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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
12.知っている事と黙っている事⑤
しおりを挟む少女の話を要約すると……
体の弱い母親は産褥でより弱くなり、病気がちであった。
父親は生活のための仕事と、病弱な愛妻の世話に忙しく、放置されがちに育った。
急変した母親を医師の元へ運ぶ途中に車(馬かエロローンに箱型のキャビンを引かせていたのか?)が事故を起こし、その際に両親は亡くなった。
親しい身寄りもなく子供が自活出来るはずもないため、遠縁の者に預けられる事になったが、その移動中にまた事故に遭い(不運なことだ)、意識のないまま、現在地も解らずに大神殿に保護されたくだりは作為的なものを感じないでもない。
どの時点で目をつけたのかは解らんが、この子供を狙って、何者かの手で「事故」を起こしたのかもしれない。
結局放り出した訳だが……
能力検査水晶球が初めてみる反応だったからといって、穢れだと判断して放り出すなど愚の極み……
こんなに精霊に愛されているのに、穢れているはずがあるか? やはり書庫に籠もるばかりの頭でっかちどもは愚かだな。
もっとも、この子供にしたら、その方がよほどよかったに違いない。
そのまま保護されていれば、阿呆どもに言いくるめられて神殿内に軟禁、定期的に魔獣討伐に駆り出される日々を送らねばならないだろうからな。
この子供の精霊達の加護は、前任の巫女とは比べものにならない。今は精霊に働きかける能力はないようだが、訓練すれば、当代一と名高い隣国の巫女も足元にも及ばない、歴史に名を残すような神子にもなれるだろうに。
勿論、彼らに態々教えてやるつもりもないが。
聞いた感じ、大神殿の澱みと閉鎖的な空間を嫌った精霊が、この子供を囲われるのを良しとせずに、検査水晶球に干渉して邪魔したのだろう。
そんな事も解らないのか、神官達は……
精霊を視、聴き、話せる私だからこその推測で、精霊と交流のない者には解らんのかもしれないな。
「放り出されても、羽衣を取り上げられずに食糧までいただけて、少しだけホッとしました。
途中通過した村は、1つ目は、どこか陰鬱で監視されてるような気になって、立ち止まることも話しかける事も出来ませんでした」
この子供の言う村──1つ目は、エゲフィル村の事だな。
確かに、あそこは神殿の目だからな。街道を通って神殿へ向かう人間に不審者がいれば、早足が伝達に走る。同じように、神殿から通達があれば、探している人物や警戒対象を捕獲、或いは極秘裏に処理することも厭わない連中だ。
とどまれないと判断したのは正しい。
2つ目は、寒村で、この子の言うとおり、子供ひとり養うにも厳しい。
元は、神殿に逆らった者達を監視するために設けられた集落だったが、いつの間にかうち捨てられたものだ。
特産品も、交易するような工芸品もなく、村人はみな人はいいが、痩せた土地を棄てて移転したり、何かを作り上げようという向上心もない、ただただ日々を生きるだけの村。
恐らく神殿や学者達が何世代にも渡って操作して来た結果、刃向かう気持ちも開拓する気力も奪われた、飼い殺されている者達。
どうやら、書物を糧に生きてきたというだけあって、思慮深く、観察力はあるらしい。
「どうにもならない、仕方のないことではありますが、日も暮れて来たし、こちらの旦那様と奥方に拾っていただけなかったらと思うと……本当に感謝してます。
ああは言いましたが、本当にどうしようかと困っていたんです」
旦那様と? 奥方? 誰の事を言っている?
まさか、わたしとリリティスの事か!?
「……じゃない」
「はい?」
「これは妻ではないし【奥方】と【旦那さま】ではない。わたしはまだ独身だよ。子供からしたら、そんなにオジサンに見えるかな?」
子供はョトンとした顔で、わたしの目と、リリティスの目を交互にみて、ハッとした。
「ごめんなさい。実は、大人の男の人の年齢はよく判りません。
父は年の割に若く見える方だったし、遠縁の小父さんは逆に老けて見えたし、子供からしたらって、私も、そんなに子供に見えますか?」
なんと……!
この子供にはわたし達が夫婦者に見えたのか。しかも、よもや、30をまわった中年、父親と同じくらいだと思っていたというのか。引き合いに出すということはそうなのだろう。
そこまで考えが及ぶと、真実の精霊がにっこり微笑んで頷く。
《ウフフ、可哀想なセルティック。この子ったら、貴方のこと、30歳より幾分越えた中年だと思ってたミタイネ♬ このくらいの子供には、セルティックは、オジサンなのネ~》
つい肩を落としそうになるが、顔をあげて、とりあえず訂正する。
「……コレはわたしの秘書官兼目付役で、わたしはまだ22歳で、コレとは親子ほどではないにしろだいぶ歳が離れている。
君は、わたしの半分くらいかな?」
「そこまで子供じゃありません。今年の秋に15歳になります」
「そうか、立派なレディに子供扱いは失礼だったかな。女性の年齢は難しいな……
君もわたしの事は結構オジサンだと思ったようだね」
「いえ、そこまでは……ただ、夫婦かなと思ったから旦那さまと言っただけで、お屋敷の旦那さまだと知っていたとかオジサンだと思った訳では……」
「すまないが、先程、君の言葉に嘘がないか、真実の精霊を降ろさせて貰ったんだ。君は、精霊には居心地のいい性質のようだね、実はまだ居るんだよ。
その精霊が、笑いながら教えてくれたのだけど、わたしの事は中年男だと思ったようだね?」
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
13.知っている事と、黙っている事⑥
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