21 / 34
✿ワンライ関係
・「手料理」と「ディナー」
しおりを挟む――今夜、早めに帰って来れます。
スマホの画面に浮かび上がった彼からのメッセージに千尋崇彦は胸を弾ませた。
仕事と仕事の合間に、料理を習い出したのは、彼が自宅に現れるようになったからである。最初は、レトルトのルゥを溶かしてカレーをつくるくらいしかできなかったが、今では、それ以外のレパートリーも増えた。
最低限の調理器具しかなかった台所にも、ものが増えて来たし、何より、料理を始めてからその奥深さにはまりはじめている。同じ食材であっても、料理の仕方でなんと様変わりすることか――。
「よし! 何にしようかな」
忙しい彼とスケジュールが合うことはめったにない。普段、一緒にいられないからこそ、こういうちょっとした時間でも、心が燃え上がる。
何を作ろうか。頭のなかに浮かんでは消えていく、あれやこれや。そんな妄想を始めた千尋は、次の瞬間、うっと息を飲んだ。
――もし、千尋さんさえ、よければ、久しぶりにどこかで食事でもしませんか?
「あー、うん。そうだねえ」
自分が作る気満々でいたのだが、彼から食事の誘いが来た。
――俺、先輩から美味しいエスニック料理屋、教えてもらったので、よければ……
うん、いいよ。
千尋は、そう返信してしまった。
✿
「千尋さん、今日、何かありましたか?」
新しくできたばかりの店内は洒落ていて、絞られたライトの下で見る新崎迅人は、より大人びて見えた。そんな彼が、運ばれてきたばかりのバッタイに手をつけ始めた千尋に向かって、こう尋ねてきたのだ。
「え? 別に、何もないけど?」
「そうですか? ……なら、いいんですけど……」
するどい。千尋は思わず苦笑しながら、料理に口をつけた。
「あ、美味しい」
「本当ですか! やった!」
嬉しそうに無邪気にはしゃぐ新崎を見て、千尋も微笑む。
「よかった~。いつも、俺が早く帰れる日って、千尋さん、夕食準備してくれるじゃないですか」
「え、ああ、うん」
「毎回毎回、なんか悪いな~と思って。たまには、俺が! って思ったんですけど、俺、料理巧くないし、美味しいお店ってなかなか知らないし」
「めちゃくちゃ美味しいよ」
「やった~! あ、もう、じゃんじゃん、頼んでいいですからね! 俺もじゃんじゃん頼みますからね」
いや、そんなに食べないから。
そう思いながらも、胸がぽかぽかしてきた。
「新崎くん」
「はい、おかわりですか?」
色々頼みまくったテーブルの上はカオス状態である。新崎がきょとんとして聞いてきたので、千尋は笑った。
「そうじゃなくて。ぼく、こう見えて、料理作るの好きなんだよ」
「へえ~。えっ!」
「ああ、いや、あの、今日は誘ってくれてありがとう。だけど、その……新崎くん、いつも美味しそうに食べてくれるから、ぼくは料理作るの、好きです」
「へ!? あっ!?」
多分、彼の口にした料理のせいだ。香辛料が入っているからね。かーっと突然、顔を赤くした新崎に、千尋は笑った。
(了)
20220820創作BL版深夜の真剣一本勝負「手料理」「ディナー」
3
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる