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・屋敷編

Mon-3

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「そこで何をしている」
 太い声に、周囲は一斉にそちらをふりかえった。
 まずい。やつらだ。黒い服を見つつんだ使用人たちが、騒がしい食堂の人垣をあっきわけて、現場の中心へと姿をあらわした。
 さすが、屋敷の番犬なだけあって、手際よく暴れる彼らを抑え込む。
「待て! 俺は何もしていない!」
 そのとばっちりを受けて青年も後ろから羽交い絞めにされるはめになった。普段から脱走の前科もあり、こういうときに真っ先に疑われる身である。
「待って! 彼は仲裁しようとして……」
 飛び出してきた芹那が、事情を話せば、納得いかないという顔をしつつも、使用人は、弥助を解放した。
「たっくよぉ」
 彼らに抑え込まれるのが、日常と化してはいるが、今回みたいなのには悪態をつきたくなる。自分を拘束しようとした使用人にむかって、彼は睨みをきかせた。
「……しかし、また客の取り合いか。お前ら、わかっているんだろうな」
 使用人たちに、おさえつけられた少年たちの顔面から血の気が引いていく。
「上に報告しておく。おそらく、ペナルティ、だな」
 そんな、と小さな彼の唇が震えるのを青年は見た。



「あれは、よくある話って感じだったな」
 芹那とともに食堂をあとにして、廊下を行きながら、彼は話しかけた。
「うん、まあ、太っ腹な客ってのは、ありがたいものだから。いいお客を取られたら、そりゃむかつくけどさあ」
 芹那はなんどもないように言うが、弥助はため息をついた。
「それにしても、さっきはすごかったね」
 少年はそんな彼にあどけない笑顔を見せた。
「躊躇なくふたりの間に入っていくの、すごいびっくりした!」
「あ、ああ……」
 面食らって、青年はたじろぐ。
「かっこいいよ、さすがだね!」
「そりゃどうも」
 めんどくさそうに弥助は自身の頬をかいた。あれだけのことで、大袈裟なやつだ。
「でもさあ」
 芹那がちょっと困った顔になった。
「あれで、きっとまた、噂が飛び交うんだろうなあ」
 青年は苦笑した。ここの連中は刺激に飢えている。すこしでも事件が起これば、屋敷中にその話題はひろがってしまう。
「あ」と、芹那が小さく声をあげた。
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