一物ある奴だと、神殿や心ない人達に捏造されたりするかも……そう心配して口ごもる。

「それは君は心配しなくていいよ。もう退役してるからそれほど王宮で権力があるわけでなし、態々わざわざ、田舎に引っ込んだひなびた地方領主を貶めるようなひまな人はいないさ」
「……だといいですわね、鬼将軍さん」
「誰だって、万人に好かれるなんて事ある訳はないだろう。いつもの軽口だとわたしは解るが、このタイミングでそういう言い方をするな。シオリが不安になるだろう」
 口元もニッコリ澄まし顔で、いつもの軽口をたたく秘書官リリティス。わたしが這いもしない赤児の頃からの付き合いの気安さに、案外辛辣な毒舌を吐くこともある。

 少女がなにやら感心して納得していると、メイドが入ってきて、皿や茶を片付け始める。

 屋敷内の事をすべて任せている家令、執事長のセルヴァンスが、食事の用意が出来たと伝えに来た。

「食事が出来たようだ、行こうか」

 元騎士だと看破されたからか、つい無意識にあの頃のようにスッと立ち上がり、自然に手を差し出してしまった。
 シオリは一瞬ためらったが、そっと手を重ねてくる。リリティスやメリッサに比べて小さく、温かくて柔らかいほっそりとした手。だが、指の腹に働き者の痕跡がある。家事を一手に担っていたと言う環境を思い出した。

 壊してしまわないよう軽く握り、引くようにして立ち上がるのを助け、必要以上に丁寧にならないようやや大袈裟なほどの身振りで、それでも自然に肩に手を添えて案内エスコートした。

 エスコートする姿もちょっと格好よくて似合ってて、お貴族様ではなかったけれど退役軍人の地方領主様だもの、私から見たら貴族と変わらないよね。

 精霊のお節介が、またシオリの独り言を聞き取りやすくしてくれる。

 やはり、このくらいの歳の少女は、物語の清廉潔白な騎士や勇猛果敢な勇者のような姿に憧れるものなのだろう。

 ロイスのように明るくて気安い好青年感を出し、諸侯の令嬢や姫君を相手にする時のように、近過ぎず遠からず、壊れ物のように丁寧に扱ってやれば、多くの令嬢達がそうであるように、キラキラした眼で見上げ、頰を染めて理想の『騎士様』像を己の中に重ね作り上げていくだろうか……
 いや、ものを冷静によく見る、さかしいところがあるようだし、そう簡単には心を開きはしないだろうか。

 いずれにせよ、知識もないままにほいほいと神殿の者の手には渡せない、希少価値のある「可哀想な」子供だ。
 せめて、精霊や妖精との付き合い方やそれらの使い方、自身の持てる力のコントロールを教えてやるくらいはした方がいいだろう……わたしが適任とは言い難いが、そもそもこの国に精霊使いエレメンタラーはいないのだから仕方ない。

 神殿の者とそう変わらぬ、欺して利用するようで気はひけるが、このままコントロールを知らずにめぐを自由にして、その存在を失ってしまったり、或いは政治や信仰に利用されたり、魔獣討伐の最前線に駆り出されたりするよりかは良かろう。
 そのついでに、我が領地に恩恵と守護を授けてもらうだけだ。

 無理強いはしないから……
 出来れば、わたしかリリティスに懐いてくれるとやりやすいし、快く自ら進んで魔を払ってくれたり恩恵を与えてくれるとありがたいのだが。

 

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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 14.知っている事と、黙っている事⑦

*** *** *** ***

 セルティックのセリフがルーシェみたいな硬いものになるのを、日を変え何度も読み返して訂正するのに、仕事の連勤多忙も含めて10日以上かかってしまった……😭

 それでもまだ、少し違和感あるような気も……


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